2018/07/24 特集

飲食店も本気で取り組むべき時代に! 今すぐ始める働き方改革(2ページ目)

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【Special Interview】「働き方改革」を学ぶ 株式会社アトムの場合「地域限定社員制度」で多様な働き方を提案。労働環境の改善に成功し、人手不足解消を促進

2014年11月より、「地域限定社員制度」を導入した株式会社アトム。新たな雇用制度をスタートさせた背景には何があったのか。そして、その効果とは?当時、プロジェクトチームのメンバーとして労働環境の改善に尽力した、同社・ステーキ宮 営業本部の今井忠継氏と営業企画本部の鈴田裕一氏に話を聞いた。

COMPANY DATA
1972年1月創立(2009年3月26日に株式会社ジクトを吸収合併)。「すべてはお客様と社員のために。」という企業理念のもと、ステーキ・焼肉・寿司・居酒屋業態を中核に、『食』を通して価値あるおいしさ、サービス、雰囲気、安全・安心を提供する外食企業。コロワイドグループの一員として、中部・東北・北海道・北関東地区を中心に店舗を展開する。

人手不足と長時間労働の深刻化が背景にあった

――4年前に「地域限定社員制度」を導入した経緯を教えてください。

今井 2011年頃から、店舗での人手不足が目立ってきました。当社は正社員とパートナー(※当時は「準社員」)という2つの雇用形態で、パートナーとは時給契約のパートとアルバイトを指します。通常、1店舗を正社員2~3人とパートナー十数人で回すのが基本でしたが、特にパートナーの人手不足が顕著になり、2013年頃には時給を上げても求人への応募がなく、人員確保が難しい状態になっていました。

パートナーの人数が足りなくなると、必然的に正社員がその穴埋めに入らなければならず、残業が増えて長時間労働が深刻になっていました。また、正社員とパートナーの業務内容には明確な違いがあり、レジや売上金、店舗のカギの管理、開店・閉店作業、入金業務などは、正社員が行うものと決められていました。どんなに長時間働いた後でも、そうした業務をパートナーに任せるわけにはいかず、正社員の負担は重くなる一方だったのです。

もちろん、社員を増やすことも重要な課題でしたが、当時、目の前にあったのは、本当は正社員になりたいのだけれど、様々な事情で転勤や残業、休日出勤ができず、正社員になれないパートナーの存在でした。彼らの多くは、すでに同じ店で一定期間働いているので、経験もスキルも十分あります。「彼らに正社員と同じ仕事をしてもらって、戦力にしたい。そのためにはどうしたらよいのか」と考えたときに出てきたのが、正社員とパートナーの中間の雇用形態。それが、「地域限定社員制度」を始めるきっかけでした。

※1 2016年10月に改訂された社会保険加入要件に合わせ、S5も加入対象
※2 22時以降の勤務が含まれる場合、深夜手当を加算
※3 規定の半期契約満了を条件に査定の上、支給(年2回)

――制度作りは、プロジェクトチームでどのように進めたのでしょうか。

鈴田 まず、対象になりそうなパートナー約400人に、どんな条件なら働けるか、ヒアリングを行いました。ターゲットを明確に定めていたわけではありませんが、注目していたのは子育て中の主婦の方。すでにいる人材のなかから、正社員と同等の責任ある業務を任せられる人を見つけ、それに見合う待遇を用意することで、お互いにメリットがある雇用形態を目指しました。

それらを集約して、20~30人の応募を見込んで作った最初のパッケージが、「1日8時間実働・残業と転勤なし・土日の出勤なし」という働き方です。固定給であること、半期に1度の賞与支給を設けたところが、パートナーとの大きな違い。給与水準も、時給換算よりかなり優遇しました。賞与は勤務態度と店舗への外部の衛生検査の点数によって、金額が変わる仕組みです。

第1号の地域限定社員は、40代半ばの子育て中の主婦。プロジェクトチーム発足から3カ月後のことでした。「ステーキ宮」で運用を始め、最初の1年間で約50人の地域限定社員が誕生しました。そして、2017年からは居酒屋や寿司業態でも制度を導入。今では全業態で200人以上が地域限定社員として働いており、正社員と地域限定社員の比率は約5対1になっています。

今井 制度設計のポイントは、会社の都合ではなく、働く人の都合に合わせたこと。制度が始まると、「これなら私もなりたい」とか、「7時間勤務なら私にもできる」という声が挙がりました。

そこで、徐々に働き方のパターンを増やし、現在は4つに集約しています(上表参照)。基本は8時間実働の「M8」ですが、それに加えて7時間実働の「S7」、5時間実働の「S5」を追加しました。「M8」の場合、時間も9.18時の固定ではなく、例えば12~21時でもOK。休日は「月9日」としましたが、「週休は1日で十分。その代わり1日の実働を短くしたい」という声に応えたのが「S56」です。いずれも業務内容は正社員と同じ。違うのは、転勤がなく、残業をしなくてもいい点です。

「地域限定社員制度は様々な声を聞いてブラッシュアップしながら、現在の形になりました。社員の働き方の選択肢の1つになっています」と語る鈴田氏

社員の労働環境改善に貢献。店舗力の向上も実現

――制度を導入後、実際にどんな効果が生まれましたか。

今井 狙い通り、正社員の労働環境を大きく改善することができました。開店・閉店作業を地域限定社員に任せることができ、正社員が朝から深夜まで店舗に張り付く必要がなくなったことが大きいですね。また、クレーム対応や金銭の管理、新人教育などの責任ある業務を正社員が抱え込むのではなく、ときに年上で人生経験も豊富な地域限定社員と分担することで、精神的な負担も軽減されました。実際に、正社員の離職率はかなり下がっています。

鈴田 地域限定社員の方も、パートナーのときより確実に成長しています。もともと経験もスキルもある優秀な人材であるうえに、社員としての自覚が加わり、モチベーションが上がって予想以上に能動的。店のために力を発揮しようという姿勢を感じます。業務改善の提案も積極的にしてくれますし、店舗の雰囲気もよくなっていますね。

今井 さらに、パートナーのスキルの向上にもつながっています。以前は、どうしても社員が不在になる時間帯が生まれてしまう店がありました。社員がいないと気が緩みがちになるものですが、地域限定社員がいることによって常に「社員の目」が行き届きます。その結果、サービス・接客・クレンリネスなど、すべてに渡って店舗力が上がったと実感しています。実際に売上もしっかり取れており、何より、店舗へのクレームが激減しています。

――現在は、「地域限定社員」での新規採用も行っていますね。

鈴田 実は以前、親の介護をするために退職した正社員がいたのですが、その方が「地域限定社員」という働き方なら職場復帰できるかもしれない、というのです。本人としては介護と仕事を両立することができますし、会社としては、せっかく育てた人材を、みすみす手放さなくてすみます。このメリットはとても大きいと考えました。

そこで、社内にそういったニーズがあるのなら、社外にもあるのではないかと思い、「地域限定社員」枠での新規採用を打ち出したのです。

ほかの飲食企業や他業種からの応募でも、まったく問題ありません。飲食業未経験の人に対する教育マニュアルが、すべての業態で確立していますから、きちんと育成すればいい。もちろん、パートナーから地域限定社員になった人のように、社員として即戦力というわけにいきませんが、一定の時間をかければ大丈夫です。実際に、接客業とは縁遠い他業種から地域限定社員になった人が、今では正社員になり、店長を任されている例もあります。

そのほか、夜間の大学に通う30代の男性は、昼間は時間があるのでしっかり働きたいと言って応募してきました。また、その地域でしかできない趣味のために、正社員から地域限定社員への変更を願い出る人もいます。それぞれがワークライフバランスを追求し、多様な働き方を求めているのです。

多様な働き方をさらに推進。機械化された業態開発も

――今後の「働き方改革」として、どんなことを展望していますか。

鈴田 1つは、より多様で柔軟な働き方を推進して、働きたいニーズを吸収し、確実に人手不足の解消につなげたいと考えています。例えば、シニアの方の中には1日2~3時間だけ、あるいは、週1~2日だけ働きたいというニーズもあります。洗い物だけやりたいという方がいる一方で、寿司職人として高い技術を持ち、それを活かした仕事をしたいという方もいます。働く意欲があり、技術や経験が豊富な方々は、よい影響を与えてくれますし、働き手としてとてもありがたい存在。現在も1人1人の要望にきめ細かく対応し、力になってもらっています。この方向を進めていきたいですね。

インバウンドを視野に入れて、すでに正社員、パートナーともに外国人の採用も始めています。大切なのは、会社の側から「こういう人は採用しない」という壁を作らないこと。今までの枠組みにとらわれないことが重要なのではないかと感じています。

今井 同時に、量から質への転換を促し、生産性の向上に力を入れていきます。具体的には、研修制度を充実させて育成を図り、スタッフのスキルとモチベーションアップを目指します。

また、地域限定社員にもっと力を発揮してもらうため、店長や料理長という役職を導入することも検討しています。そうなれば、地域限定社員に店を任せることができ、地域への密着度を高め、より店舗力を上げることができるのではないかと期待しています。

さらに、今後の飲食店にとって機械化・自動化は必須。サービスの質を上げながら、店舗の中で機械化できる部分を検討し、少人数でも生産性の高い業態開発にもチャレンジしていきます。

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