2019/01/15 特集

正しく扱えば、もっとおいしい&売りになる。ジビエ再考(2ページ目)

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ジビエの捕獲~流通を知る

リスクを知ることと、適切な取り扱いが肝心

 国産ジビエを扱ううえで不可欠なのが、「食肉としての安全性の確保」。すなわち、食中毒を引き起こす病原体への対策だ。

 牛や豚、鶏などの家畜は、衛生的な環境で飼育することや、必要に応じて予防接種なども行われているが、野生動物は、餌も生育環境も自然下で、一切管理されていない。そのため、寄生虫、ウイルス、細菌などの保有レベルがどうしても高くなりがちだ。上の表は、野生鳥獣の肉に含まれる病原体を調べた結果だが、シカやイノシシが、E型肝炎ウイルス、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌などを保有していることがわかる。

 「実際に、客が飲食店に持ち込んだクマ肉をほかの客に振る舞って、トリヒナ(寄生虫)の食中毒が発生した事例もあります。この店は営業禁止処分を受けました」。また、加熱不十分なジビエが原因でE型肝炎ウイルスに感染した例では、死亡者も出ているという。「こうした事故は、流通~飲食店に至るまでの不適切な処理や管理、調理が原因」と藤木氏。「ジビエへの期待が高まるなか、不適切な扱いを続けて、『ジビエは食べたいけれど、食中毒が怖いからやめておこう』といったイメージが流れてしまったら、元も子もない」と警鐘を鳴らす。

 では、国産ジビエを、安全に提供するためには、どうすればよいだろうか。「まず、ジビエに対する正しい知識を持つこと。そして、厚労省から食肉処理業の許可を受けた、信頼できる食肉処理業者から仕入れること。仕入れ後は適切に管理し、調理の際は必ず必要な熱を加えることが不可欠」と藤木氏。それらをルール化したのが、2014年11月に厚生労働省が示した「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」だ。この中で、①狩猟時、②運搬時、③食肉処理、④加工、調理および販売、⑤消費時のそれぞれのステージで、適切な衛生管理の考え方が示されている。

 藤木氏は、「これまでは、地域ごとに伝統的な方法、いわば自己流でジビエが扱われてきたのですが、今後はジビエの安全性を確保するため、飲食店も含めてガイドラインの順守が必要。それは、おいしさにもつながります」と語る。

 では、ジビエの処理工程と、適切な管理方法を具体的に見ていこう。

捕獲からの全工程を理解し、トレーサビリティも確認

 ジビエを扱うにあたって、まずは狩猟から食肉として販売されるまでの工程を理解しておきたい。上図にあるように、野生鳥獣は、生息場所で捕獲後、放血(血抜き)し、食肉処理施設で、皮はぎ→内臓摘出→分割脱骨→加工販売という工程をたどる。

 有害鳥獣対策として、人里近くで狩猟を行うケースが増えているため、シカやイノシシなどの大動物の狩猟方法は、猟銃よりも罠(わな)が主流。捕獲後、様々な方法で動きを止め、頸動脈を切って放血する。ここまでがハンターの仕事だ。

放血が不十分な肉は、解凍すると大量のドリップが出てくる。その場合は、仕入先へ情報をフィードバックし、原因分析と処理方法の改善につなげたい

 「放血が不十分なジビエは、血生臭さが残ります。ジビエは冷凍された状態で流通するケースがほとんどで、一見しただけでは放血の良しあしはわかりませんが、解凍したときにドリップ(組織液)が大量に出てくるのは、放血が不十分な証拠」と藤木氏。となれば、放血が上手なハンターから仕入れたいところだ。「食用を前提に狩猟しているハンターは、捕獲や放血の手際がよく、頸動脈のポイントを押さえてしっかりと放血するなど、技術が高い人が多いです。しかし、狩猟に重きをおくハンターも少なくない。食用のジビエの仕入れ先として、信頼できる人を見極める必要があります」(藤木氏)。

 放血したら、皮はぎ・内臓摘出以降は、食肉処理業の許可を受けた施設に運んでから行われる。病原体の多くは内臓に潜んでいるため、捕獲後に屋外で内臓摘出を行うと、汚染が肉にも広がってしまうし、環境汚染にもつながるからだ。内臓処理にあたって、食肉処理業者には「摂氏83℃以上の温湯供給設備」の設置が求められており、1頭ごと、あるいは1刺しごとに、83℃以上の湯で器具を消毒することが推奨されている。

 しかし一方で、内臓は腐敗が早いため、一刻も速く摘出したいことも事実。内臓を生体内に長時間とどめておくことも、病原体の増殖や、汚染の可能性を高める。また、内臓に近いヒレ肉や内モモ肉に、内臓の臭みが移るリスクもある。

 そのため、厚生労働省のガイドラインでは、食肉処理施設が近くにない場合に限って、屋外での内臓摘出もやむをえないとされている。ただしその場合も、器具の細やかな熱湯消毒が必要とされている。

  • 食肉処理設備を備えた「ジビエカー」。猟場の近くまで行くことができ、捕獲してからすぐに、車内で内臓摘出ができる

 捕獲後、短時間での内臓摘出を行うために、最近では、食肉処理施設の機能を持った、移動式のジビエカーも登場している。また、生け捕りにして食肉処理施設の近くで一定期間飼養し、放血や内臓摘出を、最適なタイミングで行う方法もあるという。

 いずれにしても、安全にジビエを提供するためには、許可を受けた食肉処理施設から肉を仕入れることがもっとも重要な第一歩。「“ハンター直送”“新鮮”などとうたったインターネット販売もありますが、許可を受けていない施設やハンターから直接買うことは、絶対に避けてほしい」と、藤木氏は念を押す。

 ただし、鳥類については例外もある。「鳥類は内臓をそのままで仕入れ、飲食店で解体・処理することができます」と藤木氏。この例外が誤って理解され、野ウサギやアナグマなども、鳥類と同じように店の厨房で内臓摘出できると勘違いをしているケースもあるというが、これはNG。小さな動物でも、食肉処理施設での内臓摘出が必要だ。

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