目次
・京都の飲食店でアルバイト。そして神戸へ
・独立後、くずし割烹の店が月商680万円のヒット!
・コロナ禍でも新店舗が坪月商70万円超えを記録
・10店舗を目安に、目の届く範囲で無理のない店舗展開を目指す
・「リーダー×一問一答」&「COMPANY DATA」
その店があることで、近隣の人たちのライフスタイルがよい方向に変わったと感じてもらえる存在になりたい
兵庫・三宮を中心に居酒屋など7店舗を展開する株式会社カワード・チャレンジ。代表取締役の新井翔碩(しょうせき)氏は、京都府出身の44歳。京都や兵庫の飲食店で働いた後、会社員を経験してから飲食業で独立。失敗や経験を重ねる中で、「とにかく自らやってみること」「お客様目線を追求すること」を信念に、坪月商70万円超えの人気店を生み出すまでになった。そんな新井氏に、これまでの歩みとコロナ禍での戦略、今後の展望などを聞いた。
――現在、神戸市内に7店舗を展開しています。業界に入るきっかけは。
これという明確なきっかけがあったわけではありません。やりたいことが特にないまま、高校卒業後に地元の京都の飲食店でアルバイトを始めたのですが、「魚をさばけるようになった」「ネギを切れるようになった」など、頑張って努力すると次々とできるようになることに楽しさを感じました。性に合っていたんだと思います。
ですが、その店では店長と馬が合わなかったこともあり、「お前はだめだ」と言われ続け、精神的にも追い込まれていました。ただ、そんな中でも、いつかは独立して自分の店を持ちたいという夢は当時から持っていました。
その後、神戸に出て、割烹料理店のアルバイトから社員になりました。神戸という場所を選んだのは、街並みがきれいで居心地がよく、昔から好きな街だったから。僕自身は京都時代と何も変わっていませんでしたが、社長からとても評価していただき、店長として3店舗を任されました。
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――その後、27歳でリクルートに入社して営業の仕事を経験されましたが、なぜでしょうか。
そろそろ独立しようと思ったのですが、その前に社会人としての視野を広げるために、いったん会社員になろうと考えたんです。当時は拘束時間が長くて休みもなく、何の情報も入ってこないまま過ごしていたので、自分の視野が狭くなっていると感じたんです。
リクルートでは、飲食店への営業活動をしていました。仕事はとても楽しく、月間MVPで表彰されたこともあります。仲間と切磋琢磨する環境にも刺激を受けたのですが、我が強いことから上司とぶつかりがちで、自分は会社員には向いていないことも痛感しました。3年半勤務して、31歳で独立して神戸・三宮に割烹料理店をオープンしました。
そして、がむしゃらに働き、独立後の4年間で3店舗を出店しました。2店舗目は韓国料理店だったのですが、その後の韓国料理ブームの影響で競合店が増えたことから2年で撤退。3店舗目のイタリアンバルは、流行に乗って売上も好調でしたが、スタッフとの意思疎通がうまくいかず、自分の考えの甘さを思い知りました。当時、会社の理念をうまく言語化できていなかったことが、店や会社が成長しきれなかった要因だと思います。
――その後、2015年6月に出店した三宮の「くずし割烹 こまじろ」がヒットしましたね。
4店舗目の出店時は「自分が本当にやりたいと思うことを全部やってみよう」と一念発起。ターゲットや利用シーンを明確化して、店舗の図面も自分が引き、客単価やメニューを全て決めていきました。「これがダメだったら飲食業を辞めよう」という覚悟でオープンしたのが「くずし割烹 こまじろ」。これが当たり、14坪で最高月商680万円を記録しました。
思えば、独立当初は自分都合でずっと店のことを考えていました。原価の安さを追求したり、人件費を抑え、経営的な数字ばかりに目がいっていましたし、店長など他人任せな部分もありました。こうした考えを捨てて、自分でがむしゃらに動くこと、そしてお客様目線で考えることを徹底したのが成功の要因だと思います。
例えばランチなら、ターゲットにしたい主婦の目線で考えました。「主婦がランチに行くのは、ビジネスマンが夜に盛大に飲みに行くようなもの。わざわざ友達同士で三宮まで来るのだから、1,500~2,000円くらいの少しぜいたくなランチを食べたいはず。それならこんなメニューがいいのでは・・・」という風に徹底的にお客様目線で考え、メニュー数を絞って提供しました。夜も「初めて上司に食事に連れてきてもらえる店」「会社のお祝いの席で選んでもらえる店」と、コンセプトを明確にしてメニュー開発や店づくりに落とし込んでいきました。
また、人材育成においても考え方が変わり、他人任せではなく、“人として成長できる環境づくり”を会社としてしっかり作るように意識するようになりました。自分が味わった過去の苦い経験から、理不尽な怖さや厳しさで育成するのではなく、メニュー開発にも参加してもらうなど、少々大変でもしっかり現場で学んでもらうスタイルにしています。
その後、2018年11月に神戸駅前に「立呑 ZUTTO」、2019年5月に三宮に「居酒屋じげん」など、コロナ前までにさらに5店舗をオープン。「居酒屋じげん」は15坪で最高月商750万円を達成するなど、全店で黒字を出すことができました。
近年、居酒屋は生き残りをかけて専門店化することが多くなりましたが、当社はあえて総合居酒屋にこだわっています。「普通に手作りでおいしくて、接客がよくて、安くて居心地いい居酒屋」なら、流行を追わなくても、みんなに選ばれるはず。そのためか、どの店舗も特に女性を意識しているわけではありませんが、女性が比率が高いです。
――コロナ禍の約2年はどうだったのでしょうか。
それまで絶好調だったこともあり、大阪への出店も予定していた中で、コロナ禍が発生し出店は見送りに。その後は、休業要請に従って「休むときは休む」と割り切りました。一時期テイクアウトをしたり、社員の定期ミーティングをした時期もありましたが、まずは何も考えずに一旦休もうと社員に伝え、支給される助成金や貯蓄で乗り切りました。
2021年には2店舗を出店しました。4月に三宮駅前にオープンした居酒屋「魚のじげん」は、「居酒屋じげん」よりも単価が安く、昼飲みOKで入りやすい店がコンセプト。ここでも「ちゃんと手作りでおいしくて、接客がよくて、安くて居心地いい居酒屋」を追求し、駅前という好立地もあり19坪で最高月商1,400万円(坪月商は約74万円)を記録。10月に兵庫・須磨にオープンしたカフェ「Suma Cafe Zen」は、妊娠・出産などで現場を一度離れた女性社員が、育児をしながら無理なく働ける場所として出店しました。惣菜やスイーツ、コーヒーなどのテイクアウトも行い、コロナ禍でのニーズも意識しています。
――今後の店舗展開は。
自分の目が届く範囲で無理なく展開することを考えると、予定していた大阪への出店やのれん分けも含めて最大10店舗の出店を目指しています。また、経営者としてのゴールとセカンドキャリアを見据えて、そろそろバトンを引き継いでくれる後継者を育てたいですね。
今後は、その店があることで「家族で行ける店ができた」「仕事帰りに立ち寄れる」など、近隣の人たちのライフスタイルがよい方向に変わる店を作りたいと考えています。また、インフラは真似されやすいのですが、そこで働く「人のサービス」は真似されにくいものです。お客様が居心地いいと感じられる接客や空間を突き詰めていきたいと思います。
リーダー×一問一答
■経営者として一番大切にしていること
笑っていること
■愛読の雑誌や書籍、Webサイト
ぴよぴ~よ速報(YouTube)
■日課、習慣
朝に将棋をする
■今一番興味があること
特になし
■座右の銘
利益なき道徳は寝言
道徳なき利益は犯罪
■尊敬している人
森岡毅(マーケター、実業家。株式会社刀代表取締役CEO)
■最近、注目している店舗・業態
特になし
■COMPANY DATA
株式会社カワード・チャレンジ
兵庫県神戸市中央区下山手通2-13-11
http://www.kyomo-otsukaresama.com/
設立:2009年
ブランド・店舗数:7業態・7店舗
従業員数:84人(社員24人)