2019/07/16 特集

人材が定着する“いい店”になるために 評価制度を見直そう

明確な基準に則って、スタッフの能力を判定する評価制度。導入する企業が増えているが、うまく運用できていないケースもある。人材定着にもつながる評価制度について専門家に聞き、2つの外食企業の事例を紹介する。

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【イントロダクション】“あるべき姿”を明確にし、人材の定着と成長を促進

株式会社スリーウェルマネジメント 代表取締役社長 経営コンサルタント 三ツ井創太郎 氏
大学卒業後、飲食企業に就職。多店舗化に向けた組織構築や業態開発などを10年以上経験した後、株式会社船井総合研究所に入社。多数の飲食企業の支援を行う。2016年、株式会社スリーウェルマネジメントを設立し、個人店から大手外食企業まで幅広くサポートする。著書に「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則」(同文舘出版)がある。

“あるべき姿”を明確にし、人材の定着と成長を促進

 「近年、評価制度を導入する外食企業は増えています」と語るのは、株式会社スリーウェルマネジメントの三ツ井創太郎氏。その背景には、人手不足や人件費の高騰、そして、社会全体の「働き方改革」があると指摘する。

 「多くの人を採用できた時代は、人海戦術で店を回すことができました。しかし、現在の人手不足の状況では採用数自体が少ないので、定着させることが非常に重要。加えて、人件費の高騰と働き方改革によって、労働時間に制限がかかっています。つまり、採用できた数少ないスタッフには、定着はもちろん、今まで以上に“密度の濃い仕事”をしてもらい、生産性を高めてもらわないといけないのです」。

 この課題を解決するために有効なのが評価制度だ。今まで経営者が伝えてきた“店(企業)のあるべき姿”を、誰にでもわかるよう明文化すると同時に、「密度の濃い仕事とは何か」を明らかにする。それに沿って個々人を評価し、スキルアップを促す仕組みだ。

 「評価制度によって、今まで経営者が熱意と感覚で行っていたスタッフの評価に、客観性と論理性が生まれます。評価と売上の関係が見えてくれば、モチベーションとスキルアップを図ることが可能になります」と三ツ井氏。ただし、「経営者の熱意や感覚は排除するべきではありません。理念の浸透など、精神的な部分をどう評価制度に組み込むかも重要な視点」と付け加える。さらに、“店のあるべき姿”と評価の基準がはっきりし、評価と賞与・昇給が連動すれば、キャリアビジョンも見えてくる。「キャリアビジョンが示せれば、採用のマーケティングとして機能します。それが評価制度のメリットの1つ」と三ツ井氏。求職者は、入社後のキャリア形成をイメージできる企業に魅力を感じるもので、採用力をつけるためにも評価制度は有効と言える。

 では、実際に評価制度を導入するのに適切なタイミングとは? 三ツ井氏は「3店舗までの成功要因の大部分は、経営者の個人的な力量ですが、それより上を目指すのなら、マンパワーからシステムへの変換、すなわち仕組みを整えるべき」と指摘する。店舗数が3店舗までは「経営者の目」が行き届いているが、5店舗を超えると、この「経営者の目」だけでは店舗をマネジメントするのが難しくなってくる。そのため、評価制度などのマネジメントシステムの構築が不可欠になる。

 ただ、「評価制度は、重要度は高いが緊急性が低いので後回しにされがち」(三ツ井氏)。そのため、制度はあるが運用されていない企業が少なくない。

 次ページからは、評価制度作成の手順と運用についてくわしく述べていく。その前に、「飲食店の評価の種類」を押さえておこう。下の図のように、飲食店の評価の種類には、報酬を伴うものと伴わないもの(金銭・非金銭)、評価スパンの長短(長期・短期)があり、大きく4つに分類できる。

 「名誉認定」とは企業・店に長期勤続したスタッフを称えることなどを指し、「表彰」は、月間や年間での成績優秀者の表彰。なかでも導入しやすいのは「目標達成インセンティブ」。短期的な目標達成に対する報酬で、わかりやすさと運用のしやすさが特徴だ。

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