2025/11/04 コラボ企画

【東京・王子】 老舗居酒屋「宝泉」コの字カウンターの舞台裏!3杯限定の“カタイ”生ホッピー

東京23区内では目立たずとも、呑兵衛の間では大本命。東京都北区王子は古き良き酒場が残るディープな街だ。この地で約50年間、看板を灯し続ける老舗の名店がある。数々のドラマ作品にロケ地としても提供し、注目を集め続ける大衆酒場「宝泉」二代目店主・濱 嘉孝さんに、お店と街の今昔(こんじゃく)を伺った。

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※スマイラー115号(2025年9月)より転載

老舗酒場「宝泉」が守る、空間と流儀

二つの名物カウンター

店内はコの字とロの字、二つのカウンターがゆったりと対に配置されている

JR王子駅から徒歩5分、「宝泉」の看板は17時に灯る。縄のれんをくぐって戸を引くと、眼の前に広がるノスタルジックな風景に痺れる。店内はコの字とロの字、二つのカウンターがゆったりと対に配置されている。合わせて38席、隣席とほどよい距離で配された低めの椅子に腰掛けると、カウンター内でテキパキと立ち働く女将さんや焼き場のスタッフ、対岸の席で一献傾ける常連客に、ずらりと貼られた手書き短冊。そしてそれらの後ろで琥珀色に染め上げられた壁一面が、この店の歴史をなによりも饒舌に物語る。どの席に通されても、店内の情景をパノラマで味わえる「特等席」になるのが不思議な設計だ。

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「それぞれのカウンターに一人ずつ立てば店は、回せるんです」と穏やかに話すのは二代目の嘉孝さん。同店の名物でもある個性的なレイアウトは、客の目を癒やすのみならず、オペレーションの面でも合理的なのだそう。接客2名、厨房2名の4名での安定感ある営業は、オーダーの通し方も独特だ。少し距離のある裏方まで響く絶妙な声量とトーンで、注文内容をカウンターの中から地声で届ける。落ち着く才色兼備のカウンターに、無駄がなく洗練された店員の所作。この酒場には目でも酔わされる。

呑兵衛が唸る“カタイ”生ホッピー

型破りな濃さの同店名物メニュー「生ホッピー」

店の名物メニューといえば、迷わず「生ホッピー」(ジョッキ630円)。聞くところによると、生樽ホッピーが飲める店は年々減っており、今では東京都内で数えるほどしかないという。そんな希少な生ホッピーを、腰が抜けるほど濃く作るのが宝泉流だ。呑兵衛の間で“カタい”と表現される高濃度ゆえに「注文は3杯まで」に制限されているが、言われなくともジョッキ3杯も飲めない。と見せかけて、爽やかな生ホッピーがアルコール感を隠す口当たりの良さのせいで、うっかり調子良く飲めてしまうから注意しなければならない。「うちのは足腰立たなくなりますよ」と嘉孝さんは笑う。

厚切りの「ハムフライ」。390 円とリーズナブル

おつまみの定番「やわりめ」(680円)は、醤油とみりんであたりめをやわらかく漬け込み炙ったオリジナルの肴。ジューシーな厚切りが嬉しい「ハムフライ」(390円)に、夏には自家製の「冷やし焼き茄子」(390円)など、リーズナブルな価格で大衆の味をそろえつつ、一つ一つに丁寧なおいしさが宿る。料理は「なるべく手作りすることと、旬のものを気に掛けること」をモットーとして、手間はかかるが枝豆も生から茹でる。冷え込む秋冬にはおでんを仕込み、季節の移ろいを感じさせる「本日のおすすめ」の掲示も欠かさないなど、常連客を飽きさせないメニューづくりに尽力する。

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働く人に愛された、街の酒場

17時に灯る「宝泉」の看板

店の開業は1975年頃にさかのぼる。嘉孝さんのお父さまが脱サラをして、夫婦で商売を新たにスタートさせた。知人の紹介で決めた王子の地は、横浜から越してきた一家にとって縁もゆかりもなかった。数年間別の商売を経たのち、二人はゼロから居酒屋ののれんを掲げることに決めた。

王子は当時、働く人の街だった。渋沢 栄一の導きで製紙業が芽吹いた「洋紙発祥の地」で、お札をつくる国立印刷局に始まり、大手企業の支店も数多く置かれたこの街にはサラリーマンが溢れていた。飲食経験のない二人は手探りで、煮込みと数品のメニューのみから営業を始めると、近隣企業で働く人々に気に入られてほどなく賑わうように。繁盛してからは板前を雇って厨房を任せ、その頃に作られたメニューが、現在のお品書きのベースになっているそうだ。

ところで、宝泉の生ホッピーはどうしてこんなに濃いのだろう? 素朴な疑問を伺うと、その意外な理由に驚かされた。先代ご夫婦も嘉孝さんも、実は下戸でまったくお酒を飲まない。「お母さんがどれくらいのナカが適量なのか分からないから、ジョッキの半分くらいまでドボドボ入れていたことが始まり」なのだという。そんな型破りの濃さがサラリーマンの心をつかんで離さず、噂を呼んでいつしか「宝泉の味」として定着した。その割合を今でも変えない気前の良さには頭が上がらない。

「深入りしない」接客の流儀

大衆酒場「宝泉」二代目店主・濱 嘉孝さん

カウンターを始めとした味のある造作は、創業時からそのまま使い続けているという。小学生の頃からずっと見てきたこの光景を守っていくことは、二代目の嘉孝さんにとって自然なことだった。モーレツな働きっぷりだった先代はとにかく休まず店を開け、お母さまが一時入院した時には店が心配なあまり、点滴を自分で引っこ抜いて帰ってきてしまった、なんて武勇伝もあるそうだ。嘉孝さんは若い頃から店を手伝っていたが、30代を前にして本腰を入れる決意を固めた。他の居酒屋で修業して回ったのち、板前さんからバトンタッチで同店の厨房へ。先代とともに忙しく店を作り上げる日々を経て、店主の座を受け継いだのは、お父さまが亡くなられた10年前のこと。このタイミングで、二代目としての覚悟も新たなものになった。

接客担当のお母さまから繰り返し教え込まれたのは「深入りしない」こと。店側からは踏み込まず、ほどよくお客様を放っておく。なぜなら来店客は一人にしても複数にしても、食事や会話の時間を楽しむために来ているから。「こちらが楽しませてあげるんじゃなくて、楽しんでもらう場を用意するのがうちの仕事です」。適度な距離感を保ちながら、注文や会計の際には自然に一言二言交わす。この温度感がどうにも居心地よく、つい足が向く理由が分かった気がした。

ただしこの空気は、うわべだけでは真似できない熟練の目配りによって保たれている。放っているようでその実、客席全体をとてもよく見ているのだ。新規客を通す席はフロアを瞬時に読んで決め、卓同士のコミュニケーションも静観して、必要に応じて声を掛ける。それは「目を光らせる」というよりも「見守る」に近い感覚だ。中でも、店主の同級生で長年店を手伝うスタッフは、特に女性客の周りの治安に目を配る。声を掛けられた方も気を遣うから、あからさまに嫌がっているかどうかは一見して分からない。「私は女性の味方ですから」と毅然とした姿勢の彼女は、客同士の和やかな雰囲気を締めすぎず緩ませすぎず、この場の手綱を握っている。筆者も以前飲みに来た際、彼女にスマートな助け舟を出してもらったことがあり、その記憶はこの店への信頼に深く紐づいている。

店の風景を見て、訪れたことはなくともピンと来た方がいるかもしれない。この名カウンターは、数々のドラマ作品やTV番組にもロケ地として登場している。「はぐれ刑事純情派」に始まり、「吉田類の酒場放浪記」「ワカコ酒season4」「今夜はコの字でseason2」と、昨今の酒場ブームを牽引する人気作品にも撮影場所を快く提供する。時代の流れもあり最近は、若者や女性客もぐっと増えてきた。世代の入り混じる店内では、いっそのこと「声掛け禁止」と張り出してしまう方が楽なのかもしれないけれど、そんな空間はほんの少しだけ粋に欠ける。人の縁を生む場でもある酒場文化の番人の役目も、宝泉のみなさんは担ってくれているように思える。

舞台の裏方に立ち続けて

コの字カウンターは舞台である。内側が壇上のようだがその逆で、卓を囲むお客様がこの夜の主役。彼らがゆるりと過ごせるように空間を整え、見守ることが店の仕事だ。長い常連ではもう30年近く顔を合わせる人も居るけれど、お名前は伺わないし住んでいる場所も知らない。酒場特有のそんな不思議な人間関係が続いていくのは、ここに「宝泉」が半世紀、変わらずあり続けてくれるから。

これからの展望について嘉孝さんは「行き当たりばったりですけどね」とはにかみながらも、お店がこの先も続いていく未来を疑いなく見据えている。現在、厨房を担う三代目候補の甥っ子と、御歳84歳を迎えるお母さまもまだまだ現役とロの字に立つ。先代と次世代、働き手のことも見守りながら二代目は、今日も舞台をたおやかに整える。

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