2025/01/09 コラボ企画

日本初の居酒屋チェーン「鮒忠」“焼き鳥の父”が作った、居酒屋の源流とは

昭和20年代はじめ、高級料理だった焼き鳥を日本で初めて大衆向けに販売し、後に“焼き鳥の父”と呼ばれた人物をご存知だろうか。「鮒忠(ふなちゅう)」の創業者、根本 忠雄 氏だ。「鮒忠」は、日本初の居酒屋チェーンでもある。現代の居酒屋文化の原型を作ったと言っても過言ではない。根本 忠雄 氏の孫であり、現在、株式会社鮒忠の代表取締役副社長を務める安孫子(あびこ) 由実 氏に話を伺った。

URLコピー

※スマイラー106号(2024年11月)より転載

4回の徴兵を生き残った男

「鮒忠」では、国産ウナギを生きたまま仕入れ、熟練の職人が毎日店内でさばく。注文を受けてから蒸しあげ、職人が肉質を見極めながら備長炭で丁寧に焼き上げる。たれは、創業当時からの秘伝の味

「祖父は、まさに波乱万丈の人生を生きた人です。まだ第二次世界大戦が始まる前、満州事変後から日中戦争にかけての時期、3回も徴兵されたんです。最初の徴兵では、生きて帰ることができるかもわかりませんから、独立して商売を広げていた米屋を売って、そのお金を母親に渡して戦地に向かいます。幸い、生きて戻ることができましたが、商売はまたゼロからのスタートです。それが、その後2回も起こったわけです。さらに、第二次世界大戦が始まり、戦況が厳しくなると、米は統制品になり、個人で商売することができなくなります。そこで統制品から除外されていた川魚の商売を始め、なんとか軌道に乗りはじめたところで4回目の赤紙が届きます。戦地から帰国したのは終戦後。東京は焼け野原になっていました」(我孫子氏)。

根本氏は、帰国後、再び川魚の商売を始める。露店や行商でコツコツと稼ぎ、浅草千束町にバラックの店を立てた。「鮒忠」の誕生だ。何度もの危機的な状況を乗り越え、ゼロからのスタートを繰り返して、ようやく小さいが確かな商売の牙城を築いたのだ。この忍耐力と向上心は驚異的だ。どんな状況でもあきらめずに前向きに行動し続けた結果だろう。しかし、肝心の焼き鳥はまだ登場しない。鮒忠は、ウナギやドジョウなどの川魚を扱う店だった。焼き鳥を販売するようになった経緯はどうだったのだろうか。

▼ぐるなび公式アカウント▼
【LINE】ぐるなび通信デジタル
【X】  ぐるなび - 飲食店様のお役立ち情報
よろしければ、ぜひ友達追加/フォローをお願いします!

「焼き鳥」の誕生

“焼き鳥の父”の味を継ぐ唯一無二の味はウナギ同様、備長炭を使って秘伝のたれで焼き上げる。「もも」や「ねぎ間」はもちろん、芳醇な脂のうま味を楽しめる「皮」や「手羽先」など、さまざまな部位が楽しめる

「川魚は、冬になると捕れなくなります。それで冬場をしのぐ商売として始めたのが『焼き鳥』でした。当時、鶏肉は高価でしたので、庶民が食べていた焼き鳥は鶏でなく、野鳥の肉や内臓などを使ったものでした。ですから、鶏肉を串に刺して10円で売り出したのですが、評判になって飛ぶように売れたそうです。ウナギと鶏という鮒忠の2枚看板は、この時から始まりました」。

戦前までは、鶏肉は牛肉よりも高級品だった。現在のように手頃な値段になったのは、日本にブロイラーが導入されてから。当時は、アメリカが駐留軍の食事のためにブロイラーを日本に持ち込んだことで、安い鶏肉が少しずつ市場に出始めたまさに最初の時期だった。

焼き鳥は、その後、大衆向け料理として日本中を席巻していく。多くの焼き鳥店が誕生し、酒場の定番メニューになっていく。焼き鳥人気のおかげで、「鮒忠」は、バラックの店から二階建てに変わり、1階を販売店、2階を飲食店にした。飲食店を始めたことで、「鮒忠」の売上は飛躍的に伸びたそうだ。この飲食店では、根本氏が考案したもう一つの鶏料理「鶏の丸むし焼き」も大ヒットした。

ぐるなびからの最新情報を受け取るのはLINEが便利!
配信頻度は、週1~2回ほど。ぐるなび通信の新記事や、旬な情報が通知されて便利です!ぜひご登録ください。
「ぐるなび通信デジタル」
ご登録はこちらから

そして、「食鶏の父」へ

鶏問屋でもある「鮒忠」では、産地から直接仕入れている。焼き鳥に使う鶏肉は宮崎県産の日南鶏を中心に国産鷄を使用。大ぶりの切身を串打ちした「豪傑焼き鳥」が名物だ

そして「鮒忠」は、さらなる進化を遂げる。鶏肉の卸売業を始めたのだ。「焼き鳥が大人気になって、鶏肉が足りなくなってきたので、商社と一緒に当時黎明期だった産地をめぐり、処理工場を含め食鳥産業に参入し、卸売業を始めることになりました」。

根本氏は、米屋で丁稚奉公をしていた時に、独立の難しさを実感していたこともあって、早い段階で「のれん分け」のシステムを作って、従業員の独立を支援していた。「鮒忠」が居酒屋チェーンの走りといわれるゆえんだ。その後、アメリカのFC理論をいち早く取り入れて、フランチャイズ展開を本格的に進めていくことにもなる。

一時はFC店だけで100店舗、のれん分けや直営店と合わせると200店舗を超えた。その他、「鮒忠」で修業した後、違う名前で独立した人も多く、そうした店も数えると「鮒忠」関連店は400店舗を越えていたのではないかと安孫子副社長は言う。もちろん、そうした店にも食材を卸した。卸売業は次第に大きなビジネスに成長していった。昭和50年には、関東の三大荷受として日本全体の鶏肉卸市場で業界トップの占有率10%だったというから驚異的だ。

「店舗数が増えて、卸売業が拡大していくと、鶏肉を大量に確保する必要性が出てきました。売るものがなくては商売はできませんから、私たちはブロイラーの生産にも関わるようになります。生産指導ですね。農家などにブロイラーの飼育方法を教えて、育ててくれたら買いますよ、とやるわけです。こうして日本のブロイラーの生産を拡大し、安定供給できるよう助力したのです。二代目社長で私の父である根本 修司は、黄綬褒章を賜ったのですが、その理由の一つに『養鶏農業の振興への寄与』も実績として評価されていたそうです」。

“焼き鳥の父”は「食鶏の父」でもあった。鶏の唐揚げや照り焼きなど、おいしい鶏料理が、居酒屋で安く食べられるのは根本 忠雄 氏と「鮒忠」のおかげなのかもしれない。


老舗の誇りを胸に秘めて

『鮒忠』浅草 花戸川店の店先にて。初代根本 忠雄 氏の孫である、株式会社鮒忠の代表取締役副社長の安孫子 由実 氏

現在、「鮒忠」は大衆居酒屋ではなく、鶏と鰻の専門店として新たなフェーズに入った。

「これまでと同じように、今後もずっと大衆に寄り添う店でありたいと考えていますが、戦後と違い、大衆は豊かになり、社会は成熟しました。今は心も満たされる料理が求められています。そうした時代の変化に応えていくことは大切です。昔は甘いものが喜ばれましたが、今は甘すぎると逆に敬遠されることも多いです。量も多ければいいという時代じゃなくなりましたよね。昔と同じことをやっていては、時代に置いていかれます。今は、老舗としての誇りやプライドを胸に秘めつつ、手間をかけたスローフード的な料理を提供しようと方向性を少し変えています。高級料理ではありませんが、しっかりした料理を出そうと考えています。和食の技術や、食材の奥深さなど、世界に向けて日本の食文化を広めることも私たちが担うべき役割だと思います。私たちは創業79年目になりますので、飲食店(焼き鳥居酒屋)、鶏肉卸売業としても最も古い部類に属すると自負しています。そういった意味でも、規模の拡大ではなく、時間軸での存在意義に価値を置いて経営しています」。

「江戸の粋」を感じる店内は、招木札や提灯を飾るなど、装飾にもこだわりがある。店内奥には艷やかな木目が印象的な、小上がりのテーブル席が用意されており、靴を脱いで上がるため、くつろぎ感があると好評だ

「鮒忠」は、常に大衆の方を向いて、大衆が喜ぶことを目指すことで成長してきた。根本氏は、儲けは薄くてもたくさんの人に喜んでもらえることを優先したそうだ。コツコツと堅実な商売をしていたことが、高度経済成長の時代に後押しされたのだろうと安孫子副社長は言う。

「フランチャイズのお店の方で、祖父と共に働いた社員が祖父の書いた色紙を大切に持っていましてね、そこには『積み重ね』と書いてありました。この教えを守ってきたからこれまでやってこれた、と言っていました。その店は派手な繁盛店というわけではありませんでしたが、地元のお客様に深く愛されていました。「鮒忠」も同じだったのだろうと思います。目の前のお客様に喜んでほしいと考えて商売をしていたから、多くお客様に愛していただけたのだと思います」。

お客様に寄り添い、おいしいものをできるだけ安く提供しようという姿勢は、現代の居酒屋にも通じる。居酒屋の源流の一つが、確かにここにある。

取材協力:鮒忠 浅草 花川戸店
住所:東京都台東区花川戸1-6-4
TEL:03-3844-4127
https://r.gnavi.co.jp/9wnakuhw0000/

■飲食業界誌「スマイラー」

“飲食店の笑顔を届ける”をコンセプトに、人物取材を通して飲食店運営の魅力を発信。全国の繁盛店の紹介から、最新の販促情報、旬な食材情報まで、様々な情報を届けている。毎月15,000部発行。飲食店の開業支援を行う「テンポスバスターズ」にて配布中!

「スマイラー」公式サイトはこちら!

Googleビジネスプロフィール(GBP)の運用代行サービスは、ぐるなびで!

ぐるなびによるGBP(旧Googleマイビジネス)を活用したMEO対策・クチコミ対応を含む、飲食店に特化した集客支援・運用代行サービスを紹介します。

【ぐるなび】飲食店向けGoogleビジネスプロフィール(GBP)集客支援・運用代行サービス

飲食店の集客や販促は「ぐるなび」におまかせください!
資料請求・お問い合わせはお気軽にどうぞ

「ぐるなび通信」の記事を読んでいただき、ありがとうございます。
「ぐるなび」の掲載は無料で始められ、飲食店のあらゆる課題解決をサポートしています!