インタビュー②/客足の戻りが早いのはどんな店?
戦略的な販促活動に加えてQSCの高さは絶対条件
コロナ禍を経て早くも収益力を取り戻している企業や店舗には、どのような共通点があるのだろうか。三ツ井氏によると、立地的な傾向としては先に挙げたように、住宅街や郊外など夜間人口が多いエリアが総じて堅調だ。業態別では、ファミリーの利用が多い食事主体の業態に加えて、若年層をメインターゲットとする大衆酒場や横丁なども客数が戻ってきている。また、焼肉業態も引き続き好調で、三ツ井氏はこの要因を「ファミリーで利用しやすく、ごちそう感があることや、無煙ロースターによる十分な店内換気効果が期待できることも大きいでしょう。加えて、最終の調理工程を自分たちで行う点も、衛生面に対する消費者の安心感につながっていると考えられます」と分析する。
さらに、立地や業態を問わず、好調な店全般に共通する重要なポイントとして三ツ井氏が挙げるのが、QSC(クオリティー・サービス・クレンリネス)のレベルの高さだ。「現状において、消費者は新しい店を開拓する気持ちにはなりにくいため、以前に行ったことがあり、なおかつ、QSCレベルに好感を覚えた店を吟味して選ぶようになっています」(三ツ井氏)。店を選ぶ目がより厳しくなっている今、店内の感染防止対策に万全を期すのはもちろんのこと、基本に立ち返り、総合的なQSCレベルの向上に取り組むことも、売上回復を図る上での必須条件と言える。
次に、好調な店が行っている販促活動に目を向けてみると、「保有する顧客情報を活用し、自店の強みや付加価値を明確に打ち出したコンテンツ(商品・サービス)を既存客にしっかりアピールできている店舗ほど、売上回復を実現できています」と、三ツ井氏は解説する。例えば、新メニューの案内や季節のフェア、キャンペーンなどの情報を、SNSやメールマガジンなどを使って顧客にダイレクトに発信し、来店のきっかけづくりに注力している店は、コロナの影響下でもリピーターを着実に店に呼び込み、好調を維持している。その背景として、旅行やレジャーの機会が減った分、近場で外食を通じて季節感や非日常を味わいたいというニーズが増えていると考えられる。「遠出を控える代わりに、週末くらいは家族で外食を楽しもうと考えた際、日頃から新メニューやフェアの情報をこまめに発信している店があれば、『あの店に行けば何かやっていて楽しめそう』と、真っ先に頭に浮かびやすい。店内イベントなどの活性化と積極的な発信を通して既存客とのつながりを強める重要性は、これまで以上に高まっています」(三ツ井氏)。
ほかにも好調な店の例として、4~5月の緊急事態宣言下でテイクアウトやデリバリーに注力し、そこで得た新規客を店内営業再開後に多数リピーターにできたことで、売上のV字回復を果たしたケースもあるという。コロナ禍を機に新たにテイクアウトやデリバリーに取り組み、現在も重要な収入源の1つとなっている店も多いだろう。ただしこの先、店内の利用客が増える年末にかけてもそれらの事業を継続するかは、慎重に検討したいところ。テイクアウトやデリバリーの対応に人手を取られ、、肝心の店内営業に影響が出るようでは、顧客の満足度を下げる“逆ブランディング”になりかねないからだ。
同様のことは、ランチ営業への注力の仕方についても当てはまる。現在も夜間の外出を控える傾向が続いている半面、ランチや昼飲みの需要は、都心部・郊外を問わず比較的高い。「とはいえ、昼に比重を置いた営業体制では、今後、ディナータイムの客足が戻ってきたときに人員配置などで無理が生じる恐れがあります。当社のコンサルティング先でも、夜の売上が徐々に戻っている気配を受けて、コロナ以降に臨時的に続けていたランチ営業やテイクアウトを終了し、本業である店内のディナー営業に専念する動きが出ています」(三ツ井氏)。忘年会シーズンや、さらにその先も見越した上で、自社の経営資源を今どこに集中すべきか判断したい。