2018/08/28 特集

外食企業がカギを握る! 6次産業化への道(2ページ目)

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【CASE 1】
株式会社ゲイトによる6次産業化の現場をリポート

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漁は月に25日前後。社員も交代制で漁を体験!

株式会社ゲイトが持つ漁場は、三重県南部の尾鷲市の飛び地で、海に突き出た半島部に民家約200戸が並ぶ小さな漁村・須賀利(すがり)町にある。2017年に尾鷲漁協の準組合員となり、漁協が管理する漁場を紹介されて、小型定置網漁の操業を開始した。漁港から数km先の沿岸に設置された定置網は全長350m。漁船は宮城県の女川などから中古船5艘を購入し、網も中古のものを補修して使用。まだ、漁獲高にはムラがあるものの、多いときは2~3トンを尾鷲漁港に水揚げしている。

漁に出るのは月に20~25日。同社と契約する漁師5名のほか、普段は東京の飲食店などで勤務する社員も交代制で漁を体験。朝4時~4時30分に出港し、30分ほどで漁場に到着。網揚げ作業を開始する。魚を船に揚げ、帰途で血抜きして鮮度を保ち、6時30分頃に帰港。獲れた魚を港におろし、買い手がつく魚は地元漁協の市場へ、それ以外の「未利用魚」は、同社の加工場へと運び、自社の飲食店で提供する干物などの材料にする。漁師の一人・戸田聡氏は、「春から夏にかけてはトビウオなどが獲れますが、なかには値段のつかない魚も多い。生産地で廃棄される魚を飲食店で活かし、価値を高められれば」と、期待を語る。

水揚げされた魚を仕分け。東京に勤務する社員も交代で三重に来て、漁業の現場を実体験する
春はアジなどの水揚げが多く、夏にはシイラ、秋・冬はサバやブリの若魚などが獲れる

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干物やフライ用に加工するほか、店舗と連携して商品を開発

熊野市二木島町にある加工場は、後継者不在で廃業した水産加工場を譲り受け、2016年9月から操業。近くにある熊野漁協の市場で調達した魚に、定置網漁で獲れた未利用魚を加え、天日干しによる干物などを製造している。

ほか、小アジなどをフライ用にパン粉を付けて冷凍保存したり、市場ですり身を買ってつみれに加工。スタッフは愛知県出身の工場長・宮森伸太郎氏と地元で採用した女性パートの2名体制。月間で加工する魚の量は600kgほどで、完成した干物や加工品は週1回、自社の定期輸送便で都内の各店舗に届けている。「店の料理長に相談して、加工しづらい小さなサバをオイル漬けにするなど、プロのアイデアを加工品の開発に活かしています」と、宮森氏。今後は、漁場のある須賀利町でも加工を行う体制を整える予定だ。

伝統的な天日干しの干物にこだわる工場長の宮森氏。商品開発に意欲を燃やしている
漁場から車で約1時間の加工場。冷凍庫など既存の設備に加え、新たに真空包装機を購入

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三重の食材尽くしの特別なコースが好評!

「くろきん神田本店」は、食材の完全自社調達を目指す実験店の位置付けで、系列店のなかでは唯一、魚は100%自社から仕入れている。週1回、干物や冷凍の魚が三重から自社便で届く。市場では値が付かない黒ムツの子「ムツ子」や、小サイズのウルメイワシやスルメイカなど、小さくても風味や旨みは豊か。素材の味を活かすシンプルな調理法で提供している。「天日干しの干物は旨みが凝縮しており、人気が高いです。実際に定置網漁を体験し、実体験を踏まえて食材の説明ができるようになりました」と、店長の長内正之氏。

ほか、自社で獲った魚介を含む、三重の食材で構成する「生産地ファーストコース」(5,000円)も用意しており、食材に魅力を感じてオーダーする人が多い。また、「同じ宴会をするなら社会貢献している店を選びたい」と考える、社会問題に関心の高い常連客も増えている。現在、三重の農家から食材を仕入れるルートも徐々に増えており、将来的には、経営する全店舗の食材を、自社生産、および「産直」による仕入れに切り替えていこうと考えている。

市場で値段のつかない黒ムツの子をシンプルに素揚げした「ムツ子のパクパク揚げ」(637円)
「スルメイカの炙り」(594円)。炙り焼きにすることでスルメイカの旨みや香りを楽しめる一品
くろきん神田本店
東京都千代田区内神田3-22-10 竹内ビル1F
https://r.gnavi.co.jp/9ufh0f780000/2015年4月オープン。三重・尾鷲の自社漁場で獲れた魚介を売りにした居酒屋。カウンターとテーブル席を備え、ビジネス層を中心に集客。

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