2018/01/23 特集

ますます進化し、全国に広がる 横丁型酒場の最前線(2ページ目)

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ほぼ新宿のれん街都心の一角に奇跡的に残された昭和が薫る街並みを横丁に再生

古い物件を活かしたレトロな街並みは風情満点。非日常感が人々を引き付ける

レトロかつ未来的な空間が新たな人の流れを生み出す

2017年3月にオープンした「ほぼ新宿のれん街」は、築40~50年の古民家7棟を、丸ごと再生したユニークな横丁型酒場。JR・代々木駅や新宿駅に近い都心の立地でありながら、まるでタイムスリップしたかのようなノスタルジックな風景が広がり、オープン以来賑わいが絶えない。人気を集める大きな理由は、のれん街のエリア全体に、日本の古き良き情緒が色濃く漂い、SNS映えすること。元の建物や街並みを極力活かしてリノベーションしているからこそだ。「山手線の駅近くで、これだけの数の古民家が残っていたのは奇跡に近いこと」と、企画発起人である株式会社Good market & shopsの代表取締役・清水暁弘氏は語る。

清水氏は今回、古民家物件の開発経験が豊富な株式会社スパイスワークスの下遠野亘氏とタッグを組み、プロジェクトを進行。スパイスワークスが設計・内装を担当した。7店はそれぞれ面積や造り、内装が異なり、業態も多様。「オーソドックスな和の業態に加えて、古民家のイメージとは相反する洋の業態もバランスよく混ぜることを意識しました」と、清水氏。その結果、レトロな中に無国籍感や未来感も漂う魅力的な空間が誕生した。店先の小田原提灯や玉砂利など、統一のアイテムを導入することで、のれん街としての一体感も演出している。古い街並みに懐かしさを感じる40代以上や、逆に新しさを感じる若者世代、さらにファミリーまで客層は幅広い。アクセスのよさもあって、一度足を運んだ人が友人や知人を誘って再訪するケースも多く、一帯に新たな人の流れを生み出している。

工事前の様子。10年以上空き家の状態で、外壁をツタが覆っていた
公式ホームページに表示する地図は、あえてデフォルメし、新宿駅からの近さを訴求
オープンキッチンのカウンター席が印象的な「Azzurro520」の1階。1、2階ともテーブル席もある
鶏料理専門の「神鶏」。天井が吹き抜けで開放感があり、豪華な和の内装
アジアの屋台をイメージした「炭火焼アジアン酒場 アローイ兄弟」。2階は貸切にも対応
もつ焼き、串焼きを豊富なワインとともに楽しめる「もつ焼きとワイン★キャプテン」

仕掛け人 Interview 横丁のここがポイント!

株式会社 Good market & shops 代表取締役 清水暁弘 氏
大学卒業後、店舗流通ネット株式会社に入社。「恵比寿横丁」などのプロジェクトに携わり、企画・リーシングを担当。2013年に株式会社 Good market & shopsを創業。企画・リーシングや業態販売などの事業を手掛ける。

失われゆく懐かしい風景を次の世代に継承したい

当社は、①業務委託事業および企画・リーシングと、②業態販売・FC管理を手掛けています。「ほぼ新宿のれん街」は①の一環として始めたもので、その発端は、1棟の単体の物件でした。JR代々木駅東口近くに空き物件が出たと知り、現地を見に行ったところ、駅至近ではあるものの、飲食店が多い西口の反対側で、正直、初見では厳しいなという印象でした。ところが、ふと裏の路地を見ると、空き家になっている民家がほかに6棟もある。そこで、単体では難しくても、7棟を丸ごと飲食店街にできればおもしろいのではとひらめきました。物件はどれも築40~50年で、文化的価値も高くはありません。しかし、都市開発でこの景色が失われてしまうのはあまりにも惜しい。街づくりの意味合いも合わせ持つ飲食店街計画になる、と直感したのです。さっそく調べたところ、一帯の民家は同じ大家さんの所有であるとわかり、企画書を持参して交渉を重ね、7棟まとめて借りることができました。10年以上空き家の状態でしたが、基礎に大きな傷みはなく、最小限の修繕で対応できたのは幸運でした。一方、ガスや水道、電気などのインフラは大規模な工事が必要で、結果的にオープンするまでに1年近くを要しました。

「ほぼ新宿」と、代々木よりも新宿を打ち出す名称にしたのは、世界随一の乗降客数を誇る新宿駅の利用者をターゲットにしたいと考えたから。私自身、最初に物件を見に行った帰り道、徒歩で新宿駅南口まですぐに到着できたことに驚きました。そんなに近い印象を持っていなかったんです。また、すぐ近くの明治通り沿いはアパレルショップが集まり、流行に敏感な人たちが潜在的に多いエリア。「古民家×都心」のコントラストがこれほど際立つ風景は、ほかにそうそうないので、工事中から多くの若者や外国人観光客が写真を撮ってSNSにアップしてくれました。これが期待値の向上や認知度アップにつながったと感じます。

店同士の連携がもたらすアイデアや発信力が強み

テナントの店舗選定は、のれん街の全体像をこちらで描いたうえで、「この区画でこういう業態を出しませんか?」と、人脈をたどって打診しました。公募しなかったのは、このプロジェクトの意義に共感し、雨漏りや隙間風といった古民家のデメリットも“味”として受け入れてくれる人たちと一緒に、のれん街を作り上げていきたかったからです。

複数の店が集まる横丁型酒場のメリットは、オープン時やイベント時の発信力・集客力が大きくなることです。SNSで拡散されるスピードも、単体の店舗にはないものがあると感じます。ありがたいことに、オープン初月から想定以上の集客を達成できたのも、そうしたパワーがあったからこそ。現在も月に1回、各店の店長が集まる場を設け、共同でのイベント企画などをしています。互いに助け合いながら商売ができる風土は、横丁型酒場ならではのものだと思います。

はしご酒を楽しんでいただくことも意識していますが、それよりも、次にまた別の友人や知人を連れて、繰り返し足を運んでもらうことが大切だと考えています。そのためには、アクセスしやすい立地や、人に教えたくなるような個性ある空間づくり、そして、ほかにない魅力ある業態が必要です。つまり、最初の構想段階からの緻密な戦略が不可欠であり、単に複数店舗が集まれば横丁として成立する、というものではないと考えています。価値を見過ごされがちな昔懐かしい街並みや文化を次世代に残すという本質を大切に、ハレの日に行きたくなるような楽しい横丁を、ていねいに作っていきたいですね。

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