客単価1.6倍&女性比率アップ!名古屋の老舗居酒屋「大甚本店」の経営改革

創業1907年の名古屋の名店「大甚(だいじん)本店」が、伝統の樽酒やセルフ式小皿料理の魅力を守りながら、客単価2,500円から4,000円への大幅アップと客層拡大に成功。新規の女性や20代を惹きつけたドリンク・アラカルトの追加、利益率向上の仕組み、ファンを飽きさせないSNS活用法まで、4代目の山田 泰弘 氏が実践した「古き良き伝統とデジタル融合」による劇的な経営改革に迫る。

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4代目による温故知新の改革で時代に合わせて進化!

創業1907年(明治40年)の「大甚本店」は、地下鉄東山線伏見駅から徒歩1分の好立地に店を構える居酒屋。1960年(昭和35年)に3代目が学食からヒントを得て始めた、来店客が小皿料理をセルフで取っていくスタイルを守り続けている。

10年ほど前までは客層は近隣のビジネス層やシニア層が大半で、客単価は2,500円前後だった。現在4代目(2023年就任)を務める山田 泰弘 氏が経営に携わるようになってからは、セルフ式の小皿料理と名物の樽酒(日本酒)は残しつつ、女性のニーズに合わせたドリンクや、新たなアラカルトメニューを拡充し、客単価は4,000円になり、売上もコロナ禍前の最高月商を上回った。客層も20~70代まで広がり、4割を女性が占めるまでになった。常連客と観光客が半々の割合で訪れ、多い時は1日200〜250人が集う繁盛店は、不易流行の精神で進化を遂げている。

  • 創業から70年近く変わらない佇まい。周囲がビル街へ移り変わるなか、創業時の風格を漂わせる
  • 1、2階合わせて120人を収容。1人客も利用しやすいテーブルを設け、奥の座敷席は近々テーブル席に変更の予定
【店舗Data】 
大甚本店
業態:居酒屋
座席:120席(テーブル、座敷)
客単価:4,000円
客層:ビジネス層、観光客、男女比7:3
住  所:愛知県名古屋市中区栄1-5-6
アクセス:伏見駅より徒歩1分
営業時間:15:45 - 21:15(土曜日は20:15まで)
定休日 :日曜日・祝日
https://www.daijin1907.com/
https://r.gnavi.co.jp/k57utu3b0000/

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繁盛へと導いた、3つのポイント

目次
【POINT1】セルフ式小皿料理にアラカルトメニューを追加
【POINT2】新たな客層を意識したドリンクラインナップ
【POINT3】古き良き伝統は残しつつデジタルも活用

【POINT1】セルフ式小皿料理にアラカルトメニューを追加

客が自由に選んでお盆に乗せるスタイルの小皿料理を、一皿300~600円で約30種用意。「イワシの梅煮」(500円、写真左下)は梅煮にして程よく酸味を効かせ、「かしわの旨煮」(350円、同右下)は牛蒡や鶏肉の卵「きんかん」も添えている。1階の一角にズラリと並んでいる

近年までは、「イワシの梅煮」(500円)や「かしわの旨煮」(350円)といった創業来の小皿料理約20種と「刺身」「煮魚」、樽酒を中心に扱い、売り切れ次第営業終了としてきた。しかし、「それだけでは売上が伸びないので、2017年頃から注文を受けてから調理するアラカルトも取り入れるようになりました」と山田氏は語る。

手始めに提供したのが名古屋の八丁味噌で作る「味噌土手」(850円)だ。郷土の味を求める人に好評を博し、今も人気メニューとして定着している。コロナ禍のテイクアウトニーズをきっかけに始めた揚げ物は、アラカルトメニューの柱として定着。特に味噌土手用の味噌を活用した「豚味噌串カツ」(2本750円)は、リピート率の高いメニューとして浸透している。定番の刺身はマグロや白身魚など10種類以上(900~2,000円)をそろえている。フードメニューは、今や100品を超えるまでになったが、営業前に仕込んでおく小皿料理が、営業中の厨房の負荷を軽減。オーダー制のアラカルトは小皿料理に比べ単価も高く、客単価を引き上げる最大の要因となった。

煮立った状態で提供される「味噌土手」(850円)はコクと甘みのある八丁味噌で炊いている。和牛ホルモンと豚の2種を用意している
  • サクサクに揚げた大ぶりの串カツに、特製の八丁味噌だれをたっぷりとかけた「豚味噌串カツ」(2本750円)。揚物はリピート率の高い、新たなアラカルトの主力メニュー
  • 「刺身盛り合わせ」(1,600円)は、天然のマダイと剣先イカ、本マグロの3種。季節の魚種を中心に山田氏が目利きして仕入れている
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【POINT2】新たな客層を意識したドリンクラインナップ

入り口付近に据えられている「賀茂鶴 樽酒」。樽のそばに徳利をセットし注文後すぐ提供できるよう、徳利にあらかじめ酒を注いでいる

この店でしか飲めない「賀茂鶴 樽酒」(大徳利1,000円)は、今でもこれを目当てに訪れる客のいるドリンクの看板。その軸はそのままに、一方で2019年頃からはそれまで扱わなかった「ハイボール」(580円~)、「チューハイ」(580円~)を導入し、2025年からは「クラフトジン」(580円)もラインナップ。「樽酒が中心の時は、女性の方から『飲むものがない』と言われていました」(山田氏)という環境を改善し、新規客、特に若い世代の客層の獲得に直結した。

樽酒一強だったところに「ハイボール」(写真左、580円~)や「チューハイ」(同右、580円~)などを取り入れ、女性客の獲得に成功。原価率は低いことから利益率向上。客層拡大を達成した経営改革の象徴だ

ビジネス面での効果も絶大で、原価率が高めの日本酒や生ビールに対し、ハイボールやチューハイの原価率は低く、同じく原価率の低い「揚げ物」のアラカルトと相性が良いため、顧客満足度を高めながら全体の利益率を劇的に向上させる好循環を生み出した。

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【POINT3】古き良き伝統は残しつつデジタルも活用

飴色に染まる店内には、1950年代から使い続ける一枚板のテーブルを据え置き、店全体が醸すレトロな雰囲気が他店にない魅力となっている。今でもそろばんで会計をするのは、店のムードを考えてのこと。予約は電話のみで受け付け、記録は紙の台帳に記録。決済は現金のみを貫き、来店客に支持される「大甚の情緒」を継承している。

一方で、販促はコロナ禍を機にデジタル化に舵を切った。Instagram(フォロワー5,000人超)に、食材やメニューの情報を発信。最近はストーリーズを中心に投稿するほか、LINE公式アカウント(友だち登録1,500人)の割引やポイント施策もリピートを促す。また、コロナ禍でクラウドファンディングを行い、限定徳利をリターンにし、わずか1日で目標額の100万円を達成。最終的には700万円超の支援を集め、ファンとの絆を証明した。店内の一角には、支援者の札がかかり、名古屋を代表する居酒屋の存続を求めた人の声が形となって残されている。

  • 店内でLINE公式アカウントを紹介。LINEは5代目が始め、初回クーポン特典や限定情報発信でファンを獲得している
  • 1階の一角の壁を埋め尽くす木札には、コロナ禍のクラウドファンディングに協力者の名前を記載。最終的に700万円超を集めた、ファンとの強固な絆が視覚的にも伝わる

2026年6月には、鉄板料理や気軽な「あて巻き」などを提供する「大甚はなれ」を出店。こちらでは、本店にはないモバイルオーダーやカード決済を導入している。

2026年6月開業の「大甚はなれ」。本店の情緒とは異なるスタイリッシュな空間で、客層は30代のビジネス層が中心

「はなれ」に挑戦したことで、「店舗拡大の難しさを実感しています」と山田氏。2店を運営している現在の課題は、忙しい中での接客の質の向上だ。外国人スタッフの語学力も活かしながら、老舗酒場ならではの接客を磨いていく。

4代目 山田 泰弘 氏
両親とともに店を切り盛りしていた当時は料理を担当し、現在はフロアに出て接客。4代目就任以降はメニューの拡充から新店オープンまで、多岐にわたるチャレンジを続け、豊富なアイデアをいかして、Tシャツやカレンダーなどグッズも制作。

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