2021/08/20 特別企画

国産ジビエ、再発見――おいしい&ヘルシー&売りになる!農山村を守る意義も

食肉流通の整備が進むほか、大手外食チェーンなどでも提供され認知が広がっている国産ジビエ。消費拡大の動きがある今、国産ジビエを上手に取り入れるには? 3つの事例と専門家へのインタビューから考える。

URLコピー

地域連携の一環でジビエ活用に取り組む。シカ肉のバーガーは毎年恒例の人気商品に

Becker's(ベッカーズ)

カフェメニューで手応えを得て、バーガーの開発に着手

 首都圏のJR駅構内などに店舗を展開する「ベッカーズ」の全店と、JR東京駅構内の「グランスタ東京」にある「THE BEAT DINER」では、7月15日~9月30日までの期間限定で「国産ジビエ 鹿肉バーガー」を販売している。

「ベッカーズ」の「国産ジビエ 鹿肉バーガー」はオニオンリング&ポテト、ドリンクのセットで1,070円。単品740円。注文を受けてからパティを焼き上げ、できたてを提供する。駅構内という立地もあり購買客のメインはビジネス層。新しいものに敏感な若い世代からの支持も高い

 両ブランドを運営する株式会社JR東日本クロスステーションが、シカ肉を活用した商品開発に初めて取り組んだのは約10年前。長野県内でシカなどの野生鳥獣による農作物の被害が深刻化している現状を関係者から聞き、地域連携の活動に注力するJR東日本グループとして、状況改善に貢献したいと考えたことがきっかけだという。

 捕獲された鳥獣肉の利活用率を高めることを目的に商品開発を進め、2011年、シカ肉を使ったカレーやパスタを駅構内のカフェで販売。用意した8,500食を売り切った。営業開発部 マーケ・販促グループ 部長の森大祐氏は当時を振り返り、「ジビエの知名度がまだ低く、最初は社内でも『本当に売れるのか』と懐疑的な見方が大半でした。しかし、ふたを開けてみればジビエメニューは予想以上に好評で、翌年以降の商品開発に弾みがつきました」と明かす。次のステップとして、基幹ブランド「ベッカーズ」のメニューにジビエを使うことで取り組みを加速させようと、シカ肉バーガーの開発がスタートした。

安定的な仕入れルートを10年がかりで確立

 商品開発を進める上で直面したのが、シカ肉をいかに安定的に確保するかという課題だ。食肉卸売会社が扱う一般的な家畜の肉とは異なり、ジビエの場合、専門の解体処理施設を起点とした仕入れルートを新たに構築する必要があった。「仕入れた肉をパティへ加工する工程を引き受けてくれる会社を探すのにも苦労しました。何とか見つかったものの、小規模事業者で生産能力が限られている状態。そのため、シカ肉バーガーの販売初年度だった2013年は、メディアで大きく取り上げられて売れ行きが好調だった半面、パティの生産が追い付かず販売を一時休止した苦い経験もあります」と森氏は振り返る。

 この反省から、翌年以降は早い段階から綿密な販売計画を立て、それに沿って捕獲や加工が計画的に進むように、処理施設や加工場と調整。また、地域や時期ごとに捕獲数にばらつきがあるジビエを安定的に仕入れられるよう、一般社団法人日本ジビエ振興協会と連携し、全国の処理施設をネットワーク化する取り組みに参画。1カ所の処理施設に他の施設からもジビエを集めることで、「ベッカーズ」の販売計画に応じた必要な量を仕入れられるようになった。

安定的な仕入れを実現するため、全国のジビエ処理施設のネットワーク構築に参画。信州富士見高原ファームが中心となって、全国の処理施設からシカのスネ肉などを収集。まとまった量を供給できる仕組みが整った(画像は国産ジビエ消費拡大プロジェクト「GO GO GIBIER!」ホームページより)

 こうした約10年がかりの体制づくりを経て、現在は、各地の処理施設で解体処理されたシカ肉からパティに使用する部位を長野の信州富士見高原ファームに集約。同じく長野の株式会社大福食品工業でパティに加工し、株式会社JR東日本クロスステーションの倉庫を経て、「ベッカーズ」の各店舗へと運ぶルートが確立されている。信州富士見高原ファームやネットワークの処理施設はいずれも、安心安全なジビエ処理の認証制度「国産ジビエ認証」を取得。森氏は「認証をクリアした施設で適切に処理されたシカ肉を使用することで、安心して味わっていただけるジビエメニューを実現しています」と説明する。

「きっかけづくり」を重視し、味わいをマイルドに

 今年で販売9年目となる「国産ジビエ 鹿肉バーガー」。主な購入層は、「ベッカーズ」店舗の客層と重なるビジネス層だが、新しい商品に敏感な若い世代の購入も一定数あり、SNSなどへの投稿を見て購入する人もいるという。昨年まででシリーズ累計販売数は13万食に上り、毎年楽しみにしているファンも多い。レシピを監修するのはジビエ料理に精通し、ジビエの普及活動に尽力する一般社団法人日本ジビエ振興協会の藤木徳彦氏。パティにはシカのウデやスネの肉を使用し、レストランなどで引き合いの強いロースや内モモ以外の部位の利活用率アップに大きく貢献している。「肉を余さず使うことで、資源の有効活用やハンターの利益向上に寄与でき、当社としても原価を抑えて手頃な価格で販売できます」(森氏)。バーガーはこのシカ肉のパティに、ソテーしたあわび茸と、シカのだしを加えたデミグラスソースを合わせている。

 9年間でレシピも改良を重ね、当初の“シカ肉らしさ”を前面に出した味から、よりマイルドでクセのない味へとシフト。背景にあるのは、より多くの人にシカ肉を知ってもらいたいという思いだ。「まだ身近な食材とは言えないシカ肉が駅のハンバーガー店で気軽に食べられれば、『一度試してみよう』と思っていただきやすく、そのきっかけを提供するのがわれわれの役割だと考えています。そのためにも、おいしい商品をしっかりと作り上げてお届けするという基本を大切に、引き続き国産ジビエの利活用に注力していきます」と森氏。消費者がジビエの魅力を知る最初の入り口として、シカ肉バーガーは大きな役割を果たしている。

7月1日にグランドメニューをリニューアルし、ビーフパティの他にフライドチキンパティを導入。また、ふんわり食感のブリオッシュを使ったメニューなども加え、多様なニーズに対応している。ハンバーガーのバンズは毎日、各店舗で生地を最終発酵させて焼き上げている
Becker's(ベッカーズ)神田店(東京・神田)
東京都千代田区鍛冶町2-7-1 JR神田駅南口改札外
首都圏のJR駅構内を中心に、11店舗を展開するハンバーガー&サンドイッチチェーン。東京・JR神田駅南口にある神田店は、2019年12月開業。明るくポップな雰囲気で、ビジネス層の来店だけでなく、若い女性のカフェ利用なども増加。
株式会社JR東日本クロスステーション フーズカンパニー 営業開発部 マーケ・販促グループ 部長 森 大祐 氏
1997年入社。「ベッカーズ」で店長を経験した後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)へ出向し“エキナカ”開発に携わる。帰任後は約10年にわたり販促・広報PR業務に従事。2019年より「ベッカーズ」担当の営業責任者を務め、今年7月より現職。

全4ページ

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

ぐるなび通信をフォローする