2026/06/09 コラボ企画

神田「80年代酒場 部室」5坪2階の立地で、10年黒字!趣味×没入空間の経営術

「80年代酒場 部室」は、JR東日本「神田駅」から伸びる大通り沿いのビルに看板を掲げる。放送作家の安野 智彦 氏は、趣味の餃子づくりが高じて、資金400万円の無借金で開業。5坪・2階の不利に思える物件に客を呼び込むため考えたのは、「餃子×昭和80 年代没入空間」というコアな世界観。安野氏は“完全に趣味”と言い切るが、開業から10 年間、赤字はない。趣味と経営は、果たして両立するのか話を伺った。

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※スマイラー121号(2026年4月)より転載

5坪2階を逆手に取る!「世代特化型」の空間設計

安野氏が餃子に凝り始めたのは今から約15年前。放送作家として、仕事のプレッシャーから解放されるべく、休みに趣味として餃子づくりを始めたという。作り続けるうちに上達し、いつかこれを誰かに食べさせたいと思ったのがきっかけだと語る。

店舗入口外観

目標は借金ゼロスタート。エリアは神田と決めて探し、見つかったのは駅から徒歩1分ほどの、5坪・2階・家賃約12万円の物件。 

「よっぽど個性きつい店じゃないと、餃子だけで階段上がってもらえないじゃないですか。僕の青春がちょうど80年代なんですよ。店を始めたのが46才のときだから、我々の青春時代ががっちり詰まっている店を作ったら、少なくとも僕の年代の人は来るだろうな、と。それは計算してまぁ、当たりましたね」と安野氏。

屋号はその狭い物件を見た瞬間、高校時代に属していた柔道部の“部室”を連想して生まれた。「考えたら部室って、練習終わった後にみんなでダラダラ、げらげら笑いながら喋(しゃべ)る、今で言う“サードプレイス”。コンセプトに合ってるなと思って」。

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原価率を抑えるメニューと、客を呼ぶコンセプトの力

名物の餃子

メニューはオペレーションを簡素化するために絞っている。餃子と角ハイをメインにしたのは、ビールは利益率が低いためだ。 「餃子とビールってだいたいセットだけど、ビールばかり飲まれると困っちゃうなと思って(笑)」。

客単価は3,000円程度。定員は最多で12人くらい。1日1~2回転する。 「今、いっぱいなんですよ、っていうことがすごく多い。本当は回転させたいけどできずに終わっちゃうパターンです」と安野氏。

東北出身の安野氏にとって、東京でしか放送されていない番組は憧れそのものだったと話す。店の内装はその憧れを体現したような場所だ。店内に所狭しと展示されたグッズやレコードは、 「宝探しが楽しくて、楽しくて。毎日のように集めています」。

元は餃子を食べてもらいたい動機だったが、今では80年代コンセプトの設え(しつらえ)の方に力が入っている。来店目的も餃子というより“80年代に浸る”ことが主だそう。「そっちのお客様が9割5分ですね」。

とはいえ、長年試作を重ねて厳選した3種の餃子は、有名飲食雑誌に掲載されるほどのクオリティーを保っている。

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店は自分だけの舞台!企画力が熱狂的ファンを生む理由

新規とリピーターの比率は3対7。安野氏つながりではなく、店で知り合った客同士でコミュニティ化しているという。

そんな中、新規客でリピーターになってくれそうな人たちを楽しませる方法がある。「一番ね、盛り上がるのは〝イントロクイズ〟なんですよ」と安野氏。

店内は廊下のように狭い

昭和を代表する歌謡番組の特定年月を来客に決めてもらい、10位から1位までやっていく。 「これは100パー(%) 盛り上がります」。

安野氏はクイズ作家もしていたため、かつてのクイズ番組を真似たものもある。 「放送作家としていろんな番組や、イベントをやってきましたけど、組織に入っていると上司の顔色見るとかあるじゃないですか。ひとりで企画して、イントロクイズも自分でMC やって、要するにこの店をプロデュースして、ディレクションして、自分の喋る脚本を考えて、“全部自分でやっている番組”みたいな感じ。人生の中でね、これが一番ヒットですね」と言う。

仕組化された「サードプレイス」が実現する、趣味と黒字の両立

安野氏は本業のため、営業中に出かける日がある。そのときは、ほぼ善意の常連客4~5人が、月1回程度のシフトを組んで交代で手伝ってくれていると話す。「僕は『じゃあテレビ行ってきます』って出て行って、後はここで締め作業をやってくれる感じですね」。

2025 年は寿司スクールに通った。飲み放題宴会コースには餃子、寿司、安野氏の郷土料理の芋煮、イントロクイズが含まれる

お礼として、当日“飲み放題”の特典を付与しているそうだ。

店は、安野氏にとって生活の一部だ。「事業って捉えたことなくて。これがなくなると僕はもう抜け殻みたいになりますね。高校時代の日曜日に『今日誰か遊びに来るかな』みたいなのが今も続いている感じ。『今日誰が遊びに来るんだろうか』、『あぁ、常連の…あぁ、君か』、『あ、新しい友達来たな』みたいな。だから商売って意識も生まれていなくて。僕の趣味のお店に同じ趣味の人がやって来て、昔の話して楽しんでる、って感じですかね。しかもそういう人たちみんなお金持ってくるんですよ(笑)奥さんとの約束で、テレビの仕事のギャラは全部家に入れろ、ハイわかりました、と(笑)ここは私の小遣い稼ぎの場なんですよ」。

店は氏にとって憩いの場のような存在でもある。「ここは僕の趣味の店だから、嫌な客がいたら追い出すんです(笑)だから商売と言えるのかな」と安野氏。

それでも開業以来、赤字を出したことはない。趣味はうまく設計すれば“続く店”にも“人生の代表作”にもなりうる。

文:高山 浩子
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。
取材協力:80年代酒場 部室
住所:東京都千代田区内神田3-21-6 森山ビル2F
https://www.facebook.com/80nenndai/?locale=ja_JP

■飲食業界誌「スマイラー」

“飲食店の笑顔を届ける”をコンセプトに、人物取材を通して飲食店運営の魅力を発信。全国の繁盛店の紹介から、最新の販促情報、旬な食材情報まで、様々な情報を届けている。毎月15,000部発行。飲食店の開業支援を行う「 テンポスバスターズ 」にて配布中!

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