2018/07/24 特集

飲食店も本気で取り組むべき時代に! 今すぐ始める働き方改革

人手不足が深刻な飲食業界で「働き方改革」は、今すぐ考えなければいけない問題。長時間労働の是正、多様な働き方ができる環境作り、生産性の向上など何から始めればいいのか識者の話と事例を通して考える。

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去る6月29日、働き方改革関連法が成立。政府が推進する「働き方改革」は、人手不足が深刻になっている飲食業界において、今すぐにでも考えなければいけない問題である一方、未だ手付かずの飲食店が多いのも現状だ。長時間労働の是正、多様な働き方ができる環境・制度作り、生産性の向上など、様々な課題があるなかでどう考え、何から始めればいいのか。識者の話を交えつつ、実際に改革に取り組んでいる外食企業の事例も紹介する。

【Special Interview】株式会社 船井総合研究所 二杉明宏氏休日の確保と労働時間の短縮が重要。時流に乗った改革を!

株式会社 船井総合研究所 フード支援部 上席コンサルタント 二杉明宏氏
同志社大学大学院法学研究科卒業後、2000年、船井総合研究所に入社。以来、飲食業専門コンサルタントとして、10以上の業種でコンサルティング活動に従事。特に、業態開発、新規出店、多店舗展開などのテーマでのコンサルティングが得意。ローカルチェーンからナショナルチェーンまで、支援先企業は年商1億~700億円と幅広い。

人手不足解消のため、抜本的な「働き方改革」を

飲食業界の「働き方改革」は、まさに待ったなし。「国の政策という以前に、目の前の切迫した人手不足を乗り越えるため、よい労働環境を築いて、働き手を引きつける採用力と定着力をつけることが急務」と、株式会社船井総合研究所の二杉明宏氏は指摘する。「そのための一番のキーワードが、『労働時間の短縮』です。つまり、長時間労働の是正と業務の効率化。これが飲食業界における働き方改革の中心的な課題と言えます」と解説する。

そもそも、これまでの飲食業界は、潤沢な若い働き手の存在を前提に成長を続けてきた歴史がある。時間をかけて技術を習得させ、マンパワーによるサービスを磨くことで顧客満足度を上げ、業績を伸ばしてきたのだ。

その過程では、長時間労働が肯定的に捉えられ、それが“飲食業界の常識”だった。だが、生産人口が減少し、人材の争奪戦がますます激しくなっている現在、これまでのやり方では立ち行かなくなるのは明白。二杉氏も「これまでの業界の常識に囚われるのは、もはやリスク、マイナスでしかありません」と言い切る。他の業界と同等かそれ以上の労働環境を実現しなければ、もはや飲食業界に人は来ない。

「これは“時流”です。乗れなければ淘汰されます。しかも、採用の現場は1年どころか半年で様変わりするほど変化が早くなっています。その変化のスピードを甘く見ると、取り返しがつきません。今すぐ改革のアクションを起こすべき」と警告する。

もはや、場当たり的な対応では不十分。足りない人員を穴埋めする「補充採用」に終始していてはいけない。魅力的な企業ビジョンを構築し、それを実現するための「計画採用」に、今すぐ取り組む必要があるのだ。

まず自社の現状を知り、思い切った方法で増員する

では、何から始めたらよいのだろうか。先に二杉氏が指摘したように、キーワードは「労働時間の短縮」。具体的な働き方の改革で言えば、「休日確保」と「長時間労働の是正」だ。

二杉氏は「まず、現場でしっかり就業規則が守られているかどうかを点検してください」と言う。就業規則で「月6日休」となっていても、「絵に描いた餅」状態の飲食店は珍しくないからだ。それどころか、パート・アルバイトの採用難・定着難が著しく、「社員の休日返上は当たり前」という店舗も少なくない。成長してきた飲食企業ほど、この現実から目を背けがちなのが実態だ。

二杉氏が提案するのは、「就業規則が守られない飲食企業の“常識”の打破」にほかならない。全社員にアンケートをとって実態を正確に把握することから始め、少なくとも就業規則通りの働き方を実現するためには、何人の新規採用が必要かを正しく認識することが、最初のアクションになる。

だが、新規採用に乗り出したところで、「月6日休では、現在の採用市場では何の魅力もない」と、二杉氏は手厳しい。採用マーケットは完全な売り手市場。「月9日休」がスタンダードな中で、見劣りするのは当然だ。

そこで、「『週休3日』という採用枠を設けて、採用マーケットに打ち出すのも一案」(二杉氏)。思い切った手だが、働き方改革につながる可能性は高いという。「月6日休」の既存社員とは給与などで差別化するとともに、新規採用者は基本的に本部付けとし、ヘルプのみで店舗に入る体制を整える。既存社員の休日確保と、長時間労働の是正のために彼らを活用する作戦だ。「既存社員の労働環境を改善することができれば、従業員の満足度が上がり、彼らのパフォーマンスも向上します」と二杉氏。もちろん、既存社員の休日は「月6日休」に留まってはいけない。月7日休、8日休にチャレンジし、さらにレベルアップを図ることを忘れてはいけない。その積み重ねが大切だ。

人件費の増加を受け入れる、意思決定が不可欠

だがその場合、確実に人件費は増える。二杉氏は「重要なのは、人件費増加の意思決定を、経営者ができるかどうか」と語り、「できなければ、次の一手はない」と釘を刺す。

実際、人件費をかけたことで売上増に成功しているケースは少なくない。ホールの人員が足りず、空席があるのに案内できない店は、人員を増やすことで客数を伸ばし、売上増につなげられる。忙しくて電話を受けられない店も、人員を増やしたり、電話対応を本部に任せれば、今まで逃していた予約を獲得できるはずだ。

一方、ランチ営業をやめる、閉店時間を早める、定休日を設けるなど、営業時間を縮小することで従業員の労働時間を短縮し、待遇の改善を図る店もある。二杉氏は、「一時的な措置としては有効ですし、この機会に従来の営業時間が適切なのかを見直す意味は大きい」と前置きしつつ、「労働時間の短縮によって売上が減ると、企業としては先細りです。成長を前提とするなら、人件費をかけてでも労働時間を短縮し、コスト高を売上増で吸収し、増収増益にまで持っていく戦略が必要」と語る。この場合の成長とは、必ずしも店を増やすことではなく、今ある店の収益を最大化することである。

では、既存店の収益を最大化するためには、どんな方法があるのだろうか。機械化やIT化で店舗作業の効率化を追求することも一案だ。メニューの提供方法を工夫したり、思い切った業態変換を検討する手もある。

労働環境の改善を進めつつ、柔軟な働き方の提案を

そうした努力で収益率が高くなり、成長が持続できれば、企業としての魅力もアップする。さらに、共感できる理念が会社全体にしっかり浸透し、密なコミュニケーションが取れる社風があれば、人材はより集まりやすくなる。人手不足を乗り越え、労働環境の改善を進めることも容易になるはずだ。

そのほか、多様な働き方を提案して、今まで飲食店で働けなかった人材を採用し、労働環境の改善を図ることも有効。昼間だけ働きたい人や、トレンドに敏感な若者を取り込む手段として、カフェを出店するという方法もある。

また、企業内保育所を設け、子育て中の女性の採用を促進することや、地域限定社員などの制度も効果的になるだろう。さらに、シニアの中には調理技術を持つ職人も多いので、彼らを中心に少ない人員で営業できる少し客単価が高めの業態を開発して、しっかり売上を上げることもできるはずだ。

ほかにも、2~3時間だけ働きたい人、親の介護と仕事を両立したい人もいるはず。今後は障害者雇用、外国人採用の必要性も増してくる。二杉氏は、「これからは“分業”がさらに進むでしょう」と予測し、「分業を前提にして、様々な価値観、多様な働き方を企業理念のもとに一体化すること。そうすることで、働く環境を向上させることが求められています」と説明する。

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