2026/08/10 コラボ企画

渋谷「立食 型破離」立ち業態は設計で成立し、人で伸びる。型破りな店が示した収益モデル

「株式会社シゲキがほしい」の正木 勇貴 代表は、大手立ち飲み企業での経験をもとに、2022年、立ち飲み業態で独立。立ち飲み中華などを展開し、坪月商平均180万円を達成してきた。2025年には、その進化形として、駅遠・空中階・看板なしというあえて不利な条件で、渋谷に「立食 型破離(カタヤブリ)」を出店。立ち業態は設計によって成立し得ることが見えてきたが、売上の伸びを左右する要因も明らかになりつつある。

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※スマイラー123号(2026年6月)より転載

「立食(りっしょく)」と名付けた理由

正木氏が独立して2店舗目として開いた立ち飲み中華店「 起率礼(キリツレイ) 」は現在、月商800万円ほど売上げる成功モデルとして機能している。

「もともと定休日を2日つくって、ツーオペでだいたい500万ぐらい売る設計だったんですけど、いまは全店舗定休日をなくしています」と正木氏。

店は、このビルの中2階(バルコニーにダクトがある所)。一方通行の標識を目印に(画像左)階段を上がったつきあたりに店はある(画像右)

「立食 型破離」は、その成功モデルの条件をあえて崩して成立するかどうか検証するために出店したものだ。場所は、京王井の頭線渋谷駅から少し離れた5.5坪の空中階。看板は一切ない。

立ち飲みではなく、“立食(りっしょく)”という言葉に込められた思いとは。「立ち飲みってうたっちゃうと、お酒飲まないと居ちゃいけないのかなと思う方がどうしてもいる。中華の業態だと食事を楽しみに来られる女性もいるので、そういうお客様はお酒飲まない代わりにしっかりフードの注文をされる。そういう方たちも遠慮なく来てもらいたいので試しに使ってみた感じですね」。

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客単価4,000円の構造

フードとドリンクの出数比率は「5対5ぐらい」。客単価は4,000円前後で、食事メインの目的の来店が多い。「なんか立ち飲みって安かろう悪かろうみたいなイメージがたぶんあるので、明らかに立ち飲みでは出てこないようなクオリティーの料理を出すイメージですかね。料理の手間もかけますし、僕はもともと日本料理出身なんで、器もこだわりがあります」と正木氏。

器は骨董系や有田焼を使っている

メニューの価格帯は500円前後から1,000円以内で構成。「それぐらいの価格レンジじゃないと客単価4,000円位にはならない。1,000円超えるものはわかりやすく高級食材を使うようにしています。でも全部が全部1,000円台や2,000円台の料理だとお客様の満足度を取れないので、フカヒレとか、いわゆる高級食材は使わない、というか使えないですね」。

滞在時間は、満席時は2時間以内としながらもあまりコントロールしていない。「店内に15人とかギュウギュウに詰めて入れるので、そのグルーヴ感が合うお客様には居心地良く感じて2時間以上いる人もいるし、短くなるお客様はたぶんそういうのに慣れてないからかな」。

価格帯と商品構成に加え、”立食でこのクオリティー”という逆張りの体験設計によって、客単価4,000円を成立させている。

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マルチタスク前提の人材設計

海老の包揚げマヨネーズソース

店では常時20品ほどをラインナップ。料理工程を短縮するために仕込み時点で途中まで調理している。温菜は調理に時間がかかるため、ポーションを増やし、値付けを上げる。一方、冷菜は量を少なくして安くする。温菜の注文が多くなれば、早く提供できる冷菜の注文を促す。こうした運営は、少人数で複数の役割を担うことが前提となる。

調理・接客すべてマルチにこなす従業員の近藤さん(左)と吉池さん(右)。入口ドアが唯一の看板

このような運営を成立させるために、人材の設計も行っている。現在、従業員の週休2日を確保するため、スタッフ3人がツーオペ体制で定休日なしで店を回す。従業員は全員正社員。平均年収は600万円以上。先日求人を出したところ、3カ月で60人以上の応募があった。しかし正木氏は過去に採用活動で失敗したことがある。

「以前、いい感じに見せて人を集めようとしたんです。実際働いた時に乖離(かいり)が生まれて、離職って生まれるじゃないですか。だからうちきついですよ、大丈夫ですか、みたいなスタンスを始めから伝えるようにする。それで離職が減ったかな」という。

「型破離」は未完成。成長の鍵は“属人的なサービス”

「立食型破離」店内の様子

同店は、開店して丸1年。今年4月に月商400万円を達成しているが、正木氏はまだ少ないと感じている。「客数が伸びきっていないので、600万ぐらい売れると思ってます。他の店舗で言ったら5坪以下の店で月間1,500、1,600人来るんですよ。ここは平均一日35人位なんで、あと15人ぐらい平均値が伸ばせる。客数が伸びると今の単価があれば自然と売上はそれぐらいになるなという感じですかね」と正木氏。

客層は狙い通り30、40代が多い。ほとんど新規客で常連は多くない。「従業員の入れ替わりがあったんで、リピーターが付ききってない。立ち飲みって目の前のお客様に満足して帰ってもらうのが絶対大前提で、そこにもうワンアクションかける。初めてですかとか、2回目ですか、っていう飲食店としての基本的なことがむちゃくちゃ大事なんですよ。みんなハードの部分だけ見がちなんですけど、僕からしたら、座りの居酒屋と立ち飲み屋って、もう野球とソフトボールぐらい違うと思ってます。立ち飲みの方が、接客も料理もセクションに分かれてないし、従業員が全てできなきゃいけないんで、いろんな能力が必要じゃないですか。だから属人的な部分が本当に大事ですね」と正木氏。

文字通り“型破り”な同店も、設計すれば成り立つ。一方で売上を伸ばすのは“人”である。この前提が同店で浮き彫りになった。

文:高山 浩子
株式会社テンポスホールディングス 広報課所属。月刊飲食業界誌「スマイラー」の特集記事、飲食店レポートの編集・取材・執筆を主に担当。店舗運営のヒントが隠れた「面白い読み物」を届けたく、日々励んでいます。食べ盛り男子2人の母。趣味はこだわりカレー店巡り。
立食 型破離
住所:東京都渋谷区道玄坂 1-15-7 アネックスサクマ 2階
https://www.instagram.com/katayaburi_shibuya/
https://r.gnavi.co.jp/sgebk6uz0000/map/

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