2021/08/20 特別企画

国産ジビエ、再発見――おいしい&ヘルシー&売りになる!農山村を守る意義も(4ページ目)

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【解説】国産ジビエの今/流通・消費拡大の動きが加速し、さらに扱いやすく

お話を聞いたのは… 一般社団法人日本ジビエ振興協会 代表理事 オーベルジュ・エスポワール オーナーシェフ 藤木徳彦 氏
東京都出身。1998年、長野・蓼科高原に「オーベルジュ・エスポワール」をオープンし、地域の食材と自然を生かした“ここでしか味わえない料理”を追求。その中で、地元農家を苦しめる鳥獣被害に直面。レストランに食材を提供してくれる農家の生産環境を改善したいという思いと、捕獲される野生鳥獣の命への感謝から、国産ジビエの普及活動を始める。2012年に日本ジビエ振興協議会を設立。2014年にNPO法人化し、2017年に一般社団法人日本ジビエ振興協会に改組。代表理事として、安全安心な国産ジビエの普及、行政や企業との連携などに尽力している。

流通の整備が進み、ますます広がる国産ジビエの輪

 前ページまで、さまざまなメニューで国産ジビエを提供する各地の飲食店をみてきた。そもそもジビエはフランス料理などでは定番の食材だが、他の多くの業態ではなじみが薄く、ひと昔前の日本では、山間地域で細々と食べられていたもの。それがここ数年で全国的に流通し、多くの飲食店で扱われるようになっている。

 一般社団法人日本ジビエ振興協会の代表理事で、長野でオーベルジュを経営する藤木徳彦氏は、その背景について「まず第一に、ジビエが優れた食材だということ。豚や鶏、牛にはない滋味深いおいしさがあり、ヘルシーで、オリジナリティーも出しやすい。当店でも、シカを使った料理は看板メニューになっています」と話す。

藤木氏が経営する「オーベルジュ・エスポワール」では、ランチとディナーのコースでジビエを使用。写真は、「国産ジビエディナーコース」(19,800円)の一部。(左上から時計回りに)シカ、イノシシをはじめアナグマやキジなど計6種類の野生鳥獣を使った「ジビエのコンソメスープ」、看板メニューでもある「国産鹿肉ロースのポワレ ジビエの赤ワインソース 信州野菜のヴァリエ」、皮付きのイノシシを柔らかく煮込み、焼き目を付けて香ばしく仕上げた「皮つき猪煮込み 季節のフルーツ添え」

 さらに、鳥獣害対策としてシカやイノシシの駆除が進められていること、ここ数年、その野生鳥獣を利用する仕組みが整ってきたことも挙げる。「シカやイノシシなどによる農作物の被害は甚大で、被害総額は年間158億円とも言われています。野生鳥獣が増え過ぎれば森林の荒廃にもつながるため、個体数を管理していくことは不可欠なのです」と藤木氏。国や自治体も捕獲や駆除に取り組んでおり、鳥獣の処理施設など、食肉として安全に流通させる仕組みの整備も追いついてきた。

 長年、国産ジビエの普及活動に取り組んできた藤木氏は「鳥獣たちの命を無駄にせず、感謝しておいしく食べられるようにしたいというのが、料理人としての自分の思い。多くの人たちがそれに共感してくださいましたが、流通の整備によって、山間部での雇用創出や地域経済の活性化といったさらなる効果が上がってきています。ジビエを使うことは、農山村を守ることにつながるのです」と語る。

 こうした国産ジビエが持つ社会的な意義が、国や経済界に浸透したことも、利用拡大を後押ししている。「国政に関わる方などがジビエ振興の意義を重視して動いてくださり、需要拡大とその仕組みづくりが、この1年でかなり進んでいます」。また、農林水産省では「全国ジビエプロモーション事業」や「ジビエ利用拡大加速化支援事業」を展開。経済界でも、SDGs(持続可能な開発目標)へのアクションとして、国産ジビエに注目する企業が出現するなど、幅広い動きが出つつある。「国産ジビエの意義に触れたたくさんの方々が、ジビエの応援団になってくださっています。この流れは、今後もさらに強固なものになると考えています」と藤木氏は話す。

安心安全なジビエを仕入れるために

 では、飲食店が実際にジビエを扱うときの手順と注意点を確認しておこう。

 まず、仕入れ。「牛・豚・鶏の場合、食肉卸売業者やその先の小売店から仕入れるのが一般的ですが、国産ジビエは他の食肉に比べて供給が安定しないなどの理由から、扱う卸売業者はほとんどありません」と藤木氏。そのため、仕入れは全国にある処理施設との直接取引になる。

 このときに注意したいのが、安全性の確認だ。国産ジビエの処理施設は全国に600カ所以上あり、厚労省の「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に沿って運営されているが、「この指針には罰則がなく強制力も伴わないため、衛生レベルにばらつきがあるのが現状」(藤木氏)。そこで、農水省と一般社団法人日本ジビエ振興協会が中心となって、2018年に始まった「国産ジビエ認証制度」をチェックしたい。国産ジビエ認証制度とは、厚労省のガイドラインに基づく衛生管理を遵守し、安全なジビエを出荷している処理施設を認証するもの。現在、認証を受けた施設は全国に26カ所あるため、仕入れに当たってそうした認証の有無を含め、処理方法を確認することが重要だ。

 さらに、施設は地域ごとに特色があり、長年、山を守り続けてきた猟友会のノウハウを継承する施設もある。それぞれの土地とジビエの背景を知るためにも、ぜひ直接施設を訪れ、信頼関係を築いた上で取引を開始するとよいだろう。

 また、安全性とあわせて考えたいのが、仕入れ価格。国産ジビエの処理には、前述の安全管理を含め、他の食肉よりも圧倒的に手間と時間がかかるため、原価は決して安くない。シカの場合、レストランなどで引き合いが強いロースやヒレなどの部位の価格は、1㎏当たり4,500円前後となり、国産牛並み。藤木氏は「ロースやヒレはどうしても高原価になり、提供できる飲食店も限られます。一方で、スネやカタ肉などの部位は比較的お手ごろ。こうした部位の活用が鍵になります」とアドバイスする。スネやカタ肉は肉質が硬い部位だが、ひき肉にしてハンバーグやパテに使えば、独特の力強い味わいに仕上がるという。

ジビエの持つストーリー性を付加価値に

 飲食店にとって国産ジビエは、個性があると同時に、扱い方やレシピ開発に工夫が必要な食材と言える。「シカもイノシシも、季節によって脂ののり方が全く違います。年齢、体格、棲息地による個体差も大きい」と藤木氏。しかし、だからこそ1頭1頭にストーリーがあり、それが料理にも映し出されるという。「ストーリーを含めて味わっていただけるのが、国産ジビエの最大の付加価値」と藤木氏。同じ地域で収穫される野菜や果物とも合わせることで、それぞれの地域ならではの魅力をアピールできることも醍醐味(だいごみ)だ。「飲食店は、お客様をただ満腹にすればよいわけではありません。料理の付加価値を高め、歴史や風土といった見えない空気を感じていただくことも、飲食店の役割なのではないでしょうか」(藤木氏)。

 高タンパク、高ミネラルでヘルシーな食材であることや、うま味が強いためワインなどがよくマッチすることも、飲食店で扱ううえでのメリットになりそう。前ページまでの店舗の取り組みも参考に、国産ジビエの活用を検討してみてはいかがだろうか。

News
国産ジビエのさらなる消費拡大に、外食大手も参画!

 藤木氏が代表理事を務める一般社団法人日本ジビエ振興協会では、7月から首都圏で「国産ジビエ消費拡大プロジェクト『GO GO GIBIER!』」を始動。第1弾として、JR東日本グループ・株式会社JR東日本クロスステーションが運営するハンバーガーチェーン「ベッカーズ」など14店舗で、「国産ジビエ鹿肉バーガー」(単品740円)の販売がスタートしている。

 また、第2弾として大手ハンバーガーチェーン「ロッテリア」でもジビエ(シカ)を使ったハンバーガーの販売が予定されており、今秋の実施に向けて準備中。今後も参加企業を募り、プロジェクトを継続的に展開する予定。大手外食チェーンでの取り組みによって、国産ジビエへの消費者の関心も高まることが期待される。

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