2018/01/30 特集

働きたい店になるためにやるべきこと、やれること(4ページ目)

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Chapter 4 従業員満足(ES)は売上につながる

 飲食店経営における「従業員満足(ES)」の重要性が近年、ますます高まっている。その調査方法や運用方法などについて、株式会社MS & Consultingの相崎哲史氏に聞いた。

スタッフの声は定着率と離職率の先行指標。ES改善で遂行力が上がり、業績にもつながる

店舗ビジネスの発展にESは必要で有効な要素

――飲食店などの店舗ビジネスにおいて、「従業員満足(ES)」はどんな意味があるのでしょうか。

 これまで、飲食店が指標として重視してきたのは、「顧客満足(CS)」でした。もちろん、CSは接客業である飲食店にとって大変重要な指標です。しかし、ESを調査して、結果を店長にフィードバックすることで、店長の意識が変わり、店全体が大きく成長したという事例が多数出てきています。

 店長が成長すると、店の遂行力(仕事をやり遂げる力)が上がり、お客様に対するオペレーションの遂行力も上がります。すると、店の印象がよくなり、顧客ロイヤリティ(店に対する信頼感や愛着)が醸成される。その結果、再来店が増え、売上アップにつながります。つまり、CSを上げるためにも、ESは重要であり、売上アップにもつながる、ということです。

 もう1つのポイントは、ESを調査してスタッフの声を吸い上げると、定着率や離職率の先行指標になること。ES調査の設問の中には、スタッフの店への「帰属意識」「働きがい」「改善意識」などを聞く項目があります。これらのスコア(点数)が上がると離職率が減り、定着率が上がることが、過去のデータからも明らかになっています。ですから、特にこの項目の改善に注力すれば、「人が辞めない、働き続ける店」に近づくことができるはずです。現在の飲食店にとって、人手不足は大変深刻な問題ですから、ESを上げるメリットは小さくありません。

 また、これまでは店長の力にしてもスタッフの声にしても、感覚的にとらえてきた店が多いと思います。経営者も、店長からの報告だけでは、店の本当の姿はつかみにくいもの。ESを調査し、誰が見てもわかる客観的な数値で店の状況を「見える化」することが、非常に重要なのです。

 実際、店長がよかれと思って行った取り組みなどが、ESを調査してみると、実はスタッフには不評で逆効果だったことがわかる、ということも珍しくありません。

――御社が行っているES調査の内容と方法について教えてください。

 店舗スタッフ用のES調査として、当社が提供しているのが「サービスチーム力診断」(下表)です。「リーダーシップ」「チームの遂行力」「チームの風土」「スタッフの主体性」「スタッフの満足度」という5つのカテゴリーがあり、それぞれに5~9個の設問があります。設問は全部で36個。これはベースで、店によってカテゴライズしています。

 「リーダーシップ」では、スタッフがリーダーをどう感じているのかを聞きます。「上司が明確なビジョンを示しているか」「そのビジョンに共感しているか」などとともに、リーダーが自分の成長に関心を持っているか、意見に耳を傾けているかなどを聞く設問もあります。これらによって、総合的に店長の力を調査・判断します。

 「チームの遂行力」では、スタッフが店をどう見ているのか聞くことで、チームの実行力・継続力を測ります。ここが弱い店舗は、経営者や本部の方針が浸透しにくい傾向があります。

 「チームの風土」では、チームの結束力がわかります。人間関係を聞く設問もあり、離職率と密接に関係します。

 「スタッフの主体性」は、スタッフに「自分の役割や責任を理解しているか」などを聞くことで、店で働くことに対するモチベーションがどのくらいあるのかを測ります。

 「スタッフの満足度」は、ESそのもの。達成感や成長実感、自分への評価が適切と感じているかどうか、勤務先として友人や家族に推奨できるかどうか、などを聞きます。

 これらを、各店の全スタッフに匿名で答えてもらい、店舗ごとに集計して数値化します。また、負担にならないよう、スマートフォンを利用して、短時間で回答できるように工夫しています。悪い評価をつけづらいと思う人もいますが、店の現状を正確に把握することが目的なので、正直に答えてもらうようにすることが大切です。

調査結果を分析し、改善策を立て、実践し、検証する

――調査結果のフィードバックは、どのように行うのでしょうか。

 基本的な流れは、調査結果から問題点を読み解き、改善プランを検討・提示します。それを実行し、半年から1年後に再調査を行って成果を確認。その後、また次の課題の改善に取り組みます。これを繰り返して一歩一歩、店舗力の向上を図っていきます。

 改善プランはいろいろあるのですが、具体的な一例を挙げましょう。

 まず、ステップ1として、店長自身が「サービスチーム力診断」をもとに自己を分析し、どの項目が自分の「強み」で、どの項目が「弱み」と考えているかを書き出してもらいます。

 ステップ2では、ステップ1の自己診断とスタッフの調査結果を照らし合わせます。すると、店長とスタッフとの意識のズレが浮き彫りになるのです。例えば、店長は「ビジョン明示」に自信があったのに、スタッフは「一方的に伝えてくるだけで、意見を聞いてくれない」と感じていることなどがわかるのです。その原因について店長が考え、思い当たることを書き出します。

 それらをもとに、ステップ3では、「チームワーク強化アクション」を作成します。例えば、「ビジョン明示」が弱いのなら、それを克服するために、ビジョンを語り合うミーティングを開くとか、個々に面談をしてビジョンの浸透を図るといった改善プランを立て、実践していくという流れです。

 この3つのステップで、店長は自分自身を振り返り、何を変えなければいけないのか、そのためにはどうしたらよいのかを自ら考えます。これが、店長の資質を大きく伸ばすことにつながっていくのです。

 加えて、それぞれの改善アクションを促進するための様々な研修やツールも用意します。面談シートやミーティングシート、店長塾などです。

――そのほか、ESを知ることでどんなことがわかるのでしょうか?

 ESが高い店は、チームや環境に対する満足度が高く、ESに課題がある店は、リーダーシップに問題がある傾向が強いですね。リーダーに必要なのは肩書きではなく、「あの人についていきたい」という共感。リーダーシップを正しく育てることはとても重要です。

 また、ESをCSや業績と合わせて見ることにも意味があります。たとえCSと業績がよくても、ESが低ければ、近い将来、離職するスタッフが増え、人手不足に陥る危険性が高いと言えるでしょう。栓を閉めないバスタブにどれだけ水を入れても、水がたまらないのと同様に、ESが低い店はいくら人材を採用しても、いつも人が足りない状況になります。バスタブの栓を閉めるように、ESを高める取り組みが大切なのです。

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