2023/08/07 特別企画

外国人の主張「日本の男性には、もっとしっかりしてほしい!」~スペイン料理店「エル・カステリャーノ」~

食文化や民族性は国ごとに異なり、自国の常識は他国で通用しないことも。40年以上日本でスペイン料理店を営む「エル・カステリャーノ」のオーナーシェフ、ビセンテ・ガルシア氏が、”日本流とスペイン流”について語る。

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みそ汁の不思議

 「初めて日本に来た時、一番驚いたのは、みそ汁が食事の最初から最後まで食卓にあること。スペインでは、家庭の食事でも順番がある。前菜やスープを先に食べて、それからメイン。みそ汁のようなスープは飲み切ってから、次に移ります。だから、みそ汁が最後まで食卓にあって、しかもおかずや白米を食べ終わった後に、また飲むことにとてもびっくりしました」。

 そう語るのは、パエリヤなどのスペインの家庭料理を日本に広めた立役者の一人でもあるビセンテ・ガルシア氏。東京・青山の人気スペイン料理店「エル・カステリャーノ」のオーナーシェフだ。「不思議な国だな、とも思いました。日本に来た当時、スペインの音楽やダンスが流行っていて、テレビで人気の時代劇でもBGMにフラメンコがかかっていました。日本人のフラメンコダンサーもたくさんいた。日本人に、スペイン文化が好きな人がこんなに多いのはなぜなんだろうと」。一方で、これだけスペイン文化が愛されている国なのに、本格的なスペイン料理店がほとんどないことにも驚いたという。このことはガルシア氏が、日本で店を始めようと考えたきっかけにもなった。

ロマネ・コンティのサングリアなんて

 ガルシア氏が来日したのは1970年代半ば。高度経済成長は終わっていたが、経済大国になった日本には、ヨーロッパからたくさんのビジネスマンが訪れるようになっていた。そんな外国人への対応のアドバイザーとして日本のホテルなどで働いた。

 そんなある日、日本人のあるVIPがやってきた。彼は食事と一緒に高級ワインのロマネ・コンティを頼んでいた。ガルシア氏がスペイン人だとわかると、なんとそのロマネ・コンティでサングリアを作れと言い出す。さすがにそれはもったいないと断るが、相手も引かない。当時の上司からもいいから言われたとおりにしろと命じられたそうだが、成熟したワイン文化の中で育ったガルシア氏には、それはワインへの冒涜(ぼうとく)でしかなかった。ガルシア氏は頑として断り続けた。結果、これが原因でクビになる。

 この後、ガルシア氏は「エル・カステリャーノ」をオープンさせる。1977年のことだ。今なら、日本にもワイン文化は育ってきたので、何百万円もするワインでサングリアを作ろうなどと思う人はいないと思うが、当時の日本人は、まだサングリアは安ワインで作るものだということも、それを高級ワインで作ってしまっては味わいが台無しになることも、理解していなかったのかもしれない。

日本流とスペイン流

生ハム。伝統的なスペイン料理にこだわる

 「日本人は、いろんなものを食べたい、飲みたいという願望が強い。だからアルコールもビールから始まって、白ワインも赤ワインもウイスキーや焼酎もいろいろ飲みたいと考える。オープン当時は、まだマリアージュなんて言葉もほとんど知られてなかったので、料理に関係なく、じゃ次は白くださいなどという頼み方をする人が多かったんです。次はメインの肉料理であっても。居酒屋でいろいろな日本酒を飲み比べするような感覚だったんでしょうね。でも、日本人がすごいと思うのは、いや、ここは赤を続けた方がいいとアドバイスすると素直に聞いてくれること。むしろ教えてくれてありがとうと感謝される。だから、日本で商売はじめて40年以上になりますが、深刻なトラブルにあったことがありません。日本人はすばらしい」。

 「エル・カステリャーノ」には、料理の注文の仕方にも、あるルールがある。最初にすべての注文をして、途中で追加注文をしないこと。これも日本特有の居酒屋文化に由来する。とりあえず煮込みと焼き鳥を頼んで、後で口直しの漬物を頼むということは居酒屋ではよくある。しかし順番のあるスペインではそれは非常識。しかも、一から手作りの「エル・カステリャーノ」では、たとえばパエリアを作るのに40分はかかる。急に頼まれても急に作ることはできない。最初にすべての注文を終えることが、おいしく、楽しく食べるためのコツなのだ。

 「今はそういう頼み方をする人はほぼいませんが、昔は本当に多かったですね。最初の注文時に言いますし、メニューにも書いてあるんですけど、それでも追加注文をするお客様はいました。そのたびにできない理由を話すのですが、うるさい外国人だなと思われていたかもしれません(笑)。ここは日本ですが、せっかくスペイン料理店に来ていただいたんですから、日本流でなくスペイン流を体験してほしかった。だって、その方が絶対おいしいんですから」。

  • 壁一面に客の落書き
  • オープンの1977年から、46 年分

 「エル・カステリャーノ」には、ざまざまな国の客がやってくる。その誰もがここではスペイン流に従う。そしてガルシア氏を中心に笑顔の輪が広がっていく。人種も性別も超えてみんなが笑顔になる。

 「でもね、日本人の男性にはもっとしっかりしてほしい。うちに来る男女混合のお客様は、カップルでもグループでも女性がリードしています。女性の方が食への興味が強いんだと思いますが、スペイン料理のことをよく知っていて、だから注文も食べ方も、女性がリードしちゃうんですね。せめてパエリアの取り分けくらいは男性がやってほしい」。

取材協力:「El Castellano(エル・カステリャーノ)」
https://r.gnavi.co.jp/a051600/
東京都渋谷区渋谷2-9-11インテリックス青山通ビル2F 
03-3407-7197

※株式会社テンポスホールディングス刊「スマイラー」86号より転載

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