2020/07/14 特集

「今、行きたい店」になる! 感染予防、情報発信、メニューの磨き込み―。足元を見つめ直し、活気を取り戻す!(5ページ目)

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人材面で気をつけるべきことは?

将来への不安を払拭すべく明確なビジョンを伝える

 コロナ禍の影響は人材面にも出ている。「休業で仕事がなくなり、やめざるを得なくなったり、飲食業界の将来に対する不安や、自分が感染してしまうリスクを懸念して離職する人も増えています」と三ツ井氏。

 安定的な店舗運営のためには、既存スタッフの雇用の維持は不可欠。正社員・アルバイトを問わず、「雇用調整助成金」などの各種制度を活用して雇用を守ると同時に、休業によるモチベーションの低下を防ぐための取り組みなど、今まで以上にマネジメント力が問われることになる。三ツ井氏は「今後への不安を払拭し、安心して働いてもらうためにも、経営者が将来のビジョンや成長戦略を明確に打ち出し、従業員と積極的にコミュニケーションを取って安心感を与えることが大切」と話す。

 同時に、新型コロナの拡大によって生まれた新たな接客スタイルをスタッフに浸透させる必要がある。衛生管理の徹底はもちろん、来店客に消毒をお願いしたり、感染リスクを高める行為をしている来店客に対する注意喚起など、新しいルール作りとその実践を徹底したい。「営業自粛期間を利用して教育に力を入れた飲食店も少なくありません。これまでなかなか着手できなかったマネジメントや、原価コントロールなどについての研修を行った店もありました」(三ツ井氏)。また、今後、第2波などによって休業せざるを得ない状況になったとき、「料理人」「ホールスタッフ」といった肩書に捉われず、困難な状況をチームとして乗り切るために、マルチプレーヤーになる意識を持ってもらう働きかけも重要。例えばデリバリーの配達員などとして働いてもらうことも必要だ。そうすることで、限られた人材で柔軟な対応ができ、雇用も維持できる。

 企業によっては、これを機に省人化を加速させるケースも増えるかもしれない。組織をスリム化するために不要な役職がないか見直すほか、一部の仕事を外注したり、機械化することも有効な手段だ。

 一方で、人材の獲得に積極的に動いている企業もあるという。「多くの人材が流動しているこの時期は、これまで獲得が難しかった優秀な人材を採用する絶好のチャンスとも言えます」(三ツ井氏)。今後の成長戦略が描けていれば、採用活動に力を入れるのもいいかもしれない。

業界全体の流れ、トレンドは今後どうなる?

ゴーストレストランなどは今後も増加する可能性大

 外食業界では近年、「キャッシュレス化」や「ICT化」が進んできていたが、今後はどうなるのか。三ツ井氏は、「バックオフィス(事務処理部門)のオンライン化はさらに加速する」と予測する。一方で、「キャッシュレス化」は、感染リスク低減などの観点からも注目されているが、「本格的な普及にはまだ時間がかかりそう。消費者への浸透次第」と見る。

 また、今年4月の法律施行により飲食店でも対応が進んでいる「禁煙化」は、新型コロナを機にさらに進展しそうだ。店内の喫煙室は密な状況になりやすく、タバコが肺炎のリスクを高めるという不安も禁煙化を後押しするだろう。

 一部で話題を集めた「サブスクリプション(定額制サービス)」について三井氏は、「一定の効果を出している店もあるようですが、定着するかは微妙な状況」と分析する。逆に、コロナ禍で一気に注目を集めたのが「クラウドファンディング」だ。「応援需要とうまくマッチし、支援金の調達などに成功した店が数多くありました」と三ツ井氏。テイクアウトやデリバリーの需要が増え、宅配のみに特化した業態「ゴーストレストラン」も、今後さらに増えることが予想されるという。

 一方、コロナ禍で話題を集めた「オンライン飲み会」はどうか。アンケートQ11(上)では、オンライン飲み会を今後もしたいと答えた人は2割弱。「むしろ、参加人数が増えるほどスムーズな会話ができないことにストレスを感じる人が多い。現状では一過性のブームで終わりそうな気がします」(三ツ井氏)。

 また、「インバウンド需要」に支えられていた店は、方向転換も選択肢に入れる必要がありそうだ。「来夏に東京五輪が開催できても需要は限定的で、外国人観光客が戻るのはまだ先でしょう。まず今は国内に目を向け、地に足の着いた経営を」と三ツ井氏。逆に、海外に出店する「アウトバウンド」の動きが増えるかもしれない。「日本より感染者の少ないベトナムなどへ、出店準備を進めている企業もある」(三ツ井氏)という。

 いずれにしても今、飲食業界は大きな変革を迫られている。しかし、この未曾有の困難は、日々の業務を根本から見つめ直し、あらためて強固な経営基盤を築くチャンスとも言える。社会や消費者の変化を敏感に捉え、新たな外食のあり方を模索しながら、選ばれる店づくりを進めてもらいたい。

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