そば「秋田県産三関せりと揚げ餅」
「VS(ブイエス)」(東京・渋谷)
立ち食いそばというと、仕事の合間に駆け込んでパパッと食べて立ち去るサラリーマンを思い浮かべますが、渋谷に、若い世代が行列をする立ち食いそば店がオープンしたといいます。
今回は週末の酒場巡りが趣味というフードライター・桑原恵美子さんが、京都発の進化系立ち食いそば店「VS」のそば「秋田県産三関せりと揚げ餅」を紹介。秋田出身の筆者も驚いた根ぜりのおいしさの秘密や、関西風のだしで食べる進化系そばの魅力をお伝えします。
訪れた飲食店を紹介している個人ブログ:
https://ameblo.jp/amaguri0111/theme-10066247104.html
▼ぐるなび公式アカウント▼
【LINE】ぐるなび通信デジタル
【X】 ぐるなび - 飲食店様のお役立ち情報
よろしければ、ぜひ友達追加/フォローをお願いします!
目次
・1階は立ち食いそば、2階はワインセラー兼ワインバー
・感動のシーズンメニュー「秋田県産三関せりと揚げ餅」
・「京都には立ち食いそば文化がない、だから作ってみたくなった」
・「日本のそばとワインを、世界に広めたい」
1階は立ち食いそば、2階はワインセラー兼ワインバー
「VS」がオープンしたのは、渋谷駅の東側に広がる宮益坂エリアの路地裏。駅から徒歩3分ながら、オフィスやヘアサロンが多く、人通りもまばらで静かな通りです。ところが2024年9月10日の「VS」オープン直後には突如、若い層を中心にした長い行列が出現して、近辺の人々を驚かせました。
筆者が初めて訪れたのは、その行列が一段落した10月頃だったのですが、それらしい店が見つからず近くをウロウロ…。
入り口のガラス扉にプリントされた、この小さなロゴマークに気がつかなかったら、一生見つけられなかったかも、というくらい「立ち食いそば店」とかけ離れた外観だったのです。
空間デザインは、海外でも評価の高いデザインチーム「YUSUKE SEKI STUDIO」。打ちっぱなしのコンクリートの壁、舗装途中のような凸凹の床など、未完成にも見える、無機質で独創的な空間です。少し角度のついたテーブルが2卓あり、突き当たりにある小さな小窓が注文カウンター。
壁に貼られたメニューを見ると、立ち食いそば店でよく見る「きつね」「たぬき」などのメニューは皆無。「淡路島ハモ天とからし菜梅パウダー」「高知県産仁淀川キクラゲと京ラー油」など、味の想像もつかないユニークな組み合わせばかり。さらにドリンクメニューを見ると、トップにあるのがワイン。それもそのはず、このお店は、2階にはワインショップとワインバーを併設しているんです。
【「VS」は、以下記事でもご紹介!】
飲食店のための“最新ワイントレンド”~「ワイン王国」編集長 村田 惠子 氏インタビュー
感動のシーズンメニュー「秋田県産三関せりと揚げ餅」
私は秋田県出身で、小さい頃から食べ慣れているセリが大好物。特に根の部分が大好きなのですが、東京ではセリ自体をなかなか見かけないのを残念に思っていました。最近になってようやく根ゼリもちらほら見かけるようになりましたが、あたりはずれが大きく、がっかりすることもしばしば…。
でもこちらのセリの根は、大当たり! たっぷりとした太さと長さがあり、見ただけで「間違いない」とわかりました。食べてみると、シャキシャキの食感の後に鮮烈な香りとほろ苦さ、そして育った土の豊饒(ほうじょう)さが伝わる甘み…。秋田でもこんなおいしいセリを食べたことがないと思えるほどです。
このセリは秋田県湯沢市の三関地区で江戸時代から栽培されている伝統野菜「三関セリ」。寒冷地で豊富な伏流水に恵まれた環境のなかゆっくり成長するため根が太く長く伸びること、収穫後に大量の水で徹底した洗浄をすることでえぐみが残らないため、根まで食べられる根ゼリとして売られているのだとか。
そしてそばの最大の魅力は、つゆが利尻昆布と本ガツオ、サバ、ウルメイワシなど上質な素材で引いた、関西風の「うどんだし」であること。まろやかでやさしいだしの味わいに、茹でてもきりっと締まっているオリジナルの細切りそばがからんで、いつも汁を飲み干してしまうおいしさ。
この関西風のだしと餅のマリアージュもたまりません。聞けば、秋田県産のセリなので、きりたんぽをイメージして餅を組み合わせたのだとか。
「京都には立ち食いそば文化がない、だから作ってみたくなった」
「VS」は、2021年の大みそかに京都にオープンした「SUBA」の2号店。オーナーの鈴木 弘二さんは大阪生まれの京都育ちで、京都で複数店舗のカフェや飲食店の新業態を成功させてきた、京都の飲食業界では伝説的な人物です。
運営する店舗のひとつを東京に出店した時に、東京ではどこにでも立ち食いそばのチェーン店がありいずれもにぎわっているのを見て驚いたという鈴木さん。「京都では立ち食いそばは駅の中にある程度で、街中ではほぼ見かけません。珍しさもあり、2~3年は東京に行くたびにいろんな立ち食いそばを食べるようになりました」(鈴木さん)。
そこで感じたことが2つ。立ち食いそば店には、なぜか入りたくなる衝動を起こさせる強烈な磁力があること、そしてどの店もほぼ同じ味であること。「なじみのある味なので安心して入れるのでしょうが、もっとクオリティーが高くて面白い、若い人が入りたくなるような立ち食いそば店を京都で作ってみたいと思うようになりました」(鈴木さん)。
空間をあえて殺風景にしたのは、本場の讃岐うどんのように「こんなところで食べるのか」という驚きも付加価値になると考えたため。また京都はだし文化なので、飲み干したくなるようなだしを作りたいと考え、そのだしに合った細麺をオリジナルで作ったそうです。こうしてできた京都「SUBA」はオープンと同時に“看板のない進化系スタンドそば店”として大きな話題となりました。
だしのうま味の効いたそばにはワインが合うことから、東京で神宮前と自由ヶ丘に2店舗のワインショップを持つ株式会社VIRTUS(ウィルトス)・代表の中尾 有さんと提携し、2023年7月6日「SUBA」の隣に、京都でも珍しいワインの角打ちショップ「SUMI」をオープンしています。
「日本のそばとワインを、世界に広めたい」
鈴木さんの次の夢が、海外に出店すること。「日本はまだまだ海外から取り入れているものが多いのですが、日本のものを発信して外に出すことをもっと考えてもいいのではないでしょうか。そばはアメリカやヨーロッパでもきっと受け入れられると思いますし、『SUMI』もお客さんの約7割が訪日外国人で、日本の国産ワインのレベルの高さに驚く人が多いんですよ」(鈴木さん)。
そばは全て同じつゆを使っているのに、ひとつひとつが全く違う料理のように思えて、「伝統的なそばを新たに再解釈するとこんな豊かな広がりがある」ということにしみじみと驚きます。
そしてまた、この店のおそばを食べるといつも、美術館で現代美術の斬新な作品に触れた後のような、静かな感動と衝撃をおぼえます。美術作品と違うのは、心とともにからだも浄化されたような気持ちになれること。それは鈴木さんの研ぎ澄まされた繊細な美意識と食への飽くなき探求心が、そばの味わいとともに自分の中に染みわたるような気がするからかもしれません。
そんな体験を、たった一杯のおそばで提供してもらえるのは、本当にすごいことだと思うのです。
東京都渋谷区渋谷1-15-8宮益ONビル1階
https://www.instagram.com/subasoba_vs/
https://www.instagram.com/virtuswine_vs/