2018/01/30 特集

働きたい店になるためにやるべきこと、やれること(2ページ目)

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Chapter 2 正しい業務改善の方法とは?「スキルマップ」で戦闘力を“見える化”。教育・評価・昇給が連動できるツール!

店とスタッフの現状をまずは正確に把握する

 次に、飲食店の「人の問題」を解決する具体的な方法を探る。必要なのは、「正しい業務改善」という視点と、「見える化」というキーワードだ。

 三ツ井氏は「まずは現状分析が必要です。誰が、どのくらい、どのように働いているのかを、経営者や店長が感覚ではなく、正確に知ること」と語る。そのツールの1つが、上の「ワークスケジュール表」だ。

 「ワークスケジュール表」とは、その日に、誰が、何時から何時まで勤務しているのかを書き込むもの。時間ごとに、各人の勤務時間を書き込むことがポイントで、これを見ると、時間ごとに何人稼働していて、人件費がいくら発生しているのかが一目瞭然となる。

 「店の勤務状態の“見える化”です。この表を作成することで、今まで見えていなかった無駄な人件費がわかって、改善点が見えてきます」と三ツ井氏。例えば、人件費を削らなければいけないとき、ピーク時にアルバイトを1人休ませると回らなくなってしまう。それならピーク時はそのままにして、開店作業や閉店作業の人員を整理し、効率化することで、その時間帯の稼働人数を減らすことができないか、という視点を持つことができる。

 また、スタッフが多様なスキルを身に付け、「単能工」から「多能工」へ成長し、それぞれが担当できる業務が増えれば、それまで4人必要だった時間帯を、無理なく3人で回せる可能性があることも、この表を使えばわかってくる。つまり、人時生産性(※1人が1時間で生み出す粗利益)を向上させるメリットが、誰の目にもはっきり見えてくるというわけだ。

 ここで三ツ井氏は、「業務改善の視点」として、「な・い・じゅ・か」という4つのポイント(下)を挙げる。

 「な=なくせないか」は、その作業自体を割愛することができないか、という視点。例えば、それまで社員が早く出勤して行っていた清掃を外注することで、負担を軽減する、などがこれに当たる。「い=いっしょにできないか」は、セントラルキッチンの発想。各店舗で別々に行っている仕込みを、1店舗にまとめて行うことで、時間と人手を節約する視点だ。「じゅ=順番を入れ替えられないか」は文字どおり、作業の時間帯を工夫することで、効率化を図る。「か=簡素化できないか」は、例えば、スチームコンベクションを導入して調理時間を短縮したり、作業工程を見直すこと。掃除機をコードレスに代えただけで、店の清掃時間が大幅に減った事例もあるという。

 「大事なのは、今まで当然のように行っていた作業を、新たな視点で見直すこと」と三ツ井氏。実際、形骸化してしまった作業は意外に多く、機材が飛躍的に進歩していることも考慮したい。

 この視点は、営業時間の見直しにも当てはまる。開店時間と閉店時間は、本当に顧客のニーズに合っているのか、ランチ営業はメリットがあるのかなども、一度検討してみるべきだろう。

 このように現状をきちんと把握して、「見える化」すると、やるべきことが整理され、正しい業務改善につながり、長時間労働の解消も可能になってくる。加えて三ツ井氏は、個々のスタッフのスキルアップ、すなわち育成と評価の「仕組み」である「スキルマップ」の作成と活用を提案する。スタッフの成長によって、業務改善は一層の進展が期待できるのだ。

 次は、この「スキルマップ」について詳しく紹介しながら、そのメリットを確認していこう。

個々の能力をチェックして店舗力アップにつなげる

 「スキルマップ」とは、文字どおり、店で働くスタッフ一人ひとりの「スキル=能力」を“見える化”したもの。これを表にしたのが、「スキルマップシート」だ。

 まず、飲食店に必要なスキルをホールとキッチンに分けて、カテゴリーごとに書き出す。共通項目として「理念・行動指針」があり、ホールは、①理念・行動指針、②ドリンクメイク、③商品提供、④オーダーテイク、⑤中間サービス、⑥ご案内、⑦お見送り、⑧電話対応、⑨洗い場、⑩レジ業務、⑪ハンディー操作、⑫クレーム対応、⑬事務作業となる。同様に、キッチンは①経営理念・行動指針、②揚げ場、③焼き場、④コンロ場、⑤サラダ場、⑥刺身場、⑦事務作業、となる。

 「もちろん、業態や規模によって違いがあってかまいません」と三ツ井氏。ベースとして、ホールはご案内、ドリンクオーダー、フードオーダー、提供、中間サービス、会計、お見送り。キッチンは洗い場、揚げ場、焼き場、コンロ場、サラダ場、板場(刺身場)があればいいだろう。次に、項目ごとに具体的な作業を挙げていくのだが、三ツ井氏は「この作業はスタッフ全員で話し合って決めるのがベスト。大事なのは運用することなので、店の実情に合った内容が大切」とアドバイスする。

 評価は、0点=まだできていない、1点=完璧ではないが、ある程度意識してできている、2点=忙しい時でも、常に正確・素早く(意識して)できている、3点=新人スタッフなどに指導できる、の4段階。それぞれの達成率を円グラフ化した「スキルグラフ」などと合わせて月に1回、本人と店長がチェックして自己評価と店長評価を行い、最終的な評価を決める。

 「スキルマップをもとに、店長と本人が面談し、次の目標を決めていきます。これをていねいに積み重ねていけば、必ずスキルアップできるはずです」と、三ツ井氏は太鼓判を押す。つまり、スキルマップは、教育カリキュラムにもなると同時に、評価の基準としても運用できるわけだ。人間は、目標がはっきりして初めて、成長意欲が刺激される。そうすれば、定着率も向上する。スキルマップの点数と時給を連動して運用することで、一層のモチベーションアップを図ることもできる。

 さらに、店のスタッフ全員の「スキルマップシート」を作成すると、店全体の戦闘能力の「見える化」も可能に。店としてスキルが低い項目を重点的に教育すれば、確実に店舗力のアップにつながる。また、各人のスキルが正確に“見える化”ので、より適切にシフトを組むこともできるほか、競合店を視察する際には、その店の強みをチェックする項目としても活用できるので、非常に便利なツールだ。

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