2019/07/16 特集

人材が定着する“いい店”になるために 評価制度を見直そう(5ページ目)

URLコピー

【STEP4】評価制度を運用する

コミュニケーションツールとして活用し、成長につなげる

点から面への取り組みで、継続的運用を追求する

 せっかく評価制度を作っても、うまく運用できず、立ち消えになっている外食企業は少なくない。三ツ井氏は「最初に始めるときは、精度よりも運用のしやすさを優先するべき」とアドバイスする。評価項目が多いと感じたら、とりあえずは可能な項目から始めたり、評価項目を実情に合わせて変えたりしていくことも必要だ。

 「うまく運用できない原因には、評価制度が“点の取り組み”になっていることが挙げられます」と三ツ井氏。「評価制度とは、評価自体が目的ではなく、店のあるべき姿を明確にし、スタッフの成長と店の発展を促すことが目的。しかし、評価や人材育成、店づくりなどをそれぞれバラバラに考えていると、仕事が増えるだけで運用しきれなくなるのです」と指摘する。逆に、評価制度を軸にした“面の取り組み”にできれば、評価制度が不可欠であることが実感されるはずだ。では、どのように運用すればよいのだろうか。

 三ツ井氏は、「評価制度はコミュニケーションツール」と語る。評価シートには個々人の能力が「見える化」されている。これを活用して「フィードバック面談」を行うことが大事なのだ。面談によって、自分の現在地や上司の評価を知り、次の目標を決めることでスタッフの成長が促される。つまり、評価制度が人材育成につながっていく。三ツ井氏は「評価シートがなければ自己評価と上司の評価に差があることさえ認識できない可能性があります。成長の機会を生むという意味でも評価制度の存在は大きい」と指摘する。

 また、評価シートの項目は店の「あるべき姿」が明文化されたものなので、若干のアレンジで「人材育成カリキュラム」としても活用できる。例えば、新人アルバイトにホールの仕事を教えるとき、⑤個人スキルの「評価シート」にある「ホールの評価項目」に沿って業務内容と「あるべき姿」を説明すれば、戦力として育てるためのツールになる。

 さらに、評価制度は個人だけでなく、店や会社の発展にも大きく貢献できる。複数店舗の場合、それぞれの店長が行う評価にバラつきが出るのは避けられないが、これをすり合わせる過程で、様々なメリットが生まれてくる。

 まず、店長会議などで各スタッフの評価結果を照らし合わせると、評価が甘い店長と厳しい店長が明らかになる。これをすり合わせて公平性を担保し、評価基準が確定すると、店舗間の差が浮き彫りになる。そうなると、各店の課題が明確化され、取り組むべきことが具体的になる。「評価シート」の中に、他店よりも評価が低い項目が見つかれば、それが店の弱点である可能性が高く、弱点がわかれば対応は可能だ。店長は次にすべきことが明確になり、やる気を刺激される。加えて、評価の高い系列店がどの店で、スキルの高いスタッフが誰なのかも「評価シート」で明らかになっているので、彼らから学ぼうとする意識も生まれる。これで、評価制度が研修や人材育成につながることになる。

 店長間の評価基準の差は、「いい店」のイメージが違っていることを意味し、目指すべき方向にも違いがある可能性がある。この違いを評価シートを見ながらすり合わせていくと、“いい店”のイメージが全店で共有され、グループとしてのスタンダードレベルが決まってくる。「スタンダードレベルが明確になると、各店がそれを目標に、弱いところのレベルアップを図ります。この動きが企業文化の一部を形成していくのです」と三ツ井氏。経営者も店の発展方向に確信が持て、経営ビジョンを描きやすくなる。「この流れが続くことで、繁盛のルール化が促進されます。“繁盛のルール”とは、こうした取り組みを継続することで見えてくるものなのです」と、三ツ井氏は解説する。

 人が成長し、店と会社の成長につながる評価制度。成長のためには、継続的な運用が欠かせない。また、評価制度自体も固定せず、常に磨き込み、最適化を図ることが重要だ。ぜひ、多くの企業でチャレンジしてみてほしい。

全7ページ