2019/01/15 特集

正しく扱えば、もっとおいしい&売りになる。ジビエ再考(6ページ目)

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ジビエ料理の人気店1 自身も狩猟に出向き、ジビエを入手。料理とともに食材の背景を伝える

【東京・表参道】LATURE(ラチュレ)

【鹿のブーダンマカロン】鹿のブーダンマカロン スペシャルコース1皿目に提供する、一口サイズの前菜。店のこだわりを表す前菜として開発したもので、鹿の毛皮を敷いた木箱を器に見立てて提供する

肉の状態と来店客の好みを見極め、最高の体験へ

 東京・表参道のフランス料理店「LATURE(ラチュレ)」。オーナーシェフの室田拓人氏は、自ら猟場に出向いて獲ったジビエを調理し、提供している。オープンは2016年8月。店名は“自然のしずく”をイメージした造語で、「野生のキノコや山菜のほか、放牧豚など、なるべく自然に近い状態で育った食材を使っています」(室田氏)。なかでもジビエは、一番の売りと位置付けている。「ジビエは、狩猟が解禁され、多様な動物種が出回る秋冬がシーズン。季節感の強い食材を打ち出し、“この時期はLATUREでジビエを”と、お客様に思い出していただくフックになれば、という狙いもありました」とも話す。

テーブルには、ガラス張りのケースをアンダープレートとしてセッティング。ケースの中には植物のアレンジメントが。秋は山の落ち葉、初夏はひまわりなど、季節ごとにシェフ自らアレンジする

 ディナーは「スペシャルコース」(1万5120円)と「大地のコース」(1万800円)の2種類で(料金はサービス料別)、スペシャルコースはジビエ料理を軸に構成。また、ジビエを使ったアラカルトも用意し、1皿から気軽にオーダーできるようにしている。スペシャリテに据えているのは、コースの1皿目に提供する前菜「鹿のブーダンマカロン」。卵白の代わりにシカの血を泡立てて作ったマカロン生地に、シカの血で作ったブーダンノワールを挟んだ一品だ。自然の恵みを無駄なく使いたいという想いと、見た目のインパクトも重視し、シカの毛皮を敷いた器にのせて提供。実際、提供時には写真に収める人がほとんどで、SNSを通して店の売りを周知することにもつながっている。

【タルトジビエ】シカ、イノシシ、アナグマで作ったたねに、ジビエのコンソメジュレなどを重ねたタルト。甘みや酸味のある食材が合うため、プラムのワイン煮、ほおずき、粘り芋のピクルスを添える

 数種のジビエのひき肉を使用した「タルトジビエ」も、コースの定番メニュー。メインは日によって異なるが、晩秋から初冬に脂がのるイノシシを使った「イノシシのロースト」もファンが多い。

【房総産イノシシのロースト】推定2歳の雌のイノシシを使ったロースト。赤ワインをベースに熟成したニンニクを加えたソースと、カブなどの根菜を添える。「イノシシは、どんぐりの実をたくさん食べ、脂がのり始める晩秋が一番おいしい」(室田氏)

 修業時代からジビエを多く扱ってきた室田氏だが、自身で狩猟に行くようになったのは8年前のこと。卸売業者から仕入れていたカモの品質のバラツキに違和感を持ったことがきっかけだった。また、「料理を食べるだけではなく、食材のより深いストーリーを知りたいというお客様が増えている。そうしたニーズに応えるためにも、いつどこで、誰が獲ったかを明確にすることは、不可欠だと感じました」と振り返る。狩猟に携わったことで、ジビエの肉質が、その動物の育った環境や食べてきた餌に大きく影響されることも知った。例えば同じ品種のカモでも、水田の多いエリアで米を食べていたカモは甘みが強く、木の実の多い山のカモは香ばしい香りがするという。

室田氏が仕留めたキジ(手前)とスコットランド産の雷鳥。現在は関東近郊で鳥類をメインに猟銃で捕獲しているが「将来的に北海道などにも足を伸ばし、シカなども狙いたい」と夢を抱く

 猟に行くのは、秋~冬の店休日で、千葉・九十九里で鳥類を狙うことが多い。自分で獲ったぶんだけでは足りないため、一部の鳥類や、イノシシ、シカなどの大動物は、狩猟を通して出会ったハンターなどに依頼。捕獲直後の処理の仕方によっても肉質が大きく変わるため、適正に取り扱ってくれるハンターを見極めて取り引きしている。

イノシシのローストでは、バターとサラダ油を混ぜた油脂をかけながら、じっくりと火を通す。その後、アルミホイルで包んで余熱を回し、オーブンで加熱して仕上げ。肉によってその都度、火入れの仕方を変えている

 一方、こうして入手したジビエでも、体重、雌雄などで肉質に違いがあるため、温湿度を整えた環境で少し寝かせたり、火入れを微調整するなど、肉ごとに扱い方を変えている。また、見極めなければいけないのは肉の状態ばかりではない。例えば、来店客がジビエ初心者なのか、あるいは食べ慣れている人なのかは、予約段階では把握できないことがほとんど。肉によって味わいが異なり、クセの強いものもあるため、来店して最初に好みを聞いてからメニューを決めることも多いという。「肉質を捉え、肉に合う調理法を考え、さらにお客様の好みに合わせて提供できてはじめて、最高の体験になる。ジビエはそこが難しいが、おもしろいところでもあります。扱う側には覚悟も必要」と室田氏は語る。

LATURE(ラチュレ)
東京都渋谷区渋谷2-2-2 青山ルカビルB1
https://r.gnavi.co.jp/aybhhten0000/
ナチュラルな色合いで統一された店内。全22席で、テーブル席のほかにカウンターと半個室も備える。「ミシュランガイド東京 2018」で1つ星を獲得。
オーナーシェフ 室田拓人氏
「レストラン タテル ヨシノ」での修業の傍ら、狩猟免許を取得。2010年に東京・渋谷のフランス料理店「deco」のシェフに就任し、2016年に独立・開業。

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