2代目社長は元・公認会計士。「串カツ田中」を選んだ理由と今後の戦略を聞く

化学メーカー勤務を経て、公認会計士になった坂本壽男氏。飲食業とは無縁だった彼は、なぜ株式会社串カツ田中に入社し、創業者の貫啓二氏から代表の座を引き継ぐことになったのか。代表交代の経緯と交代後の展開、そして今後の展望を聞きます。

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更新日:2023.10.25

今必要なのは“働きがい改革”。成果をしっかり社員に還元し、いい循環を作っていくことが私の仕事だと考えています。

慶應義塾大学卒業後に化学メーカーに勤務し、その後、公認会計士になった坂本壽男氏。そこで「串カツ田中」の創業者・貫啓二氏と出会った彼は、公認会計士として独立する道を捨て、「串カツ田中」のCFO(最高財務責任者)の道を選択します。

その後、同社の一部上場や店舗の全国展開の一翼を担った坂本氏は、コロナ禍の真っただ中に、貫氏から代表取締役社長の座を引き継ぐことに。財務のプロを経て経営のトップに立った彼が見据える「串カツ田中」のポテンシャルと将来像とはどんなものなのか。代表交代の経緯や新業態への手応え、今後の経営ビジョンなどを聞きました。

目次
公認会計士時代に、監査法人で「串カツ田中」創業者と出会う
串カツ田中入社後は、CFOとして上場やホールディングス化に尽力
コロナ禍では財務体質を強化。そして、貫氏からバトンを受けて社長に
新業態を開発し、見据える先は海外展開。同時に従業員満足向上も目指す
「リーダー×一問一答」&「COMPANY DATA」

――2015年に株式会社串カツ田中にCFO(最高財務責任者)として入社されますが、それまでのご経歴を教えてください。

大学卒業後、化学メーカーに就職し、3年半ほど勤めました。その中で、自分はサラリーマンには向かないと思い始め、公認会計士になって独立を目指そうと考えるようになりました。会社勤めより独立が性に合っていたのは、親も含めて自営業の人に囲まれて育ったことも関係しているかもしれません。

化学メーカーを辞め、貯金を切り崩しながら食費を1日1,000円に切り詰め、早朝から深夜まで勉強を続ける日々を耐え、1年半後に国家試験に合格。公認会計士として大手の監査法人へ就職して、さまざまな企業の新規上場や上場企業の監査業務に携わりました。その数ある取引先の一つが株式会社串カツ田中だったんです。

監査法人での最後の2年間、私は未上場の企業へのアドバイザリー業務を行っており、創業者の貫(啓二氏、現会長)と何度も面会する機会がありました。そのときの「串カツ田中」は30店舗ほどの規模。社内体制に未整備な部分があり、上場には道半ばという状態でしたが、利益は増えていたし会社としてのエネルギーや勢いもありました。加えて、貫は数字に強く、几帳面でクレバー、人間的にも魅力的な経営者でした。「いい会社だな」と思った記憶があります。

そもそも私は、大学の4年間、アルバイトとして飲食店で働いてさまざまなことを教えてもらったので、飲食業界には親しみを抱いていました。18歳で上京したばかりの私にとって、その店は社会とつながる場所であり、社会人としての学びの場でもありました。オーナーにExcelの使い方を教えてもらい、PL(損益計算書)を作ったりもしていました。

ただ、飲食企業で働こうとは思っておらず、監査法人に就職した後も、10年勤めたら公認会計士として独立しようと決めていました。そして10年目に独立の準備を進めていたとき、偶然、街で貫に出会って「独立なんて大変だから、CFOとしてうちに来ないか」と誘われたのです。

独立の道しか考えていなかったので、その場では断りました。しかし、その後、独立の準備が整うとともに、「これから独立して、果たして成功できるのか。妻と子ども3人を養っていけるのか」といった不安が日増しに増えていき、貫の誘いの言葉を思い出すようになったんです。そして、もう一度話を聞こうと彼に電話をすると「あと1日、この電話が遅かったら、別の人をCFOにするところだった」と言われ、即決で入社を決めたんです。

1976年4月、長崎・島原生まれ。慶應義塾大学卒。産業ガスメーカーに勤務した後、2004年11月公認会計士に転身し、監査法人に転職。2015年退社し、同年2月、株式会社串カツ田中のCFO(最高財務責任者)に就任。2022年6月、前社長の貫啓二氏(現会長)から代表取締役社長を引き継ぐ

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――2015年2月に入社し、財務の最高責任者として一部上場を含めて会社の成長を支えてきましたね。

入社後は、上場に向けた準備のためにやることが山積していました。しかし、貫を先頭に全社員が一丸となって協力してくれたこともあり、普通は3年くらいかかるところを1年半で上場を達成することができました。

監査法人時代の経験からいえることですが、上場の準備がなかなか進まない企業の例として、会社の財産と社長個人の持ち物の区別が曖昧になっているケースが少なくありません。特に創業社長は、そうした部分を指摘してもなかなか改善ができないことが多いんです。しかし貫は、こちらが指摘するとすぐに改善策を実行に移してくれます。本当に会社が好きで、会社を大きくすることを第一に考えていることがよく伝わってきました。そんな社長だから、社員も信頼してついてくるのです。どの社員も真面目で意欲的だし、チームワークもいい。私としても仕事がやりやすく、楽しくて、入社して良かったなと思いました。

その後、2016年9月に東証マザーズに上場。2018年6月にはホールディングス化して、2019年6月には東証一部への上場を果たしました。出店も順調で、2015年12月に100店舗、2018年7月に200店舗、2019年7月に250店舗を達成しました。

「串カツ田中」がここまで成長できた要因は大きく3つあると考えています。まずは「商品力」。衣・ソース・油のそれぞれに工夫があり、3者の絶妙なバランスが生み出す味わいは、簡単に真似ができません。2つ目が、「スタッフの明るいおもてなし」。これも貫らが育てた企業風土と社員教育のなせる技で、当社ならではの財産です。3つ目が、「入りやすい店舗デザイン」。居酒屋業態ですが、女性や子ども連れでも入りやすく、幅広い層に支持されたことも成功のポイントになったと思います。

主力ブランドの「串カツ田中」は、コロナ禍で大打撃を受けるも、客の戻りも早く店舗数も順調に増加。その強みは「商品力」「スタッフの明るいおもてなし」「入りやすい店舗デザイン」にあるという

――コロナ禍にはどのように対応したのでしょうか。また、代表交代の経緯も教えてください。

コロナ禍による打撃は相当なものでした。それまでは売上が前年を超えるのが当然で、1%でも割り込んだら大騒ぎでしたが、一気に50%に落ち込みましたから。CFOとしては会社を潰さないことを第一に考え、銀行と交渉して融資を引き出しましたが、当初は不安もありました。

家賃比率の高い店など一部は撤退しましたが、「国内1,000店舗」という長期目標に向けてブレることはありませんでした。この目標を達成すれば、全国どこでも串カツがあり、寿司などと並ぶ日本の食文化になれるからです。「コロナ禍だからといって足踏みはしない、目標に向かって粛々と前進しよう」というのが貫の方針でした。

実は売上の戻り具合も順調で、居酒屋業態の戻りが概ね50%と言われるなかで、「串カツ田中」は70~80%の戻り。小規模店舗が多く少人数のプライベート使いがメインだったこと、2018年の全店禁煙によってファミリーも取り込めていたことが幸いしました。出店ペースはやや落ちましたが、2021年10月には300店舗を達成しました。

貫から社長への就任を打診されたのは、300店舗達成から4カ月後の2022年2月でした。「自分は300店舗を達成した。これ以上大きくするにはM&Aを進めていく必要もあるし、財務の知識が豊富な坂本さんのほうが適任だ」ということでした。まったく予期せぬことに驚きましたが、もともと独立願望があり、社長職への憧れがあったのも事実です。ここで社長を任せてもらえるなら、やってみたいと思い、引き受けることにしました。

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――新たなステージに踏み出したのですね。今後の展開と展望を教えてください。

コロナ禍が始まる前に準備を始めたことに、「串カツ田中」に続く第2、第3の矢(業態開発)があります。2020年3月に子会社として株式会社セカンドアローを設立し、直営ブランドとして出店したのが「鳥と卵の専門店 鳥玉」(2020年9月出店)と「タレ焼肉と包み野菜の専門店 焼肉くるとん싸다」(2022年3月出店)です。

前者は、株式会社みたのクリエイト(沖縄)から譲渡を受けた非アルコールの食事業態。海外進出を念頭に置き、宗教的な理由などでタブーな国が少ない食材の卵と鶏肉をメインにしたメニューを売りにしています。後者は、国内で定着した感のある韓国系の焼き肉業態。アルコール比率は20%で、「串カツ田中」(40%)よりやや低く、食事需要も取れると考えています。どちらもコロナ禍による外食シーンの変化にマッチし、若い客層を開拓できる業態で滑り出しは順調です。

  • 商業施設のフードコートを中心に店舗展開を進める「鳥と卵の専門店 鳥玉」。名物の「ごろごろたまごたっぷり黄金タルタルチキン南蛮」(単品869円)などが人気
  • 韓国系の焼き肉業態「タレ焼肉と包み野菜の専門店 焼肉くるとん」。トレンドも相まって、若い女性を中心に集客している

加えて、2021年にアメリカで合弁会社を設立し、2022年6月にアメリカ北西部にあるポートランドにカツサンド専門店「TANAKA」を出店しました。日本のカツサンドの文化を世界に発信できる業態に成長させ、本格的にアメリカでの店舗展開を進めたいと考えています。

  • 2022年6月、アメリカ・ポートランドにオープンしたカツサンド専門店「TANAKA」。テイクアウトはもちろん、イートインスペースも備える
  • 「TANAKA」では、「カツサンド」(左、12ドル)や「メンチカツバーガー」(右、14ドル)などが好評

国内ではコロナ禍前の売上と活気を取り戻すことが、短期的な目標です。以前はインバウンドには積極的ではありませんでしたが、今後はしっかり対応して、海外の「串カツ」ニーズに応えます。2022年末からは、インバウンドを意識して、「串カツ田中」の全店舗で、ケチャップと甘辛マヨタレを付けて食べる「田中のフィッシュ&チップス」(790円)を打ち出しました。

2022年12月から全店舗で「田中のフィッシュ&チップス」(写真790円)を販売。今後増えるであろうインバウンドの獲得を狙っていく

一方で、従業員満足度を重視した経営を目指し、全店舗を回っての店長面談にも取り組んでいます。ステークホルダーは株主や銀行、取引先などさまざまですが、一番大切なのは社員。彼らが意欲を持って楽しく働くことができてこそ、お客様に喜んでいただくおもてなしへとつながり、それが“働きがい改革”になると思っています。意欲を持って働いてくれた結果を評価や報酬として従業員にしっかり還元し、いい循環を作っていくことが、私の仕事だと考えています。

同時に、外食の価値は「おもてなし」ですから、スタッフが接客に集中できる環境づくりも進めます。仕入れの自動発注システムの開発と導入もその一つ。こうしたDX化による生産性の向上を給料に反映し、より一層、働きがいのある会社にしていこうと考えています。

リーダー×一問一答

■経営者として一番大切にしていること
先を読むこと

■愛読の雑誌やWebサイト
「日経ビジネス」

■日課、習慣
経営のことを考えること

■今一番興味があること
串カツ田中の串カツを広めること

■座右の銘
楽しむセンス

■尊敬している人
稲盛和夫(実業家。京セラ・第二電電創業者)

■最近、注目している店舗・業態
「スターバックスコーヒー」「丸亀製麺」「マクドナルド」。ブランドが強いチェーンだから

■COMPANY DATA
株式会社串カツ田中ホールディングス
東京都 品川区東五反田 1-7-6 藤和東五反田ビル 5F
https://kushi-tanaka.co.jp/
設立:2002年
店舗数:316店舗※2022年12月末時点
従業員数:3,133人(社員431人)※2022年12月末時点

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