”唯一無二”の店を創る!食空間演出家・大塚瞳さんが手掛ける「台所ようは」はなぜ人々を魅了するのか(福岡)

旅する料理家として日本全国や世界各国で広く学んだ食材や料理を軸に、食事と空間とを融合させる”食空間演出家”の大塚瞳さん。2020年コロナ禍に自身の店「台所ようは」を初出店。ここ数年で大きく変化した人々のライフスタイルに寄りそい店を進化させている。そんな彼女から、食をとことん追求した店づくりのエッセンスを探る。

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食事は”毎日”のこと。家ではできない、外食したくなる料理と空間でもてなす

  • 江戸時代、福岡城のお膝元として武家屋敷が立ち並んでいた大名地区の路地に佇む
  • 築50年を超える元民家(アパート)を大改装

コロナ禍真っ只中にオープンを迎えた「台所ようは」。路地の多い大名の中でも、通りに出された看板を見逃すと辿り着けない場所に建つ築50年の元民家。軒下には白菜が干されていることもあるなど、ここが大名とは思えないノスタルジックな風景もこの店の日常だ。

どこか懐かしさを感じる色調と空間。オーナーの大塚瞳さんが創る、くつろぎの時間が流れる
カウンターには大塚さん自身が選んできた食材で作るおばんざいと、世界各国で学び、自ら調合するスパイスがズラリと並ぶ

少々重たい扉を開けると、しっとりと落ち着いた空間が広がっている。カウンターには、その日オーナーの大塚瞳さんが道の駅や直売所で仕入れてきた地元食材を使って作られるおばんざいがズラリ。地元の人も観光で訪れる人も、およそ半々くらいだと大塚さんは言う。また、年齢や性別も偏りがなく、老若男女幅広く訪れている。

カウンター席にはふらりと1人で、テーブル席で食事会など、さまざまな用途で利用できる

料理のテーマは「毎日食べたくなるごはん」。一見、家庭でも供されるようなおばんざいも、調味料から全部手作りで、家庭ではかけることのない手間をほどこす。この、ここでしか味わえない、料理に生み出された唯一無二の価値が人々を魅了しているのだ。

台所ようは(福岡・大名)
福岡県福岡市中央区大名1-4-28
https://r.gnavi.co.jp/9m9b33680000/
2020年10月、福岡・大名の路地にオープン。1階は「台所ようは」、店内の階段を上がった2階には「MINT BAR HAKKA」があり、「台所ようは」の料理、「MINT BAR HAKKA」のドリンクを相互提供している。2023年7月には、12~15時のランチ限定業態「とんかつようは」の営業もスタート。

目次
【POINT1】この街にこんな店があったらうれしいをカタチに!
【POINT2】全国津々浦々に伝わる郷土料理を再構築して発信
【POINT3】人々のライフスタイルの変化に対応した、ランチ限定業態「とんかつようは」

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2008年から15年間、食空間演出家として国内外で活動してきた大塚さん。食に対する基盤はその活動を通して培われている。全国の生産者を訪ね歩き、ときには農家のお母さんが作る郷土の家庭料理を食べさせてもらうことも。その土地ならではの料理の奥深さに惹かれる一方で、継ぎ手が少なく、郷土料理が途絶えてしまう不安を覚えたそう。

オーナー・大塚瞳さん。「誰とどこで何を食べる」のか、毎日の食事一つ一つを大事に考え、その日の食材で外食だからこそ味わえるメニューを提供する

「全国津々浦々のお母さんと出会い、料理を教えていただきました。あんなにもおいしく知恵が詰まった料理を残していかなければと考えていたところ、築50年ほどの古民家を使った飲食店経営の話をいただいたんです」。

当初は店を持つことを躊躇していたが、この空間を見た瞬間、大塚さんの頭には、カウンターの奥でエプロン姿の女性たちが料理をする姿が浮かび、出店を決意。こうして2020年10月、「台所ようは」はオープンし、コロナ禍にもかかわらず、2022年にはフランスの有力レストランガイド『ゴ・エ・ミヨ2022』にも掲載されるなど、食を追求した独自性の高い料理が国内外から注目を集め続けている。

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【POINT1】この街にこんな店があったらうれしいをカタチに!

現在、大塚さんは福岡市と唐津市で3店舗の飲食店を運営している。約15年間食空間演出家として活動し自身の店を持たなかった大塚さんが、2020年以降立て続けに店を出したのは、ちょっと意外な展開かもしれない。けれど、この3つの店には共通点がある。大塚さん自身がその“物件”や“場所”を気に入り、「この街にこんな店があったらうれしい」と思った店を作ったのだ。

「料理そのものというよりも、大切なのはこの空間を大事にできる飲食のカタチを創ること」と、大塚さん。

「台所ようは」店内中央に、「MINT BAR HAKKA」へ向かう階段がある
  • 店内に水耕栽培の水槽が常設。この水槽で育ったミントを使ったカクテルなどを提供している
  • バーカウンター席。店中に爽やかなミントの香りが広がる

2階に「MINT BAR HAKKA」を作ったのも、大塚さん自身が食事をした後に2軒目を探すのが億劫(おっくう)だと感じたから。「お客様にずっとこの場所に居てほしいというよりも、こんな気の利いた店があったらうれしいだろうなという気持ちの方が強いですね」(大塚さん)。「台所ようは」の料理と、「MINT BAR HAKKA」のドリンクを相互提供している。

おすすめNo.1のモヒート(1,200円)。フレッシュミントをたっぷり使った、ラムベースのミントカクテル

国内外を飛び回り、好きな人たちとおいしい料理を食べ歩き続けてきたからこそ、食べ手目線の発想も取り入れて、魅力あふれる店の空間を作り出せるのかもしれない。

【POINT2】全国津々浦々に伝わる郷土料理を再構築して発信

10年以上前、スペインに数か月滞在していた大塚さんは、東京ではなく自身の地元である福岡に戻ることにした。そのときに安納芋を栽培しているという幼なじみの友人と再会したことが、全国の農家を巡る旅に発展する。

「農業を始めて半年ほどだというのに、幼なじみが育てた安納芋がとてもおいしくて。それなら、ベテランの生産者が育てた作物はどんなにおいしいのかが気になってきて。2人とも時間がたっぷりあったので、ドライブをしながら生産者を巡り始めました」。一方、同じ土から生まれた"作物"と"器"を使い、この2つを結びつけた料理会を開催するようにもなり、その活動は全国へと広がっていく。と同時に、生産者を巡る旅も全国に広がり、自ずとその土地に伝わる料理を食べたり教わったりする機会も増えた。

店内には、手作りの調味料やドリンク、各地の風土や暮らしから生まれた食生活を記録した「日本の食生活全集」が並ぶ

大塚さんは、こうして学んだ郷土料理を再編集し、各地で開催されるイベントでも提供し始め、全国47都道府県にその土地のおばんざいをテーマにした食堂を作るプロジェクトを立ち上げた。「台所ようは」はその記念すべき1号店。「名物のもつ鍋や水炊きだけではない、福岡らしい季節の料理を味わえる場所でありたい」と、大塚さんは考える。

6〜7種類の鍋料理や、丸鶏などの名物をはじめとするアラカルトメニューのほか、3種類のおまかせコース(6,800円〜)も用意している。

「台所ようは」にしかない料理。おばんざい「八点盛り」(4,200円/写真左上)、丸鶏「中国しょうゆ香味料づけ風」(1羽3,800円/同左下)、「薬膳とり鍋」(1人前5,800円/同右)
  • カウンターにズラリと並んだ大皿料理から豆皿で少しずつ提供されるおばんざい「八点盛り」
  • アジアの街並みのように吊り下げられた状態で保管される丸鶏
鶏の全ての部位が入った「薬膳とり鍋」(1人前5,800円)。たっぷりのきのこもうれしい
お酒との相性を意識したメニュー構成ゆえ、厳選した中国酒や日本酒、焼酎とドリンクの品ぞろえも充実
見やすく温かみのある、手書きのお品書き

【POINT3】ライフスタイルの変化に対応した、ランチ限定業態「とんかつようは」

コロナ禍で時短要請や休業要請が発出される中、何時から何時までお店を開けるのが正解なのか、分からない状況が続いた。「外に出られない時期を経験し、人々のライフスタイルは大きく変わりました。外でお酒を飲む機会は減り、この界隈も22時以降の人通りは減りました」と、大塚さん。2023年夏、閉店時間を24時から22時に早め、昼からの営業に切り替えた。

一つ一つ、丁寧に作られた「厚切りロースとんかつ(極厚300g)」(2,500円)。家庭ではかけない手間をかけることの付加価値を感じられる

また、大塚さんは常々、福岡には東京のようにおいしいとんかつ店がないと感じてろい、その思いからランチタイム限定で「とんかつようは」として営業することにしたのだ。

約1カ月に渡りさまざまな銘柄豚を食べ比べ、あらゆるとんかつ専門店に足を運び、「厳選した豚肉(福岡・糸島豚)を使う」「おいしいご飯を土鍋で提供する」「自家製の味噌を使った熱々の味噌汁」「漬物も自家製で」「キャベツはソースをかけずにいただけるようワインビネガーで味をつける」という、大塚さん自身が「ココがこうだったらいいのに」と感じた5つのポイントを整えた。

サイズは小(150g)、並(200g)、厚(250g)、極厚(300g)の4種類が用意されているが、大塚さんは極厚を推す。「衣と揚げ具合のバランスが良いのが極厚なんですよ」。きめ細かな肉質で、やわらかく食感も軽いため、300gもあることを感じさせず、女性でもペロリと完食してしまうという。

「この街にあったらいいな」という客目線の店づくりが大塚さんの信条。その率直な思いに、これまで培ってきた大塚さんの圧倒的なセンスが加わることで、独自の価値を見出している。

オーナー 食空間演出家・大塚瞳さん
1981年、福岡県生まれ。料理上手でおもてなしを大切にする祖母や母の影響で、幼い頃から料理や室礼に興味を持つ。食べることが大好きで国内外を巡り、さまざまな味に親しみ、料理研究家や農家のお母さんからさまざまな料理を学ぶ。2020年10月に「台所ようは」を、2022年6月に「食堂ミナトマル」(現在一時休業中)、同年7月に「たまとり」をオープン。並行してケータリングや、店舗・旅館などのメニュー開発プロデュースなども手掛けている。

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