※スマイラー123号(2026年6月)より転載
現場の当たり前を徹底し、カラオケ再生から飲食業へ
川島社長が経営者として歩み始めたのは、1997年頃、大手企業による寡占化が進んでいたカラオケ業界において、赤字に苦しむ個人経営のカラオケ店を「ゼロ円」で引き継ぎ、再生したことからであった。その後も次々と赤字店舗の立て直しを成功させ、2002年には、ジャスダックに上場していたある会社のカラオケ事業の再建にも携わることとなる。当時、川島社長はまだ20代という若さである。彼を動かしていたのは、根拠はないが揺るがない自信だった。
川島社長が現場でやったことは、変わったことや派手なことではない。とことん「当たり前のこと」をきちんとやることだった。みずから店長として店に立ち、誰よりも寝る間も惜しんで店を守った。すると目に飛びこんできたのは、営業時間なのに電気がついていない、掃除が行きとどいていない、電球が切れたまま放置されているという「経営」以前の「ほったらかし」の店の姿だった。川島社長は、それらを一つひとつ、愚直なまでにきちんと直していった。ただ「当たり前」を徹底する。それだけで、店の売り上げはまたたく間に2倍、3倍へと伸びていった。1店舗の成功が次の仕事を呼びこみ、経営に苦しんでいる大手企業の事業を「ゼロ円」で引き取るなど、次々と立て直しを成功させていったのだ。この時期の経験が、「再生型M&A」を軸に成長を続ける今のガーデンの土台となっていった。
川島社長は「もともと飲食が特別に好きだったわけではない」と語る。ラーメンに夢中だったわけでもなく、飲食店をやりたいと思っていたわけでもない。彼が飲食業界に入ったのは、現実的な「経営の判断」の結果であった。きっかけは銀行からの相談である。貸したお金が返ってこなくなることを心配した銀行が、赤字会社の立て直しを川島社長に頼んできたのだ。川島社長は「カラオケも飲食も、もとになる原則は同じだ」と考えた。実際に現場を見に行くと、そこにはかつてのカラオケ店と同じように、基本的なことすらできていない、すさんだ店があった。彼はそこに、立て直せるという確信を見いだした。
このとき、川島社長には右腕と呼べる幹部がいた。カラオケ事業を任せられる仲間が育っていたからこそ、彼は知らない世界である飲食業の立て直しに、全部の神経を注ぎこむことができたのだ。川島社長はふだんから「会社を大きくしたい」という夢を部下に語り続けていた。その言葉に応えた部下たちが、「社長に新しい仕事をさせてあげるために、自分たちが今の仕事を引き継いでいこう」と、自分から動いて既存の事業を支えた。こうした仲間の存在があったからこそ、彼は次の挑戦へと踏み出すことができたのである。
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孤独な決断の先にあった大きな危機
経営の道を進む中で、川島社長は「師匠」をあえて持たなかった。業界の交流会のような集まりにも一切興味を示さず、孤独な決断をくり返してきた。すぐれた経営者の本から学ぶことはあっても、誰かに答えを求めることはしなかったのだ。
そこには、逃げ道を断つという覚悟がある。誰かに相談して決めてしまえば、失敗したときに「あの人がそう言ったから」という言い訳が生まれる。それを極端に嫌った川島社長は、すべての判断を自分一人でおこない、その結果を一身に引き受け続けてきた。この孤独な戦いが、彼のずば抜けた判断の速さを育てた。失敗の責任がすべて自分にあるからこそ、真剣勝負の質が上がる。誰にも頼れないという状況が、かえって、ずばぬけた「判断力」と「決断力」、そして何事にも動じない「強い精神力」を、彼の中に鍛えあげていったのである。
ところが、順調に拡大を続けていたガーデンに、最大の危機が訪れる。リーマンショックのあとのことだ。この時期、川島社長は「仕事に飽きてしまった」と、告白している。店をいくら増やしてもゴールが見えず、何度もくり返される資金繰りの苦労にうんざりしてしまった彼は、経営の第一線から退き、現場を部下にまかせて、少しずつ前に出ることがなくなっていった。
しかし、創業した社長という「重し」を失った組織は、あっという間に崩れていった。数年後、川島社長の耳に届いたのは、会社が崩壊するという知らせだった。彼が戻ってきたとき、会社は60億から70億もの借金をかかえ、翌月にはお金が足りなくなって倒産してもおかしくない、しかも、皆喧嘩をしてもうどうしようもない状態だったそうだ。
川島社長は「自分が立ち上げた会社である以上、最後まで責任を取る」と決意し、社長に復帰した。そこで彼は痛感する。自分が飽きてしまったのは、はっきりとした「目的」と「目標」を持っていなかったからだ、と。
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1兆円の志を支える組織のかたち
立ち上がり直すことを誓った川島社長が掲げたのは、これまで以上に厳しい目標であった。「2030年代に時価総額1兆円を達成し、日本一の飲食企業になる」という志である。
彼が「売り上げ」ではなく「時価総額」という指標にこだわるのには理由がある。時価総額こそが、その会社が社会の中でどれだけの価値を持つ存在なのかを、もっとも分かりやすく表す数字だからだ。日本一の価値を持つ会社になることで、彼は飲食業界全体の社会的な地位を、根もとから変えようとしている。
今の飲食業は、親が自分の子どもを働かせたがらない業界になってしまっている。川島社長はこの現状に挑もうとしている。給料の水準を大きく上げ、働く環境を整え、他の業界からも優秀な知見が集まるような「憧れの職業」へと押し上げる。そのための「行動」として、彼は日本一の証である時価総額1兆円にこだわっているのだ。「結果が出なければ、誰も信用してくれない」。その冷ややかなまでの現実への目線が、彼の執念を支えている。
川島社長の組織の動かし方は、とても自分に厳しく、すみずみまで考えられている。彼は毎日4時間から5時間かけて、数十名の幹部からの業務報告に目を通し、一人ひとりにひとことずつ言葉を返す。この細やかなやりとりを20年以上、1日たりとも欠かしたことがない。一方で、川島社長は店長や現場のスタッフと直接ふれあうことを、あえて避けている。これは物理的な限界だけではなく、組織の上下のしくみをきちんと働かせるための意図的な戦略である。
「部長や課長にまかせている以上、自分が直接口を出すのは筋がちがう」というのが彼の持論だ。社長が直接指示を出せば、間にいる管理職の権限は形だけのものになり、組織としての自立性が失われてしまう。川島社長は自分の考え方を、まずは部長や課長にとことん伝え、彼らに「社長の気持ち」を現場へ届けてもらう役割を託しているのである。また、彼は労働環境の「ホワイト化」も強く進めている。休日や夜間の連絡を厳禁とする一方で、仕事のスピードには一切の妥協を許さない。金曜日までに圧倒的なスピードで仕事をやり切れば、休みを引きずる必要はないのだ。この「ホワイト化と戦闘力の両立」が、川島社長の組織運営の大きな特徴である。
再生を通じて変わる人が生み出す組織
ガーデンの成長を語るうえで欠かせないのが、積極的なM&A、つまり、ほかの会社を買い取って自分たちの仲間にすることである。川島社長が好んで対象にするのは、主に従業員が疲れきってしまった赤字会社だ。
買収のあと、彼は従業員にある「約束」をする。数字を改善し、そこから出た利益はすぐに給料や働く環境の改善に充てる、というものだ。東京チカラめしの買収のときも、1年半前から戦略的に交渉を進め、確信を持って決断を下した。
実際に、川島社長の手によって店が活気を取りもどし、約束通りに給料が上がると、それまで暗い顔をしていた従業員たちが、見るみるうちに生き生きと働きはじめる。その「人の目が変わる瞬間」を見ることこそが、川島社長にとって経営の醍醐味であり、「M&Aは楽しい」と言いきる理由なのである。
川島社長は部下に対して「会社のために頑張れ」とは決して言わない。むしろ「会社と同じ方向を向けないなら、自分の人生のために他の道を探せ」と、突き放すような厳しさで一人ひとりの自立をうながす。
「自分の人生をどうしたいのか」という問いが、すべての出発点であると彼は考えている。個人の目的と会社の目的が重なったとき、そこに最も強い熱量が生まれる。彼は今も、その熱量を共有できる仲間とともに、わくわくしながら夢を追い続けているのである。
経営とは終わりのない課題解決の連続であり、現実から目をそらさず行動し続ける者にしか、1兆円の景色を見ることはできない。川島賢という経営者は、外食産業の見られ方を塗りかえ、「憧れの職業」へと押し上げるために、これからも誰よりも早く、誰よりも手を抜かず走り続けていくにちがいない。
住所:東京都新宿区新宿2-8-8 ヒューリック新宿御苑ビル4階
https://gardengroup.co.jp/
2024年東証スタンダード上場 証券コード:274A
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