2020/05/19 特集

コロナ危機に立ち向かう世界の飲食店~それぞれの戦い方~(4ページ目)

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フィリピン・イロイロで広がる医療関係者への支援の輪

 新型コロナの影響下で、飲食店は店の存続やスタッフの雇用を守ろうと奮闘する一方、医療従事者に食事を提供するなどの動きも世界で広がっている。フィリピンでも新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、厳しい防疫措置が取られており、飲食店も深刻な影響を受けている。5月19日現在、テイクアウトとデリバリーでの営業は認められているものの、大半が休業しているのが実情だ。

 フィリピン・パナイ島の中心都市、イロイロにある「ファーム・トゥ・テーブル(Farm to Table)」のオーナーシェフ、パウリーン・ゴリセタ=バヌシン氏は、イートインの禁止を受けて、日替わりのテイクアウトとデリバリー用のメニューを開発。牛の肩肉と野菜をピーナッツソースで煮込んだ「ビーフ・カレカレ」(4~5人用650ペソ=約1,400円)など、ファミリー向けのメニューを充実させている。

「ビーフ・カレカレ」(写真左)や、野菜とエビなどをオキアミの塩辛で炒め煮にした「シーフード・ピナクベット」(同右、4~5人用450ペソ=約950円)を用意。一品で野菜もタンパク質も摂れるメニューだ

 そんな中、バヌシン氏は夫の友人から「医療従事者や検問など重要な任務に就く警察官に栄養のある食事を寄付するための費用を集めたので、これを使って弁当を作ってほしい」と依頼を受ける。もともと飲食店として何かできることはないかと考えていたバヌシン氏はこの申し出を快諾。寄付金を基に材料を調達し、ランチの弁当販売が終わった後に、スタッフ8名やボランティアの友人とともに2〜3時間をかけて調理やパッキングを行い、病院などへの配達もすべて自分たちで行う取り組みを始めた。この活動が次第にSNSなどで広まり、シンガポールで働くフィリピン人看護師らをはじめ国内外の様々な団体や個人から、寄付金が届くように。こうして、今でも毎日1,000食弱の弁当を周辺エリアの医療従事者などに無償で提供している。医療従事者からお礼のメッセージが届くこともあり、「誰もが厳しい状況に陥っている中で、他者の助けになれていることが私自身の力にもなっています」とバヌシン氏。スタッフにも「医療従事者たちは命を懸けて働いている。その食事を作るみんなもヒーロー」と、取り組みの意義を伝えている。 

多くの人の想いが詰まった弁当は、最前線で戦う医療従事者たち(写真)に笑顔と力を与えている。「経済的に決して裕福とはいえない人からの寄付も少なくありません」とバヌシン氏

 世界中の飲食店と同様に経営は厳しく、寄付金もすべて材料費と人件費に充てているため、利益はゼロ。「それでも、困難な時に食事を提供するのが、神様から与えられた使命だと思うようになりました」とバヌシン氏。人件費は寄付金でまかなえるため、雇用を確保できるのはプラス材料だという。

オーナーのバヌシン氏(写真右)。現在、経営する4店舗で計1,000食近くの弁当をテイクアウトやデリバリーで毎日販売している

 「フィリピンは発展途上国で、政府からの支援は限られています。だからこそ国民一人ひとりが助け合わなくてはいけない」と語るバヌシン氏。彼女のもとには、今も新たな寄付金とともに医療従事者らへの食事提供の依頼が届く。新型コロナウイルス感染症に立ち向かう1軒の飲食店の取り組みが、人と人とのつながりを強めている。

ファーム・トゥ・テーブル(Farm to Table)【フィリピン・イロイロ】
Transcom Building, Megaworld Boulevard, Mandurriao, Iloilo City
https://www.facebook.com/farmtotableiloilo/

パリではビストロコースを医療従事者に提供

 フランスの首都パリでも、店内での飲食が禁止される中、飲食店による医療従事者への食事提供の動きが広がっている。パリ3区の市場の中にあるビストロ「レ・ザンファン・ドゥ・マルシェ(Les enfants du marché)」は「レ・シェフ・アベック・レ・ソワニヨン」(シェフたちと医療従事者たち)という医療従事者への食事提供プロジェクトに参加している。これは普段、高級レストランの料理を家庭やオフィスに配達している宅配業者の呼びかけで3月23日に始まり、5月1日現在、741名のシェフが参加し、6週間で142の病院へ、延べ4万3,000食を無償で提供している取り組みだ。

 プロジェクトに参加する飲食店は、1回につき最低でも15名分の料理を提供することが条件。同店はこれまでに計2回参加しており、2回とも「前菜」「メイン」「デザート」の3品コースを50名分提供している。フランスでは、給食や社員食堂などでもコースが食事の基本であるため、弁当のように1つの容器にまとまっているものではなく、コースの3品を別々の容器に分けているのが大きな特徴だ。

医療従事者向けに提供しているコースの前菜「タラのエスカベッシュ(フレンチ風南蛮漬け)」。容器は使い捨てで、撥水性が高く、上部を閉じられるように折り目をつけた厚紙を使用している

 このプロジェクトには飲食店以外に、生産者や卸業者、宅配業者なども参加。料理の材料は、生産者や卸業者が用意し、宅配業者が料理用の容器の用意と配達業務を担当するなど、それぞれが協力し合うことで無償サービスを実現している。

メイン料理の「牛ほほ肉の煮込みとタグリアテールパスタ」。この容器も使い捨ての紙製だ

 提供する料理には条件があり、温かいものでも冷たいものでも構わないが、素早く簡単に、場合によっては立ったままの状態でも食べられるものが求められる。感染リスク回避のため、数人分を大皿で提供することは禁止されており、すべて一人前ずつ分けて用意するように徹底されている。

「店で食べるのと同じクオリティーの料理を医療現場に届けたい」と語るシェフのマサ・イクタ氏(写真右)

 「完璧な衛生状態を証明するために、どんなキッチンで料理しているのか、どんな風に調理しているのかを、写真やビデオで撮影して、プロジェクトの本部に送るのが決まりになっています」と、オーナーのミカエル・グローマン氏。店の利益にはならないが、それでも「病院で働く人たちが喜んでくれてとてもうれしい」と笑顔を見せる。テイクアウトなど店の仕事もある中で、プロジェクトに参加するのは簡単ではない。しかし、飲食店や生産者、宅配業者など、それぞれが得意分野を活かして、少しずつでも力を合わせることで、過酷な現場で戦っている医療従事者をサポートすることができるという好例だろう。

レ・ザンファン・ドゥ・マルシェ(Les enfants du marché)【フランス・パリ】
Marché des Enfants Rouges, 39 rue de Bretagne 75003 Paris
https://lesenfantsdumarche.fr/

※フィリピンの通貨レート 1ペソ=約2.08円/「ファーム・トゥ・テーブル」の情報は2020年4月29日取材時のものです。写真パウリーン・ゴリセタ=バヌシン氏提供
※「レ・ザンファン・ドゥ・マルシェ」の情報は2020年4月29日取材時のものです。写真一部ミカエル・グローマン氏提供

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