2026/07/15 コラボ企画

五反田「スパイスカレー食堂」に学ぶ、スリランカ人材で回るワンオペ経営の舞台裏

カレーはおいしい、だけど油分が多く重い。そんな前提を覆すのが「スパイスカレー食堂 五反田店」。油を抑え、小麦粉を使わず、食欲のない、体調が優れない日でも「食べた方がいい」と思わせる軽さと満足感を両立している。さらにスリランカ人材の採用を軸にレシピ開発と店舗展開を進める独自の仕組みがある。“整える外食”はどう成立しているのか。創業者の株式会社ANCHOR GROUNDの佐々木 証(あかし)氏にその舞台裏を聞いた。

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※スマイラー122号(2026年5月)より転載

“人生が変わる一皿”の正体

店頭に掲げられた“この一皿で人生が変わる!”と書かれた看板について、株式会社ANCHOR GROUND(アンカー グラウンド)の佐々木氏はこう語る。「キャッチーなんですけど、食べる方、見る方によって全然違うんですよね、捉え方が。僕はそれまでずっと居酒屋の経営だったんですけど、コロナ禍の時期ぐらいに食事業態に振ったんです。そのきっかけが、この『スリランカカレー』で。実際これがなければコロナ禍も乗り切れなかったかもしれないです。オープン当初はオフィス街で人がいなくて、でもそれから目的来店が一気に増えて。その時代にはまったのかなと。今があるのもこの業態があったからと思います。そういうカレーを広めていきたいという気持ちがあるので、このスリランカカレーを通してお客様の人生も変わっていけばいいなっていう思いを込めて付けました」。

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“ご褒美”じゃない、整える外食

「常連のお客様は、ランニングの格好のご夫婦が今日はハーフでとか、格闘家の方が今日はフルでとか、使い分けてる方が多いんですよ。カレーライスというカテゴリじゃなく、野菜もしっかりとれて化学調味料を使わず、肉、豆、野菜とバランス良くとれる定食のような、週1、2回食べると身体がリセットできる位置付けでお客様に使っていただいてるのかな」と佐々木氏。

ブラックポークカリー

開店以来、200から300回のデリバリー注文履歴があるお客様もいる。コロナ禍以降デリバリーが増え、“冷めてもおいしい”スリランカカレーの特性とうまくはまった。「向こうだと手で食べるんですよ。手で触って熱いものは食道を傷つけたりするので、アーユルヴェーダ(インド・スリランカ古来の伝承医学)として身体に良くないとされています」。

客層は40代から50代が多い。男女比は4対6ぐらい。客単価は1,250円。ハーフサイズで900〜1,100円幅。決して安くはない。「価格で高いと思われる方は、次はないと思います。納得していただける方がご来店されているのかなと」という。

四ツ谷の1号店は坪数6坪、席数は7席。五反田店も席数8席で、基本、ワンオペ前提のモデルだ。朝8時から夜20時まで営業し、朝・昼・夜のピークの合間に仕込みを行う。

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現地と日本をつなぐ、循環ビジネスモデル

お店の由来を説明しているボード

ANCHOR GROUND社では、人材育成と商品開発を一体化させている。その起点は、スリランカ人スタッフだった。当時、人手不足でスリランカ人留学生を雇用した。勤勉だったため、社員として採用したという。

その後、佐々木氏はスリランカに日本語学校を創設し、現地訪問中に食べたスリランカカレーが事の発端だ。日本で出店することを決めた際、「現地の味で出しているところはマニアックな日本人には受けるが、うちはある程度日本人向けにアレンジしなければいけない」と考えたと語る。

商品の食べ方を説明

そこで同社のスリランカ人の従業員と一緒にレシピを開発。その後、間借りしてレストランを出店し、反応を見た。「同時に四ツ谷店の味もどんどん変えていきました。今のレシピはひとつの完成形です」。

スリランカ産のスパイス

また同店は“スリランカ航空グループシェフ監修”を掲げている。「僕が作った日本語学校では、たくさんの日本に行きたい学生、シェフたちが日本語を学んでいるんですよ。そこにいたのがスリランカ航空グループのシェフで、彼に『在学中の学費はいいから、代わりにちょっとプロデュースして』って言って、作ってもらったんです」。

人材確保と商品開発を同時に進められる点が、この仕組みの最大の特徴だ。「いま学校の下に『スパイスカレー食堂』を新しく作ろうかな、と考えています」。現地と日本をつなぐ循環は、今も広がり続けている。

「社食」という新販路と、利益率を残す1人経営

五反田店は、外食産業で著名な人物が、一口食べて惚れ込み、その場で出店を申し出た、ボランタリーチェーン店だ。

佐々木氏は今後も、スパイスカレー食堂の直営店は出すつもりはない。「これからはカレー屋さんをやってみたい方のサポートをしながら、店舗展開できるかなと思っています。鶴見の店はネパール人のオーナーさんで、仙台の直営店はスリランカ人がひとりでやっています」。

株式会社ANCHOR GROUND(アンカー グラウンド)佐々木 証(あかし)氏(左)と五反田店スタッフの中田さん(右)

横浜市鶴見と仙台の店は別の屋号で、コンセプトは“毎日日替わりカレー”。マニュアル化したレシピはない。仙台店の従業員は、佐々木氏がスリランカで初めて入ったレストランからスカウトしたシェフだ。

四ツ谷店の月商は300万円程度。ここには社食による売上が含まれている。「お昼時間前に(カレーを)回収していただく。企業さんの福利厚生で、うちには売上としてカウントされます」と佐々木氏。さらに「カレー屋は会社でやると、あんまり面白みはないんですよ。でも、個人でやれば敷居50(粗利50%)以上を狙っていきます。もともと、ひとりでやるビジネスモデルを作っているので、2人で入るとモデルが崩れちゃうんです。仙台の店は原価が24%、人件費が22%なんで、そこが僕は適正だと思ってるんです。FL目標は、55。四ツ谷店も社会保険とかを加味して時給1,800円の人件費を出してるんで、カレー好きな人が一人で週1休んで、25日稼働させる、というモデルがベストなのかなと思ってます」。

今後、健康的な食事の需要は増えていくだろうか。「増えていく一方だと思います。万人受けはしないですよね、でも男性客も増えています。今は、男性がお化粧する時代ですからね」と佐々木氏。

娯楽だけでなく、健康を前提とした外食は確実に日常に入りこんでいる。

文:高山 浩子
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。
株式会社ANCHOR GROUND
住所:神奈川県横浜市中区海岸通5-25-2
https://www.anchorground.jp/

スパイスカレー食堂 五反田店
住所:東京都品川区西五反田1-26-9 大栄ビル 1F
https://www.instagram.com/spicecurryshokudo_gotanda/
https://r.gnavi.co.jp/duae4ngr0000/map/

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