渋谷に立ち食いそば&ワインの「VS」が出現。美しき進化系そば「三関せりと揚げ餅」に完全ノックアウト!

京都で人気の進化系立ち食いそば店「SUBA(スバ)」が、ついに東京進出。2024年9月10日、1階に立ち食いそば、2階にワインセラー兼バーを併設した「VS(ブイエス)」がオープンしました。立ち食いそば文化の無い京都で生まれた進化系が、若者の街・渋谷で絶大な人気を得ている理由は…?

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そば「秋田県産三関せりと揚げ餅」

「VS(ブイエス)」(東京・渋谷)

そば「秋田県産三関(みつせき)せりと揚げ餅」(1,500円)

立ち食いそばというと、仕事の合間に駆け込んでパパッと食べて立ち去るサラリーマンを思い浮かべますが、渋谷に、若い世代が行列をする立ち食いそば店がオープンしたといいます。

今回は週末の酒場巡りが趣味というフードライター・桑原恵美子さんが、京都発の進化系立ち食いそば店「VS」のそば「秋田県産三関せりと揚げ餅」を紹介。秋田出身の筆者も驚いた根ぜりのおいしさの秘密や、関西風のだしで食べる進化系そばの魅力をお伝えします。

桑原 恵美子
フードライター。十数年間にわたり、新聞社系の媒体で大手チェーン飲食店や新オープンの商業施設の飲食店、食品メーカーを中心に取材。ぐるなび媒体「dressing」でも100軒以上の飲食店を取材。「ラクなのに美味しい 驚異の弱火調理法」(三空出版)など料理レシピ本の構成にも携わる。
訪れた飲食店を紹介している個人ブログ:
https://ameblo.jp/amaguri0111/theme-10066247104.html

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目次
1階は立ち食いそば、2階はワインセラー兼ワインバー
感動のシーズンメニュー「秋田県産三関せりと揚げ餅」
「京都には立ち食いそば文化がない、だから作ってみたくなった」
「日本のそばとワインを、世界に広めたい」

1階は立ち食いそば、2階はワインセラー兼ワインバー

「VS」がオープンしたのは、渋谷駅の東側に広がる宮益坂エリアの路地裏。駅から徒歩3分ながら、オフィスやヘアサロンが多く、人通りもまばらで静かな通りです。ところが2024年9月10日の「VS」オープン直後には突如、若い層を中心にした長い行列が出現して、近辺の人々を驚かせました。

オープン直後の行列(写真提供:VS)

筆者が初めて訪れたのは、その行列が一段落した10月頃だったのですが、それらしい店が見つからず近くをウロウロ…。

  • 入り口付近に看板が見当たらない
  • 入り口・ガラス扉の中央に、小さなロゴマークを発見…!「VIRTUS(ヴィルトス)」と「SUBA」の文字も

入り口のガラス扉にプリントされた、この小さなロゴマークに気がつかなかったら、一生見つけられなかったかも、というくらい「立ち食いそば店」とかけ離れた外観だったのです。

  • 1階は「SUBA VS」のフロア。縦長の店内中央に、立ち食い用のテーブルが2台
  • 店内突き当たりに、注文・会計・受け渡しの小窓がある。食べ終わったら、写真左の赤い→の先にどんぶりを返却するセルフサービス形式

空間デザインは、海外でも評価の高いデザインチーム「YUSUKE SEKI STUDIO」。打ちっぱなしのコンクリートの壁、舗装途中のような凸凹の床など、未完成にも見える、無機質で独創的な空間です。少し角度のついたテーブルが2卓あり、突き当たりにある小さな小窓が注文カウンター。

  • 取材時11月のメニュー。冷やしが終了し温かいそばのみにスイッチ。毎月季節の限定メニューが登場する
  • ドリンクの一推しはもちろん、2階のワインだが、他のアルコールやノンアルコールもラインナップしている

壁に貼られたメニューを見ると、立ち食いそば店でよく見る「きつね」「たぬき」などのメニューは皆無。「淡路島ハモ天とからし菜梅パウダー」「高知県産仁淀川キクラゲと京ラー油」など、味の想像もつかないユニークな組み合わせばかり。さらにドリンクメニューを見ると、トップにあるのがワイン。それもそのはず、このお店は、2階にはワインショップとワインバーを併設しているんです。

  • 2階は「VIRTUS VS」のフロア。1,000種類以上のワインがあるウォークインワインセラー(写真提供:VS)
  • 2階中央にテーブルも兼ねるロングベンチ。写真左が1階へとつながる階段
常時48種類以上のワインを楽しめるディスペンサーがズラリ。それぞれのワインのQRコードから、スマホで味や産地などの情報をチェックできる。スタッフから550円のコインを購入し、自らグラスに注ぐ。「ハニー&ソルトピーナッツ」「アンチョビ入りオリーブ」などの缶入りおつまみも、550円のコインを購入して棚からピックアップする

【「VS」は、以下記事でもご紹介!】
飲食店のための“最新ワイントレンド”~「ワイン王国」編集長 村田 惠子 氏インタビュー

感動のシーズンメニュー「秋田県産三関せりと揚げ餅」

「秋田県産三関せりと揚げ餅」は冬季メニューの一つ。セリの「根」を盛り付けの主役に

私は秋田県出身で、小さい頃から食べ慣れているセリが大好物。特に根の部分が大好きなのですが、東京ではセリ自体をなかなか見かけないのを残念に思っていました。最近になってようやく根ゼリもちらほら見かけるようになりましたが、あたりはずれが大きく、がっかりすることもしばしば…。

秋田県湯沢市・三関地区で栽培される、味わい深い伝統野菜「三関セリ」を使用

でもこちらのセリの根は、大当たり! たっぷりとした太さと長さがあり、見ただけで「間違いない」とわかりました。食べてみると、シャキシャキの食感の後に鮮烈な香りとほろ苦さ、そして育った土の豊饒(ほうじょう)さが伝わる甘み…。秋田でもこんなおいしいセリを食べたことがないと思えるほどです。

このセリは秋田県湯沢市の三関地区で江戸時代から栽培されている伝統野菜「三関セリ」。寒冷地で豊富な伏流水に恵まれた環境のなかゆっくり成長するため根が太く長く伸びること、収穫後に大量の水で徹底した洗浄をすることでえぐみが残らないため、根まで食べられる根ゼリとして売られているのだとか。

  • 繊細でしなやかなそばと、関西風だしのコラボレーション
  • だしをまとい柔らかくなった揚げ餅

そしてそばの最大の魅力は、つゆが利尻昆布と本ガツオ、サバ、ウルメイワシなど上質な素材で引いた、関西風の「うどんだし」であること。まろやかでやさしいだしの味わいに、茹でてもきりっと締まっているオリジナルの細切りそばがからんで、いつも汁を飲み干してしまうおいしさ。

この関西風のだしと餅のマリアージュもたまりません。聞けば、秋田県産のセリなので、きりたんぽをイメージして餅を組み合わせたのだとか。

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「京都には立ち食いそば文化がない、だから作ってみたくなった」

「VS」は、2021年の大みそかに京都にオープンした「SUBA」の2号店。オーナーの鈴木 弘二さんは大阪生まれの京都育ちで、京都で複数店舗のカフェや飲食店の新業態を成功させてきた、京都の飲食業界では伝説的な人物です。

京都府下京区にある1号店の「SUBA」(写真提供:VS)

運営する店舗のひとつを東京に出店した時に、東京ではどこにでも立ち食いそばのチェーン店がありいずれもにぎわっているのを見て驚いたという鈴木さん。「京都では立ち食いそばは駅の中にある程度で、街中ではほぼ見かけません。珍しさもあり、2~3年は東京に行くたびにいろんな立ち食いそばを食べるようになりました」(鈴木さん)。

そこで感じたことが2つ。立ち食いそば店には、なぜか入りたくなる衝動を起こさせる強烈な磁力があること、そしてどの店もほぼ同じ味であること。「なじみのある味なので安心して入れるのでしょうが、もっとクオリティーが高くて面白い、若い人が入りたくなるような立ち食いそば店を京都で作ってみたいと思うようになりました」(鈴木さん)。

空間をあえて殺風景にしたのは、本場の讃岐うどんのように「こんなところで食べるのか」という驚きも付加価値になると考えたため。また京都はだし文化なので、飲み干したくなるようなだしを作りたいと考え、そのだしに合った細麺をオリジナルで作ったそうです。こうしてできた京都「SUBA」はオープンと同時に“看板のない進化系スタンドそば店”として大きな話題となりました。

だしのうま味の効いたそばにはワインが合うことから、東京で神宮前と自由ヶ丘に2店舗のワインショップを持つ株式会社VIRTUS(ウィルトス)・代表の中尾 有さんと提携し、2023年7月6日「SUBA」の隣に、京都でも珍しいワインの角打ちショップ「SUMI」をオープンしています。

「日本のそばとワインを、世界に広めたい」

鈴木さんの次の夢が、海外に出店すること。「日本はまだまだ海外から取り入れているものが多いのですが、日本のものを発信して外に出すことをもっと考えてもいいのではないでしょうか。そばはアメリカやヨーロッパでもきっと受け入れられると思いますし、『SUMI』もお客さんの約7割が訪日外国人で、日本の国産ワインのレベルの高さに驚く人が多いんですよ」(鈴木さん)。

写真は、株式会社VIRTUS・代表の中尾 有さん。小売り・卸売り・輸入と幅広く活躍し、多岐にわたるワインを取り扱っている

そばは全て同じつゆを使っているのに、ひとつひとつが全く違う料理のように思えて、「伝統的なそばを新たに再解釈するとこんな豊かな広がりがある」ということにしみじみと驚きます。

渋谷店限定メニューは、とり天そばに湖南省の毛沢東スパイスを大胆に振りかけた「とり天毛沢東スパイス」(1,200円)
個性的なそばのバリエーション。左から時計回りに、京都店の定番メニューで一番人気の「冷かけ 酢橘無花果」(1,300円※夏季限定)、粒が大きく肉厚な宍道湖のしじみを使用しCedric Casanovaの柑橘が香るオリーブオイルを振りかけた「島根県宍道湖のしじみとマンダリンオイル」(1,100円)、上質な脂がたっぷりの国産牛の小腸とシャキシャキ食感の岡山県産黄ニラを紅生姜ペーストの薬味で味わう「牛ホルモンと黄ニラ」(1,300円)、生青海苔とつゆの一体感と大豆の甘みと香りがたまらないゆし豆腐がのった「沖縄産ゆし豆腐と生青海苔」(1,100円)

そしてまた、この店のおそばを食べるといつも、美術館で現代美術の斬新な作品に触れた後のような、静かな感動と衝撃をおぼえます。美術作品と違うのは、心とともにからだも浄化されたような気持ちになれること。それは鈴木さんの研ぎ澄まされた繊細な美意識と食への飽くなき探求心が、そばの味わいとともに自分の中に染みわたるような気がするからかもしれません。

そんな体験を、たった一杯のおそばで提供してもらえるのは、本当にすごいことだと思うのです。

オレンジワインをそばに使用しているだしで割った「出汁割りワイン」(660円)は、グラスに漬けた七味唐辛子との相性が抜群
VS(ブイエス) (東京・渋谷)
東京都渋谷区渋谷1-15-8宮益ONビル1階
https://www.instagram.com/subasoba_vs/
https://www.instagram.com/virtuswine_vs/

ワインショップ「VIRTUS」と京都の立ち食いそば「SUBA」のコラボ店舗。店名は2店の頭文字から。オリジナルの細麺、関西風だし、季節の厳選食材で表現するそばは唯一無二。1階立ち食いそばはスタンディング(16人)で、2階フロアと階段途中の中2階に計10席。