2019/01/15 特集

正しく扱えば、もっとおいしい&売りになる。ジビエ再考(4ページ目)

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ここだけは押さえよう! 仕入れ後の扱い方

ほかの食材との区別が重要。処理ごとに洗浄と消毒を

 ジビエを提供する飲食店は、具体的にどのようなことに注意すればよいだろうか。

仕入れ時に肉に貼られているラベルには、個体の識別番号や原産地、処理施設名が明記されている。トレーサビリティを確保するため、適切な期間、保存しよう

 まずは、先述のように食肉処理業の許可を受けた施設で処理されたジビエを使用すること。また、仕入れる際には、どこで誰に捕獲され、どういう処理をされたのかを確認しておこう。実際にジビエが届いたら、肉の状態を観察し、色やにおい、異物の付着や混入がないかどうかを点検する。異常があった場合、その情報を仕入れ先にフィードバックすることも重要だ。また、万が一の場合に備えて、仕入れた肉に貼られているラベル(写真)などは、適切な期間、保管しておこう。

保管の際には、ジビエの肉は家畜など他の肉、食材とは別の容器に入れ、明確に区別しておく

 仕入れ後は、冷凍ならマイナス15℃以下、冷蔵では10℃以下で保存。保存する際は、個別に容器を用意するなど、ほかの食肉とは区別しておく。

 容器だけでなく、まな板や包丁などの調理器具も同様に使い分けなければならない。肉眼では見えなくても、寄生虫や微生物に汚染されている可能性があるため、器具を使い回すことで、汚染が拡大しないようにするためだ。

 同時に、ジビエの調理に使用した器具は、使い終えて洗浄したら、83℃以上の湯または200ppm以上の次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。「200ppmの次亜塩素酸ナトリウム」は、水1Lに塩素系漂白剤4mLを加えて作ることができる(原液濃度5%の場合)。

 さらに、藤木氏は、「シカ肉は脂が少なく乾燥しやすいので、ラップで包装することが大切。酸化が早いので油断すると、すぐに黒く変色する」と注意を喚起。また、冷凍品の解凍は冷蔵庫での自然解凍がベストで、急ぐ場合は真空パックのまま流水にさらす。これらは牛や豚などの肉と同様だ。

 肉の賞味期限については、明確な記載のないものが多いが、適切に保管し、新鮮なうちに使い切ること。熟成させる目的で、長期間寝かせておくのは避けたほうがよい。「時間が経てば経つほど、良い菌も悪い菌も含めて増殖する」(藤木氏)ことを、肝に銘じておきたい。

安全でおいしい火入れは?「65℃で15分」が目安

 次に重要になるのが、適切な調理だ。厚生労働省のガイドラインでは「中心部の温度が摂氏75℃で1分間以上、またはこれと同等以上の効力を有する方法により、十分加熱して喫食する」と記載されている。もちろん、生食はいかなる場合もご法度だ。

 ただ、「75℃で1分間という加熱は、ステーキの火入れだとウェルダン」(藤木氏)。脂身が少なく、パサつきやすいジビエの場合、この方法では肉が硬くなってしまう。そもそも、ジビエの調理は低温加熱が基本とされ、50℃台での加熱を教わってきたシェフも少なくないという。

中心温度を65℃で15 分加熱することで、安全かつ柔らかく仕上げることができる

 そんななか、「75℃1分以上と同等の効力を有する方法」を見つけるため、日本ジビエ振興協会が厚生労働省、調理師学校の協力を得て試験を実施。これによると、中心部の温度を65℃にしつつ15分以上加熱することで、「75℃1分以上と同等」の効果があり、食中毒の危険を回避できるという(上図)。「ただし、65℃以下では死滅しない菌があるので、ここが下限」と藤木氏。「65℃で15分」の加熱であれば、肉の柔らかさも保ちつつ、おいしく仕上げることができる。

 調理に慣れるまでは、食品や液体内部の温度を計測する「中心温度計」を使い、肉の中心部が65℃に達していることを確認すると安心。また、皮付きの肉やスソ物など、どうしても硬くなる部位は、長時間加熱して柔らかくするとよいだろう。

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