低コストで効果の高い店頭販促。人手がかからない効率性も魅力
自店に興味のない人をどう引き付けるかが重要
現在、イートインと並ぶ収益の柱作りとして、テイクアウトに注力する飲食店は多い。一方で、その販促方法については手探りで、あまり真剣に考えていないというケースもあるのではないだろうか。“店頭販促のプロ”としてコンサルティングを行う中村心氏は、「テイクアウトを店頭で効果的にアピールできている店は、まだまだ少ないと感じます」と語る。「よく見かけるのは、『テイクアウトできます』という表示だけを出して、詳細が分からないケース。特に新規のお客様にとってみれば、どんなメニューがあるのか分からないため、立ち寄りづらくなります」(中村氏)。看板やファサードなどから消費者が受ける印象は大きく、テイクアウトの利用にも影響する。だからこそ、ただ単に「テイクアウトできます」という張り紙を出したり、商品を並べるだけでなく、「店頭をフル活用して魅力的に見せる工夫が不可欠」と中村氏は訴える。
ホームページやSNSで詳細を告知する方法も有効だが、これらは万能なわけではなく、店のアカウントの既存フォロワーなど、限られた人にしか情報が届きづらいという欠点も。また、「電話番号などを店頭に表示しているから、分からないことがあれば問い合わせてくれるだろう」と、客側のアクションに期待することも避けるべきだという。中村氏は、「実際に問い合わせてくれる人もいますが、そうしたお客様はごく一部。大多数の人はそこまでの労力を割きません。“自分の店は、自身が思うほどお客様に知られてはいないし、興味を持たれていない”という前提に立って、販促を考え直す必要があります」と話す。
具体的なツールとしては、看板やタペストリー、ボード、のぼりなどがあり、いずれも、いったん設置すれば継続して効果を発揮し、人手がかからない効率の良さがある。「例えば人の行き来が多い通りに面した窓際に販促物を置けば、営業時間内だけでなく24時間365日、道行く人にアピールできます」(中村氏)。また、人と人との接触なしに、商品のアピールや情報のアナウンスができる点は、コロナ禍の現状にも適している。
各種ツールの中で、テイクアウトのアピール用に中村氏が勧めるのは、A型看板に代表される店頭ボードだ。導入や運用のコストが比較的安く、少し工夫することで高い効果が期待できるため、初心者でも取り入れやすいことがその理由。加えて、自由に書いたり消したりできるため、例えば自治体の要請で営業時間や定休日に急な変更があった場合も、臨機応変に対応して最新の情報を発信できる。これは印刷物にはない店頭ボードならではのメリットだ。「店頭は、お客様と店の最初の接点。手書きの店頭ボードを使えば、人の温もりやお店の個性も伝わるため、お客様への“歓迎の意思”を示すことができます。その示し方次第で、テイクアウトの売上も大きく変わってきます」と中村氏は話す。
ブレーキ・アピール・キャリー。3つの要素を盛り込み訴求力アップ
想定ターゲットに合わせ、情報を絞り込むことが重要
販促ツールとして高い効果が期待できる店頭ボード。では、そこにどのような情報を盛り込めばよいのだろうか。まずは基本的な考え方を押さえておきたい。ボードに必ず盛り込むべきものとして、中村氏は「ブレーキ要素」「アピール要素」「キャリー要素」という三つの要素を挙げる。
一つ目の「ブレーキ要素」は、道行く人の目や足を止めさせる、最も目立たせたい要素のことで、例えば「テイクアウトできます」といった一言がこれに当たる。二つ目の「アピール要素」は、商品やサービスの魅力を伝え、購買意欲を喚起する要素。どのようなテイクアウト商品があるかや、それぞれの特徴が分かる情報のことを指す。そして最後の「キャリー要素」は、消費者が持つであろう不安や疑問を解消し、利用しやすい印象を抱かせるための要素。例として、「待ち時間なしでお渡しできます」「事前に予約できます」といった案内や、電話番号・営業時間・定休日などの情報が該当する。「『気軽にお立ち寄りください』といったメッセージも、親しみやすい印象を与えるキャリー要素の一つです」(中村氏)。
注意したいのは、三つの要素として具体的にどのような文言が適しているのかは、店によって異なること。「だからこそ、店頭ボードを作る上では、まず自店のターゲットを明確にイメージすることが大切です。その上で、ターゲットに響く自店のテイクアウト商品は何なのか、ターゲットが知りたい情報はどのようなものなのかを考え、三つの要素に分類して落とし込むようにしましょう」と中村氏はアドバイスする。「例えばターゲットが近隣のオフィスで働く20~50代の女性で、ヘルシー志向の人が多いならば、カロリーや塩分量といった情報をアピール要素として表示するのも一案です」(中村氏)。
逆に、ターゲットを広げ過ぎ、情報をあれもこれも盛り込んだ店頭ボードは、分かりにくいものになりがちだ。「“アピールポイントをたくさん書いておけば、そのどれかが見る人の興味に引っかかるはず”と考える人は多いのですが、これは誤解。情報を多く提示すればするほど、それぞれのアピール力は下がってしまいます」(中村氏)。店頭ボードの効果を高めるためにも、想定するターゲットに合わせて、伝える情報を絞り込むプロセスが重要になる。