2019/01/15 特集

正しく扱えば、もっとおいしい&売りになる。ジビエ再考(3ページ目)

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原価率を上手に調整しよう

安心な食肉処理施設とは? 認証制度もスタート

 現在、ジビエの処理を許可された食肉処理施設は、全国に約630カ所。ただし、厚生労働省のガイドラインに法的強制力はないので、規模的にも衛生管理のレベル的にも、施設による格差は、決して小さくない。

 藤木氏は、「できれば、食肉処理施設を視察して、安心できる施設かどうかを確認してほしい」と語る。例えば、器具の洗浄・消毒を行う「摂氏83℃以上の温湯供給設備」や、動物を吊り下げたときに頭が床につかないだけの「十分な高さを有する懸吊設備」が完備されていることや、トレーサビリティ(追跡可能)が担保されるように、狩猟から食肉処理、販売に至る各段階で、記録の作成・保存を徹底していることなどは、食肉処理施設として不可欠の条件だ。

 さらに、「金属検知器を設置している施設が望ましい」とも指摘。野生動物のなかには、「半矢」といって、過去に狩猟で撃たれた玉が体の奥深くに残っていることがあり、残っていれば、重大な「異物混入」になるからだ。外見ではわからないので、機器による精査が必要になる。

 そこで、食肉処理施設の衛生管理の向上のため、2018年5月にスタートしたのが「国産ジビエ認証制度」。厚生労働省のガイドラインをベースに、より安全なジビエの提供と、消費者の安心を獲得するための制度で、今後、認証を受けた施設の増加が見込まれているので、これらを参考にするとよいだろう。

仕入れ価格を抑えるには“スソ物”の有効活用を

 ここで、国産ジビエの価格についても考えてみたい。これまで見てきたように、安全なジビエを流通させるためには、かなりの手間と時間、経費がかかる。加えて、1頭からとれる肉が、すべて食用として販売できるわけではないことも、流通価格に影響している。「例えばシカの場合、食肉として高値が付くのは、背ロースとモモ肉のみ」(藤木氏)。60㎏のシカ1頭から骨や内臓、皮などを取り除いた可食部30㎏のうち、高値がつくのは調理がしやすい背ロースとモモ肉で、10㎏ほど。ほかの部位は、流通せずに廃棄になるケースも多い。シカ1頭の捕獲から販売に至る経費のすべてが、売れ筋部位の10㎏に乗ると、どうしても仕入れ価格が跳ね上がってしまうのが現状だ。「何も手を打たなければ、シカの背ロース1㎏が、ニュージーランドの輸入ジビエで3000円、国産ジビエで4500円程度になってしまう」と藤木氏。これでは、国産ジビエを提供する飲食店は、一部の高級店に限られてしまう。

 そこで仕入れ価格を抑えるために、藤木氏はスジやウデなど、“スソ物”と言われる部位の活用を訴える。「肉質が硬いため、ミンチにしてハンバーグやパテにしたり、しっかり煮込む料理に使えます。ロースなどの高価格部位と低価格のスソ物を合わせて仕入れれば、原価率を抑えることも十分可能です」(藤木氏)。

 また藤木氏は、スソ物を大量に流通させる販売ルートの開拓にも取り組んでおり、JR東日本の「エキナカ」で販売する「信州ジビエバーガー」にシカのスソ物が使われているほか、2018年からは大手外食チェーンでの使用も始まった。

 とはいえ、国産ジビエの活用度はまだまだ低く、ジビエとして利用されているのは、捕獲鳥獣の1割に満たない。だが、伸び代は大きい。また、ジビエの多くは秋~冬に捕獲されるもので、冬の味覚とされていたが、近年は有害鳥獣対策で、1年中狩猟できるエリアがあり、季節ごとに違う味わいがあることもわかってきた。「例えば、夏のシカは新緑を食べて育つため、冬場とは違うおいしさがあります。長野では、“シカは夏が旬”と言われるほど」と藤木氏。

 同時に、ジビエは料理人としての技術が求められる食材でもある。個体ごとの差が大きく、1つとして同じ料理にはならないからだ。「肉の持つ特徴をつかんで、その肉の味わいを最大限に引き出す方法を見極めると、格別なおいしさになるのがジビエ。おもしろく、やりがいがある」と藤木氏は語る。

 次ページからは、飲食店での仕入れ後の管理と調理のポイントを紹介する。

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