2020/12/22 特集

【PART2前編】前進し続けるリーダーたちの覚悟と戦略 外食業界、それぞれの挑戦 ~激動の2020年から2021年へ~(3ページ目)

URLコピー

山崎 聡(株式会社Elevation 代表取締役)

10月には店をリニューアル。“人のエネルギー”と圧倒的な商品力で困難を乗り越えます

1977年生まれ。新潟市出身。高校卒業後、大阪あべの辻調理師専門学校で学んだ後、カメラマンアシスタント、バーテンダー、居酒屋スタッフなどを経て、2002年10月、1号店「Soi」を万代エリアにオープンして独立。2009年3月より現職。現在、万代エリアで3店舗を経営するとともに、2019年NPO法人居酒屋甲子園7代目理事長に就任。
株式会社Elevation
●創業:2002年●所在地:新潟県新潟市中央区万代1-2-6 1F●出店エリア:新潟●2002年「Soi」、2013年「ベジデジやSoi新潟万代店」、2017年「万代グリルガルベストンbysoi」を出店。「新潟の明るい未来を創造し、日本と世界を元気にする」を社会的ビジョンに掲げて店づくりを推進。居酒屋甲子園全国大会で、2014年「Soi」が準優勝、2018年「ベジデジやSoi」が優勝。
万代グリル ガルベストン by soi
新潟県新潟市中央区弁天2-3-23 橋本ビル2F
https://r.gnavi.co.jp/ey38hw5s0000/
2017年2月オープンし、2020年10月リニューアル。新潟の姉妹都市・ガルベストン(米国・テキサス州)の港町をイメージした開放的な空間で、原価率100%超のメニューなど、圧倒的な商品力を誇る。

葛藤と混乱の世の中に、一点の光を灯す

 25歳のときに、居酒屋「Soi」を新潟市の繁華街・万代エリアに出店しました。「Soi」とはタイ語で「ストリート」「文化圏」などという意味。何の変哲もない通りから繁盛店を作れたらかっこいいなあという思いを店に込めました。その後、近くの3階建てビルを一棟借りし、1階に「ベジデジやSoi新潟万代店」、2階に「万代グリル ガルベストン by Soi」を出店。現在に至っています。

 強い危機感を持った2020年3月末、僕は何よりもまず、スタッフに「光」を見せたいと思いました。葛藤と混乱の世界に突入し、先が見通せないとき、真っ暗な道を歩くことほど不安なことはありません。怖いのは売上がなくなることではなく、「人のエネルギー」がなくなること。社の理念に掲げているように「人のエネルギーが店のエネルギーになり、それが街のエネルギーになる」のですから。そこで、先を見据えた2021年のビジョンと戦略をすぐに練りました。4月5日にはアルバイトも含めたスタッフ全員を集め、「コロナ後にどんな店にしたいのか」を徹底的に議論しました。何のために、どんな店を作るのか。現場で何に取り組んだら、理念やビジョンの実現につながるのかを確認し、各店舗の目標と戦略を構築しました。これが共有されないと目先の数字しか見えなくなり、結果、心が折れてしまうからです。経営とは「心・技・体」。土台となる「心」を整えようとしました。

 同時に、社の「緊急レベル」を策定しました。レベル0は「通常」、自治体からの営業自粛要請をレベル3として、レベルが上がるごとに店や会社のアクションを決めました。緊急事態宣言が半年以上続いた場合のレベル6なら「解散」。いったん会社を閉じることも視野に入れました。ただし、物件を手放すのは最高レベルの7。店を再び開けられる状態になったときに、みんなが戻れる場所をできるだけ長く確保しておきたかったからです。

 なぜ、そこまで考えたのか。後ろ向きな要素しかない時期に前を向くためには、すべてを「想定内」にする必要があったからです。もちろん、資金面でも動きました。キャッシュがいつまでもつのか、借り入れがどのくらい可能なのかを見通しました。ビジョンは大切ですが、現実と乖離してしまったら、やはり心が折れてしまいます。

厳しい現実に向き合って、強くたくましいチームに

 4月以降の9カ月間、辛いこともあったし、強がりも言いました。今も万全ではありません。でも、手探りの状態で、ここまで成果を出してくれたスタッフは、やっぱりすごいと思うし、感謝しかありません。

 一番きつかったのは、4月から6月の半ばくらいです。数字が本当に悪かったものの、店としての緊急レベルとアクションを決めておいたので、すべて想定内と考えることができた点は救いでもありました。2店舗を2カ月休業し、「万代グリル ガルベストン by So i」でテイクアウトやデリバリーに集中しました。ただし、単に売上の補填だけにはしたくなかった。そこで、そのほかにも何か喜んでもらえることができないかと考えて始めたのが「出前」です。大きな岡持ちに、店の皿に盛り付けた料理を入れ、近隣に徒歩で届けるという“昭和のスタイル”。「Soi」をそのままお届けすることで、「行きたいけど行けない」というお客様の気持ちに応えたかったのです。道端でも注目されるし、お客様の笑顔が見られるので、スタッフの士気も上がりました。6月の半ばから7月にかけては、イートインが復活して、息を吹き返しました。「ありがとう、おいしかった」というお客さんの声が、本当にうれしくて…。原点に立ち返ろうと、スタッフ間の“交換日記”を復活させたのもこのころです。「この店をつぶしたくないから、毎日来るよ」といったお客様の言葉を、日記を通じて共有しました。この仕事の醍だいごみ醐味を、みんなで再確認できたことも、大きな収穫でした。

 何があっても揺るがない強い店になるために、休業中はFL管理にあらためて取り組みました。まずはレイバー。この機会に店長合宿を決行して徹底的に勉強し直し、マネジメント力の大幅なスキルアップを図りました。一方、フード面は商品開発に注力。売上のV字回復に大切なのは、圧倒的な商品力。しかも、飲食のマーケットの中心が、ビジネス層の夜飲みからファミリー・一人客・若者へと変化し、食事の比重が高くなっていましたから、それに合わせた商品開発は待ったなしでした。そして、まず投入したのが「スパイスカレー」。味にもビジュアルにもこだわって大成功し、ランチの売上を2倍に押し上げました。その後、原価率100%超の限定商品として「活きオマール海老とハンギングテンダープライムステーキのコンボ」など4品を投入。これらを中心にメニューの8割を変えて、「万代グリル ガルベストン by Soi」のリニューアルを10月に行いました。これも予想以上に好評を博し、レイバーコントロールとの相乗効果で収益性を上げることに成功。「困難を乗り越えられるスキル」を得たという手応えをつかみました。

自信を持って開発した新メニュー「スパイスカレー」(1,210円)が大人気! テレビや雑誌でも多数取り上げられた

 とはいえ、期待していたお盆が不発、意気込んでいた12月も厳しい。楽観はできず、今後もこの波を繰り返すかもしれません。でも、諦められない理由が、僕らにはあります。「居酒屋から日本を、そして世界を元気にする」という、私が七代目理事長を務めている「居酒屋甲子園」が掲げる目的がそれ。そして「共に学び、共に成長し、共に勝つ」というその理念の道を、今こそ居酒屋業界全体で進むときです。

 2021年は新規出店はせずに、既存店を磨き込むことに集中しようと考えています。同時に生産性を上げて、ベースアップを実現させたい。“いい店”“いい会社”を作る基盤をよりしっかりと構築して、次のステージにつなげる1年にするつもりです。居酒屋は必ず復活します。仲間と夢や希望を語り合い、活力を生み出す場なのですから。その価値が再認識されたときに期待に応えられるよう、より元気でいい店を作ろうと思っています。

全4ページ