ニラ醤油豆腐
「今日は思いっきり飲みたいけれど、やさしい味わいのおでんだとお酒のアテには物足りないかも……」、そんな思いでのれんをくぐった「おでん・焼魚 中ノ森」。しかし、その心配は良い意味で裏切られました。定番の枠にとらわれない創作おでんは、お酒が進む絶品ばかり! たちまちこのお店の大ファンになったのです。
今回は、週末の酒場巡りが趣味のフードライター・桑原 恵美子さんが、そんな“お酒が進む進化系おでん”のなかから、「ニラ醤油豆腐」のおいしさと誕生の裏側に迫ります。
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おでん・焼魚 中ノ森(東京・小伝馬町)
おでん・焼魚 中ノ森
業態:おでん居酒屋
席数:33席(1階テーブル10席・カウンター7席、2階テーブル16席)
客単価:5,000円
客層:20~60代、男女比6:4、常連、日本酒好きの女性
アクセス:東京メトロ日比谷線小伝馬町駅3番出口より徒歩30秒
営業時間:月~金曜日11:30~14:00、17:00~23:00、土曜日17:00~23:00
定休日 :日曜日、祝日
https://www.instagram.com/oden.nakanomori/
目次
・”おでん欲”をかきたてる、短冊に書かれたメニューが圧巻
・だしが染み、香りが「立ちのぼる」おでん
・「おでんを超えなければ」という決意
”おでん欲”をかきたてる、短冊に書かれたメニューが圧巻
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築100年を超える長屋をリノベーションした物件。ノスタルジックな雰囲気が漂う路地にある -
店内のにぎわいが、通りからもガラス越しにうかがえる
「おでん・焼魚 中ノ森」があるのは、小伝馬町駅から徒歩約30秒のところ。大通りから一本入った路地に立つ、築100年を超える大正時代の長屋の一角です。
お店の2枚看板は、「おでん」と「原始焼き」。入り口近くには炭火が赤々と熾(おこ)っている立派な原始焼き台と炉端があります。
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天井下にズラリと並ぶ、おでんの品名を記した黒塗りの短冊が“おでん欲”をかきたてる -
定番の種と、趣向を凝らした“アイデアおでん”が入り混じる
奥に進むとオープンキッチンがあり、カウンター席の上にはおでん種メニューの短冊がびっちり飾られています。その圧巻の光景には、「ちょっとおでんの気分かな」と軽い気持ちで訪れた人でも、「今夜はもう、絶対おでん!」と、”おでん欲”がかきたてられる仕掛けになっているのがお見事です。
定番のおでん種ももちろんおいしいのですが、この店に来たら頼まずにはいられないのが、アイデアおでん種の数々。季節限定・期間限定のものも多いので、行くたびに「今度はどんなおでん種に出合えるかな」とワクワクするのです。
だしが染み、香りが「立ちのぼる」おでん
あれもこれも食べてみたいユニークなおでん種が多いなかで、特にお酒が好きな方におすすめしたいのが「ニラ醤油豆腐」です。おでんらしくないメニュー名に好奇心を抱いて頼んでみたのですが、まずビジュアルのインパクトに驚き、次に熱々の豆腐の湯気とともに立ち上がるニラの香りにノックアウトされました。
口に入れると刻んだニラのフレッシュな青い香りがふわりと広がり、ひと口目から激しくお酒を誘います。そこに重なるのが、醤油のコク。しっかりとしたうま味がニラの香りの余韻を長く引き延ばし、自然と次の一杯へと手が伸びてしまいます。さらにだしをたっぷり含んだ木綿豆腐の穏やかなうま味で口の中が一度リセットされて、再びニラ醤油の香りを新鮮に感じさせてくれます。
この“リセット”と“高揚”の往復が、食べ進めるほどに心地よいリズムを生み出すのです。
変わり種からもう一品、季節の夏メニュー「よもぎ麩あぶり青唐田楽」も同様に、お酒が進む楽しいおでんです。色鮮やかなよもぎ麩を口に入れた瞬間に鼻に抜ける、よもぎの自然な香り。こってりとした甘さの田楽味噌にしのばせた青唐辛子の清涼感のある香りと辛さ。パンチがあるのにホッとする味わいなのは、おでんの包容力でしょう。
どちらもおでんなのに、だしのうま味やコクだけでなく香りや刺激の連打で、お酒をいっそうおいしく感じさせてくれるのです。
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おでんのグランドメニュー。定番の「おでん」とこの店ならではの「一皿おでん」が並ぶ -
季節のメニュー。「今日の日替わりおでん」は期間限定なので必食
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「おでんを超えなければ」という決意
「おでん・焼魚 中ノ森」を率いる代表の森 みずほさんは、飲食の現場に身を置き、さまざまな業態を経験してきました。本格的に居酒屋業態でキャリアを築いたのは、“ご当地酒場”に特化した業態を展開していることで知られる株式会社fun function(ファンファンクション)に入社してからのことです。
「ご当地酒場では、地域ごとに扱える食材が限られるなかで、その食材をいかに活かすかという発想が求められる環境でした。『一つの食材をどう展開するか』『どの角度からお客様に見せるか』を徹底的に考え抜いたことで、食材の可能性を引き出す力が育くまれたと思います」(森さん)。
約16年に渡り、さまざまな居酒屋運営の経験を重ねた森さんは2024年に独立。ファンファンクションの支援を受けて翌2025年4月に「おでん・焼魚 中ノ森」をオープンしました。
物件選びで決め手となったのは、築100年の歴史を感じさせる店の佇まい。「中に入るまでもなく、外見に惚れ込んでその場で決めました」(森さん)。空間づくりを手がけたのは、ファンファンクション時代からの付き合いで森さんの人柄やこれまでの歩みを深く理解していたデザイナー。「流行りのスタイルというよりも、私と一緒に年を重ねていく店、10年後に私がここに立っている姿が自然に浮かぶように設計してくださったそうです」と森さんは語ります。
「いつか自分が店を出すなら、おでんをやる」と決めていたほど“おでん愛”の強い森さんですが、それだけに「おでん種の幅に限界がある」という問題意識を強く抱いていました。一時的にブームになったトマトおでんのような新たな定番を求め、試行錯誤を重ねた末に行きついたのが、「煮物やお鍋、お浸しなどのさまざまな和食も、調理工程が少し違うだけで、広く捉えればおでんといえるのでは」という、いわばおでんの再定義でした。その再定義の延長線上に生まれたのが、湯豆腐にニラ醤油をかけて食べたらおいしかったという経験から着想を得た「ニラ醤油豆腐」だったのです。
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コップに並々と注がれる「出汁割」(649円) -
辛口でありながらも過度な主張がなく、だしのうま味を邪魔しない“ちょうどよさ”を模索し、辛口の特撰松竹梅「豪快」〈純米〉にたどりついた
香りを立たせる「ニラ醤油豆腐」も、締めの「カレーうどん」も、そして「出汁割」も、すべてはだしという一本の軸でつながっています。それはちょうど、さまざまな業態の居酒屋が連なっているこの長屋が、端から端まで、一本の太い梁でつながっているのにも似ています。
おでんのつゆが奥行きを持つのは、多彩な具材のうま味が重なり合うからですが、同じようにこの店の居心地のよさも、3人のスタッフの全く異なるキャラクターが混ざり合うことで生まれているような気がします。それぞれの個性が自然ににじみ合う空間が、訪れる人の心をゆるやかにほどいてくれることも、おでんのおいしさとともにこの店にまた足を運びたくなる大きな理由なのです。
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