2020/07/14 特集

「今、行きたい店」になる! 感染予防、情報発信、メニューの磨き込み―。足元を見つめ直し、活気を取り戻す!(3ページ目)

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今後の店内営業でポイントとなることは?

お得感や特別感の創出や顧客情報の獲得も重要

 では、今後、飲食店が店内営業をするうえでのポイントは何か。三ツ井氏がまず挙げるのが「衛生管理の徹底」だ。飲食店に求める対策を聞いたアンケートQ8(下)では、多くの人が「マスク着用」「定期的な換気」「店内消毒」「客席同士の間隔」を重要視していることがわかる。「飲食店では食事のために必ずマスクを外すため、接客をするスタッフを含め、店がどのような対策を行っているか特に敏感です。消費者の不安を払拭する取り組みを徹底していることが、選ばれる店の前提条件となるでしょう」(三ツ井氏)。

 次にポイントとして挙げるのが自店の価値を伝えるコンテンツ(商品)だ。「外食の機会が減っているからこそ、消費者は外食で『損をしたくない』『失敗したくない』という想いがこれまで以上に強くなる」と三ツ井氏は推察。食材をはじめとする店のこだわりを前面に出したり、「シズル感」「ボリューム感」「希少性」など、明確に「あれが食べたい(飲みたい)」と思わせる“特別感”を創出することが重要だ。また、今後しばらくは大きく消費が大きく冷え込むことが予想されるため、「今まで以上に“お得感”も重視されるでしょう」(三ツ井氏)。

 3つ目のポイントは、「来店客の変化に合わせた対策」だ。前ページでも紹介したように、リモートワークなどを導入する企業が増え、従来のワークスタイルが大きく変化したため、オフィス街だけでなく住宅街でも客層の変化が起こっている可能性がある。また、大人数での宴会が敬遠されるなど、利用シーンについても変化があるだろう。これから選ばれる店になるには、この新たな客層やニーズに合った店に変わっていく必要がある。では、どうやって変化を捉えたらいいか。「例えば、店内アンケートを行ったり、お客様との会話から情報収集するのも大切です」と三ツ井氏。会話の中から「今年の新入社員は歓迎会ができなかったから、夏場にやりたい」「これまで数十人でやっていた宴会が、数人の部署単位に変わりそう」といった情報が得られれば、時期外れでも夏季の歓迎会プランを打ち出したり、少人数限定のコースを用意するなど、ニーズを汲み取った対策を打つことができる。また、「『健康』といったキーワードは、店の立地や業態に関係なく消費者のニーズに含まれているはず。ヘルシー系のメニューを打ち出すのも効果的かもしれません」(三ツ井氏)。

 また、このタイミングで店内アンケートをとったり、来店客とのコミュニケーションを大切にするのにはもう1つ狙いがある。それは顧客情報の収集だ。今後、新型コロナの第2波などによって店内営業を休止せざるを得ない事態が再び起こる可能性もある。その際、テイクアウトやデリバリーに関する情報や、店内営業の再開日などを発信できる顧客情報を持っているかが重要。アンケートや、会話をきっかけに名刺交換、店の会員登録など、顧客情報を得られるようなアプローチにも力を入れたい。

 こういった取り組みと同時に、店の経営という視点で考えなければいけないのが、利益アップだ。ただ、コロナが収束していない中で、感染リスクを軽減させるために、席の間隔を空けたり、一部の席を使用不可にしている店も少なくないはず。一度に入店させられる人数が限られる上に、何回転も客を入れられるほど集客力は回復していない。「かといって、客単価アップを狙ってむやみに単価の高い商品を増やしたりすると、逆効果。ファンを失いかねません」(三ツ井氏)。

 そこで、今一度見直したいのが「メニューの原価率と出数の分析」だ。「普段から定期的に行っている店も多いと思いますが」と前置きした上で、三ツ井氏は、「客層や利用シーンが変わってきているため、メニューのオーダー傾向にも変化が生まれる可能性はあります。原価率が低くて出数の多いメニュー、つまり利益率の高い人気メニューは何か、もう一度見直し、それをより売るための販促に力を入れるといいでしょう」(三ツ井氏)。また、原価率が高くても熱烈なファンがいるメニューも販促を強化したい。単体では利益率は低いが、それがお得感につながって2回目、3回目の来店のきっかけになっているメニューであれば、トータルで利益アップにつながっている可能性が高いからだ。いずれにせよ、従来のメニュー戦略をこれまで以上に精緻に見直し、「利益を上げられるメニュー構成」を実現したい。

 また、少し先の話だが、今年の忘年会シーズンは、1つの鍋を多くの人で食べるといったスタイルは敬遠される可能性もある。一人用の鍋のコースを用意するなど、消費者のニーズを予測して準備を進めたい。「いずれにしても、まだまだ先行きは不透明。お客様が今何を求めているのかを日々の営業を通して探りながら、メニューやサービスに落とし込んでいく作業を続けることが重要です」(三ツ井氏)。

テイクアウトやデリバリーは継続すべき?

消費者のニーズは高いが、継続には慎重な検討が必要

 コロナの影響で店内営業を休止し、テイクアウトに取り組む飲食店が急増。デリバリーに特化して売上を確保した店も少なくない。このように事業を多角化して店内営業以外の収入源を持つことは、不測の事態が発生した時のリスクヘッジとなる。「店内での営業が本業ではあるが、、いざという時にはテイクアウト・デリバリーができる体制を整えておくことや、通販で売れる商品を持つ、飲食業以外の事業を手がける、といったことはこれからの飲食店経営において、重要な要素になっていくでしょう」(三ツ井氏)。

 ただ、通常営業を再開しつつテイクアウトやデリバリーを継続するかどうかは「慎重に検討すべき」と三ツ井氏。「付け焼き刃の取り組みでは採算が合わない上に、コンビニなどとの価格競争に巻き込まれたり、立地によってはライバルの多い土俵で無謀な勝負を挑むことになりかねません」と釘を刺す。

 「飲食店のテイクアウトやデリバリーの商品に求めること」を聞いたアンケートQ9(上)では、「価格の安さ」「衛生面(感染予防策)」が上位に。「飲食店向けのデリバリー配達サービスを利用する店も増えていますが、一定の手数料が発生するため、消費者のニーズに合った価格で販売できるか、という問題もあります」(三ツ井氏)。同様に消費者が重要視している衛生面については、感染予防策はもちろん、これからの季節は食中毒などのリスクにも対応することが求められる。

 さらに、こうした価格や衛生面に関する消費者のニーズに応えるだけでは十分ではない。自店の強みをしっかりと打ち出した商品を開発することや、周辺エリアで競合が少ないジャンルで勝負することも、テイクアウトやデリバリーで成功するためのポイントになるという。

 「いずれにしても、店内営業とテイクアウトやデリバリーは別物なので、利用する客層も選ばれる基準も違います。イートインとは別に、テイクアウトやデリバリーに特化したノウハウや顧客リストを持っている店が強いです」と三ツ井氏。今回のコロナショックでは、前述したように応援需要などにより一時的にテイクアウト・デリバリーの売上を上げた飲食店もあったが、中長期的な視点で本当に継続できるか冷静な判断が必要だ。

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