2019/04/09 特集

ドリンクと料理のマリアージュはもっと自由に! 進化するペアリング(2ページ目)

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銘柄や酒器、提供温度タイミングなど日本酒をトータルコーディネート

はなおか [東京・大塚]

来店客の好みに合わせて日本酒を選ぶのが“はなおか流”。メインの「合鴨ロースト ふき味噌」では、しっかりとした味わいが好きな人には、純米酒「天狗舞」を、燗付けして陶器で。すっきりした飲み口を

日本酒ありきで料理を考案より深い味わいを追求

 東京・大塚に店を構える「はなおか」は、「最高の日本酒をおいしく飲ませる」がコンセプトの和食店だ。「日本酒を心地よく味わっていただきたい。そのためにコース全体の流れを考え、お客様に合わせて日本酒をトータルコーディネートしています」と語るのは、店主の花岡賢氏。通常のペアリングのように一品の料理と一杯の酒が織りなす相乗効果を狙うのではなく、来店客の飲むペースや嗜好、全体の起承転結の流れを考えて厳選した日本酒を提供する。

3月のコース前半で提供する「ウドと林檎の白和え」と、純米大吟醸酒「新政 No.6 S-type」。グラスに注ぐことで、上品な甘みと酸味、華やかな香りが際立つ
来店客のほとんどが10品のコースを選択。料理も日本酒も先入観なく楽しんでほしいため、メニューシートではあえて詳しく明記しない

 料理は、全9品(4320円)と全10品(5076円)のコースのみ。ほとんどの人が全10品のコースを選び、日本酒のペアリングを楽しむという。「料理は、日本酒を味わうための創作和食です。内容は月替わりで『この日本酒とこの料理は相性がよさそう』という仮説を立てて試作し、例えば『この日本酒に合わせるなら少し苦みがほしい』となれば、香味野菜を添えたり、よりおいしく日本酒を味わえる要素を料理に加えています」(花岡氏)。

 合わせる日本酒は基本的にお任せ。女将の和田静佳氏が、来店客の様子を見て選定するという。「前菜にはさわやかでフルーティな吟醸酒、刺身はすっきりとした辛口、メインの料理には個性的でしっかりとした味わいのものという大まかな取り決めはありますが、お客様一人ひとりを見極めて日本酒を選んでいます。一緒に来店された方それぞれに、違う銘柄をお出しすることも珍しくないですね」(和田氏)。

純米吟醸酒「浦霞 禅」は、柔らかくエレガントな味わいで刺身と好相性。ヒラメは梅干を加えた煎り酒で調味し、ヤリイカは塩をしてデコポンの果汁で臭みを消し、日本酒に合うように調理

 その提供方法は、まず、最初に供する酒で来店客のペースを判断。料理や酒の進み具合、表情に気を配りつつ、次の一杯を考える。そのため、料理一品につき酒一杯ではなく、例えば飲み方がゆるやかな人には、そのとき食べている料理だけでなく、次に提供する料理にも合う日本酒を選ぶという。「日本酒で〝川の流れのように〟全体をつないで提供するのが理想です。ご満足いただくためにも利用シーンを把握し、どのタイミングでどんな酒を出すかや、合計の金額が上がりすぎないよう調整することも考えています」(和田氏)。

酒器はガラス、磁器、陶器、木製など、約20種類をそろえ、日本酒の味・香り、コースのつながりなどに応じて柔軟に使い分ける

 さらに、提供する日本酒の温度は5~50℃まで設定し、銘柄ごとに最適な温度で提供。酒器も多彩にそろえている。「酒器の材質や形状によって、酒の味わいや口当たりが驚くほど変わります。日本酒が持つ酸味や甘みなどの特徴がもっとも際立つのがグラス。この傾向は磁器、陶器、木製の順に弱まります。器の形状は酒の味に大きく影響しますので、個性やお客様の状況を見て選んでいます」と和田氏はこだわりを話す。

 日本酒への造詣の深さに裏打ちされた、即興と呼ぶにふさわしいペアリングを提供している同店。これからも日本酒に真摯に向き合い、日本酒が醸し出す豊かな時間を届けたいという。

はなおか[東京・大塚]
東京都豊島区南大塚1-51-18
※閉店
JR大塚駅から徒歩約5分。2010年にオープンし、「うまい日本酒を飲ませる店」と評判に。客層は30代後半~50代が中心で、遠方から足しげく通う人もいる。
店主 花岡 賢氏(左) 女将 和田静佳氏(右)
花岡氏は飲食店で修業後、2007年日本酒バーで独立。社団法人飲食店日本酒提供者協会の理事長も務める。和田氏は2009年に飲食業界へ。現在は、日本酒の提供と接客を一手に担う。

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