2026/06/10 コラボ企画

東京・人形町の鉄道酒場「カップ酒・缶詰バー キハ」開業20年、半回転でも続く理由

東京日本橋に近い、人形町エリアの裏道にある「カップ酒・缶詰バー キハ」。近隣で働くサラリーマンが、店で旅情を楽しめる立ち飲みの店、というコンセプトで始めたが、時代と共にオフィスが減り、客層も変化。また、飲酒量や滞在時間のばらつきに対し、時間制課金システムを導入し、客の平等性を図る。開業20年、黒字経営ではない。揺れながらも店を持続するオーナーの二上 登(ふたかみ のぼる) 氏にそのリアルな実情を聞いた

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※スマイラー121号(2026年4月)より転載

サラリーマンの街で組み立てた、 コンセプト設計

屋号の“キハ”は車両種類を表す表記で、3等車を表す。実のところ、二上氏は“電車マニア”ではない。では、なぜ電車をモチーフにしたのか。

コンセプト設定のもととなった本

「この辺って下町なんですけど、20年前はオフィス街で、サラリーマンの街だったんですよ。旅行に行けない会社員のために、旅情気分で飲める店を作ろうということで電車にしました。昔の汽車旅って、コンビニもなかった時代はカップ酒とか缶詰を買って、冷凍みかん食べて…みたいな雰囲気じゃないですか。そんな昭和の頃の列車旅のイメージでうちを楽しんでもらうのがコンセプトです」(二上氏)。

二上氏は元広告代理店の営業マン。転職を考えていた時期に、同エリアで飲食店を営む知人が2軒目を出すことになり、手伝ったのがきっかけだ。共同経営となったが店の構想は、ほぼ二上氏が発案。“毎日通える、サクッと安く立ち飲みできる店”として、2006年に誕生する。

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バー(酒)×鉄道の低・親和性。時間制課金システムで客層が絞られる

3年後、知人が経営を離脱。「まぁ、せっかくね、ここまで作ったんだったらそのままやろう、っていうことで僕が全部引き継ぎました」と二上氏。

階段沿い壁に駅弁の箱をディスプレイ

引き継いでしばらくして、10分単位の飲み放題課金システムを導入した。「“鉄ちゃん”はあまり飲まないんですよ。それなら時間制にして飲む人も飲まない人も平等に、ということで。システム的には電車も距離で運賃が変わるので一緒。10分300円の値段に特に根拠はないですが、10分に1杯飲むとしたら以前より割安に感じてもらえるかなと」。

結果、もともと飲まない、注文せずに長居するタイプの客層はシステムが導入されるや否や、いなくなった。「飲まなくてもお金は取られる、というイメージになっちゃうので。だから飲んで、この店の価値が分かる人だけ残って、それはそれでいいかと。最初から導入しておけばよかったと思います」と二上氏。

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拡張しない構造、一人で回せるサイズ

「いま、平日、人が来ないんですよ」と二上氏。 コロナ禍以降、リモートワーカーが増えたのか、客足が遠のいた。鉄道マニアに対する偏見も課題点だ。ランチ営業していたときは、間貸しの体裁でやっていたと話す。

2階店舗内観。ポスターなどは鉄道会社勤務の常連客からもらったという

「“鉄ちゃんの店がやってる”という風になっちゃうと普通のお客様が来なくなるんです。僕はマニアじゃないですが、それって表から分からないし、それで結構敬遠されているところもある。そこをどう払拭するかは考えています」(二上氏)。

客の滞在時間は平均1時間から2時間で、客単価は3,000円ぐらい。回転率はというと「最近は席が埋まらないですから、“半回転”くらいです」。 基本、一人で運営。たまに“車掌さん”と呼ばれるベテランのアルバイトが入る。黒字経営ではない。「“とんとん”です。潰れていないだけで、儲かってはいない。でもなんとかなっています(苦笑)」。

イベントはやるが、集客活動というより、常連に対するファンイベントになっている。 SNS戦略は「散々やってみた」が、拡散はなかった。「鉄ちゃんって一人で完結しているのでそこは期待していない」と語る。

同店の1階は、定員7、8人ぐらいの立ち飲み席。2階は車両そっくりに模した造りで15人程度収容。延べ坪20坪足らずだが、「開業当時、人形町ってそんなに注目されていなかったんで、家賃自体も都内の割に安かったんです。大家さんも地の人で良心的です」と二上氏。

客数は伸びないが、固定費が低く、一人で回せる規模だからこそ成立している。

辞めないための試行錯誤。20年目の小さな実験

店舗外観

黒字ではないといえ、創業から20年続けるのは大変なこと。以前は鉄道好きの客の方が多かったが、現在は愛好家と一般客の比率は半々になり、外国人客が増えている。「1日1組は外国人客が来ます。彼らも面白いバーを探していて、うちは割と英語の記事に載っているのでそれを見たり、Googleの外国人の書き込みを見て来ますね」。

2025年からは店の二階で別業態(スナック)を始めた。今回も“間貸し”している体裁で、近隣の高齢地元民をターゲットに不定期営業している。同エリアはかつてのオフィスビルがマンションとなり、ファミリー層も増えてきた。新たな客層の掘り起こしとして、プラレールを設置し、2階で子どもを遊ばせ、階下で親が飲むというスタイルも検討中だ。

「震災のときにガツンと景気が悪くなって、戻りきらないところでコロナが来た。最初の頃は景気も良かったんでね、その頃に戻すまでは辞めたくないという気持ちはあります」(二上氏)。

フラットな二上氏ならではのアイデアで、自在にハコの使い方を変える。半回転でも続く理由はそこにあるのかもしれない。

文:高山 浩子
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。
取材協力:カップ酒・缶詰バー キハ
住所:東京都中央区日本橋掘留町1-6-11
https://www.kiha-sake.com/
https://r.gnavi.co.jp/3f79z8fy0000/map/

■飲食業界誌「スマイラー」

“飲食店の笑顔を届ける”をコンセプトに、人物取材を通して飲食店運営の魅力を発信。全国の繁盛店の紹介から、最新の販促情報、旬な食材情報まで、様々な情報を届けている。毎月15,000部発行。飲食店の開業支援を行う「 テンポスバスターズ 」にて配布中!

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