近年、幅広い世代にファンが増えた横丁型酒場。新しく、多様なコンセプトの横丁も全国に登場し、賑わいを見せている。なぜ、人は横丁へ向かうのか? 今注目の横丁とは? 店や地域のメリットとは? 昨年新たに誕生した横丁の仕掛け人へのインタビューを通して、人気の秘密、運営のポイントを探る。
上野産直飲食街ブームの火付け役が手掛ける地域の“溜まり場”となる産直横丁
魚、牛、豚、貝の4店が結集。24時間営業の大衆酒場
2017年7月、JR上野駅浅草口から徒歩1分の好立地にオープンした「上野産直飲食街」。2008年オープンの「恵比寿横丁」など数々の横丁型酒場を世に送り出し、“横丁ブーム”の火付け役となった株式会社浜倉的商店製作所が運営する最新の飲食街で、全10店舗の飲食店が入る商業施設「FUNDES」の開業と同時に、1階に登場した。
“産直”を打ち出した飲食街としては、有楽町、新橋に続いて3つ目。これまでとの違いは、新築のビルの中にオープンしたことだ。「店舗設計は正直、難しいことだらけでした。看板や軒の設置場所を工夫したり、壁にエイジング加工を施し、古き良き大衆酒場の雰囲気が出るように注力しました。今後も新築の物件へ出すことが多くなると見越しての挑戦でもありました」と、代表の浜倉好宣氏は振り返る。
上野産直飲食街を構成しているのは、魚、牛、豚、貝の各食材をテーマにした4業態・4店舗。いずれも直営で、各店を仕切る壁はなく、1フロアが一帯となった構造。別の店舗のメニューをキャッシュオンの出前で注文できるサービスもある。メニュー構成は「魚ならマグロの中落ち、牛なら450gのステーキと、それぞれに“冠メニュー”を作りました」と浜倉氏。
昼から飲む女性客がいる一方で、夜には流しのミュージシャンやマジシャンなどが来て場を盛り上げており、24時間楽しめる酒場としての工夫が盛りだくさん。ビジネス層や観光客、近隣に住むファミリー、外国人など、幅広い客層で1日中賑わいを見せている。
仕掛け人 Interview 横丁のここがポイント!
リスクを共有する運命共同体が高い相乗効果をもたらす
当社では「恵比寿横丁」を皮切りに、様々なスタイルの横丁型飲食街を運営・プロデュースしています。恵比寿横丁の物件との出合いは2005年のこと。当時、全国展開する大手チェーン店と、個人経営の大衆酒場の二極化が顕著になり、その中間に当たるような店が少なかったため、チェーン店を卒業した層が行き場を失っていたんです。そこで、シャッター街になっていた公設市場の環境を活かし、古き良き日本の酒場文化を次の世代へ繋ぐため、個性が活かせていない飲食人の開業環境を創ろうと考えました。2年かけて地権者などと交渉し、2008年にようやくオープン。1区画当たり3坪が最も多く、一番狭い区画は1・4坪。しかも横丁の環境は夏は暑く冬は寒い。そこで「屋台のような環境で一緒に通りを盛り上げたい」という想いを伝え、「本気で面白いから参加したい」というオーナーさんのみを募りました。
業態がバッティングしないよう、出店希望を募る前に、僕が「焼鳥」「串カツ」「おでん」など30業態を考え、希望者に業態と場所を選んでもらいました。通常のテナントリーシングとは真逆のやり方です。ただし、そのほかの細かいルールは決めていません。例えば、営業時間は各店が自由に決めており、ある店が深夜まで営業をしたところ盛況だったので、次の日から、ほかの店も営業時間を延長したというケースもあります。ルールがないことで、協力し合いつつも互いに刺激を与え合うことができ、いい意味での競争が生まれる。それによって次々にアイデアが生まれ、横丁全体の活気につながるのです。
内装は、昭和の空気感を漂わせるため、ちょうちんや看板の形、素材、位置まで徹底してプロデュースしました。きれいに作りすぎると、大衆酒場の雰囲気が出なくなる。これは「上野産直飲食街」でも同様です。
地域文化となるコミュニティ、“たまり場”を創る
恵比寿横丁が業態のバリエーションを軸にしているのに対し、有楽町、新橋、上野の「産直飲食街」では食材を軸にしています。魚、牛、豚、貝など食材をメインに据えつつ、サイドメニューはその地方の郷土料理を取り入れ、本物の産直食材を気軽に食べたいお客様、都心で食材をアピールしたい生産者、差別化を図りたい飲食店の“Win-Win-Win”の場所づくりを目指しました。このプロデュースを通して、産地とのつながりは徐々に増え、今では当社で取り扱う食材の数は9000以上。各店のメニューも100以上あり、ほとんど手作りのため仕入れ、下処理、メニュー開発などに相当な手間がかかりますが、その“手間”が、多くの方に支持していただけている理由の1つだと思っています。
また、上野産直飲食街は近隣にホテルや病院があり、24時間のシフト制で働く人たちのニーズがあるため、24時間営業にしています。利用シーンも多様になっているので、ゆくゆくはおじさんが酒を飲んでいる横で、家族がごはんを食べている、昔の食堂のような場になればと思っています。
横丁型飲食街が時代に受け入れられている背景には、肩肘を張らずに楽しめる“たまり場”が少なくなっていることがあるのではないでしょうか。また、個店の集合体によるリスク回避という点で、昨今のビジネススキームに乗りやすいですが、不動産的な発想だけでは成功しないと思います。家主さんの意向、商圏、投資、賃料、テナント、運命共同体など、すべてがそろわなければ、継続できないのが横丁。だからこそ、マーケットニーズに合わせて成長させ、地域になくてはならない“存在店”へ、日々作り込んでいくことが大切だと思っています。