2020/04/14 特集

今、飲食店がやれることーー経験したことのない経営の危機を乗り越えるために(4ページ目)

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【事業の見直し】事業の継続性を追求し、リスク分散と生産性向上を目指す

「行動変容」に着目し、ビジネスの次の展開を検討

 新型コロナウイルス感染症の猛威は決して予断を許さない。だが、こうした困難な事態が起こったときこそ、ビジネスのあり方を冷静に見直す機会と捉え、次のステップを見出すきっかけにしたい。

 二杉氏は「事業が成長軌道に乗っているときは、経営資源をその分野に集中しがち。それによって、効率よく成長できるからです。しかし、リスク分散に目が届きにくくなるのも事実」と指摘する。外食産業は、東日本大震災以降の10年近く、今回のような不確定要素による大きな波もなく、いわば安定的な時期を過ごしてきた。そのため、今、リスク分散という視点が弱くなっていたとしても仕方がないといえる。

 だが、振り返ってみれば、2001年にBSE(牛海綿状脳症=狂牛病)が発生したとき、焼肉業界は深刻な打撃を受けた。また、東日本大震災のときは、特に東北エリアの店舗が危機的な状況に陥った。単一業態での展開や同一エリアのみでの出店は、飲食業ではリスクがあることも明らか。そして、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大も、インバウンドや大規模宴会へ過度な依存をした場合のリスクを浮き彫りにしたといえるだろう。その意味で、「想定外の出来事が起きても〝事業の継続性.を担保できるように、リスク分散の観点で経営を見直す機会」と二杉氏は語る。

 そうした視点で、現在起こっている「人々の行動変容」を観察し、事態収束後の世の中を想像すると、次のビジネスの展開が見えてくる。様々な地域で外出自粛要請が強まる中、企業では在宅勤務が一気に進行。PCを使ったテレビ会議やオンラインの打ち合わせが急速に普及している。以前は限定的な活用だったかもしれないが、今では否応なく利用が広がっており、事態収束後も定着する可能性が高いだろう。

 飲食業界もそれに合わせて変化することが求められる。例えば、オフィス街のビジネス層のランチや仕事帰りのちょい飲みは、オフィスに出勤してこその需要であり、収束後に完全に戻るとは限らない。また、現在、イートインは売上が減少しているが、テイクアウトやデリバリーは逆に好調。スーパーの惣菜や冷凍食品なども、売上を伸ばしている。

 「こうした変化を踏まえ、自店・自社の強みを生かして、新たな収益の柱を模索することが、今、求められていると思います。それを構築することができれば、リスク分散や事業の永続性つながるはず」と、二杉氏は力説する。例えば、セントラルキッチンがある企業なら、各店舗で提供している料理や加工済み食品を進化させ、スーパーなど小売店での販売チャネルを開拓することも考えられる。また、テイクアウトやデリバリーへの参入、物販やネット通販といった販路の拡大も検討の余地がある。これまでの価値観を見直し、新たなチャレンジを行うことが、事業の見直しにつながり、新たな事業に結びついていくだろう。

 さらに、従来から飲食店の課題の1つとなっていた「生産性向上の仕組みづくり」にも、この機会に本格的に注力したい。「人時生産性(従業員1人の1時間の生産性)を向上させ、省人化を進めて収益を上げることは、人材不足やコスト高が続く飲食業界にとって、今後も追求するべき重要な目標」(二杉氏)だからだ。店内のオペレーションの見直しやセルフ化、来店客のスマホで注文するモバイルオーダー、タッチパネルを使ったオーダーシステム、厨房や配膳の機械化などを検討してもよいだろう。普段は日々の営業に追われ、なかなか腰を落ち着けて考えることができないことも多いが、時間が取れる今を好機と捉え、次につながる取り組みを進めたい。

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